もやもや病と診断された場合、その進行度に応じて内科的治療が施されます。しかし、症状の改善がみられない場合には手術が検討されることも少なくありません。今回は、NTT東日本関東病院 脳神経外科 部長の井上 智弘先生に、もやもや病のさまざまな治療選択肢についてお伺いするとともに、同院が特に力を入れている直接血行再建術(直接バイパス術)についても詳しくお話を伺いました。
もやもや病の治療には、内科的治療と外科的治療の2つがあります。さらに、外科的治療には、間接血行再建術と直接血行再建術(直接バイパス術)の2つの術式があります。
内科的治療とは手術以外の治療をいい、もやもや病の場合は主に血液を固まりにくくする薬(抗血小板薬)を使います。脳への血流が不足している場合には、抗血小板薬を投与することで、できるだけスムーズに血液が行き渡るように促します。細いもやもや血管に負荷がかかる(血圧が上がる)ことで今度は出血のリスクも伴うため、血圧の管理も行います。
なお、虚血型で発症した場合は2つの抗血小板薬を使った処置(抗血小板薬2剤併用療法:DAPT)が必要になり、高い効果が期待できる分、出血のリスクも高くなります。手術で血行再建ができれば、これよりも出血合併症の少ない処置(抗血小板薬単剤療法:SAPT)あるいは、さらに少ない量の抗血小板薬で様子を見られる可能性もあるため、基本的には血行再建術が有効です。
間接血行再建術は、脳に直接血管をつなぐのではなく、血流の多い組織を脳の表面に移植し、そこから新しい血管が脳へ伸びてくるのを促す手術方法です。この手術では、脳の表面を覆う硬膜をひっくり返して脳の表面に接着したり、あるいは側頭筋を脳の表面に接着したりします。これにより、接着した組織から新しい血管が脳へと伸びていき、脳の血流が改善されることで、もやもや病の症状が和らぐことが期待されます。ただし、この間接血行再建術は、血流が盛んな頭の筋肉を持つ若い年齢の患者さん(小児を含む)に適した術式とされています。血管が新生するまでには約3週間から1か月を要します。
直接血行再建術とは、浅側頭動脈と中大脳動脈をつなげる手術の方法です(浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術)。これは、頭皮の浅い部分にある浅側頭動脈という血管を剥離し、脳の表面にある中大脳動脈や前大脳動脈の枝に直接つなぎ合わせる手術です。これにより、浅側頭動脈から直接、脳へ血液が供給されるようになるため、脳の虚血状態を改善することができます。
合併症の中でも特に注意が必要なものは創部感染と過灌流症候群の2つです。
開頭した部位の皮膚や組織に細菌が感染することで手術部位感染は起こります。そのため術後2週間は入院し、手術部位の観察や消毒を行います。感染の原因菌は皮膚常在菌である黄色ブドウ球菌やレンサ球菌のため、これらの感染を予防するために抗菌薬を投与します。
血行再建術(特に直接血行再建術)後は、まれに脳出血などを引き起こすことがあります。これは血流が急激に増加し脳が対応しきれないことで、過灌流症候群が生じているためです。過灌流症候群により血流が増えた領域の隣接部位に脳虚血が起こる場合もあります。血流が安定するまでには約7~10日かかります。
当院の直接血行再建術では、単に1か所を吻合するだけでなく、より広範囲の脳血流を改善するために工夫を凝らしています。具体的には、浅側頭動脈を比較的長く剥離し、その途中から分岐する複数の枝を利用して、中大脳動脈の領域内で2か所、あるいは3~4か所と多点的に吻合を行います。
さらに、患者さんの状態や病変の広がりによっては、中大脳動脈の領域を超えて、脳のより広い動脈領域(たとえば、前大脳動脈の一部など)まで浅側頭動脈の枝を持ってきて、追加で吻合を行うこともあります。このように複数の箇所で吻合を行うことで、より多くの脳領域に効率的に血流を供給し、広範囲の虚血の改善を目指します。また、2か所以上を吻合していることで、吻合した箇所が1か所狭窄したとしても、残りの吻合箇所によって血流を確保し再発を防ぐようにしています。
直接血行再建術は、脳外科手術の中でも高度な技術を要するものです。手術用顕微鏡を用いて、脳外科医が血管を一針一針縫っていきます。
特に小児のもやもや病手術では、その繊細さゆえに高度な技術が要求されます。たとえば、20倍に拡大できる手術用顕微鏡を使用し、直径0.5mmほどの細い動脈と1mm程度の動脈を吻合するといった非常に精密な作業が必要です。
当院の脳神経外科医は、このような難易度の高い手術にも対応できるよう、日々研鑽を積んでいます。
当院では、手術日の3日前には入院していただき、最終的な状態を確認するために血管造影などを行い手術の準備を進めていきます。手術後は、基本的に約2週間の入院となります。退院後もさらに2週間の自宅療養をお願いしています。そのため、入院から術後を含めて約1か月は仕事や学校をお休みいただくことになります。
これは創部の状態をしっかりと確認してから退院していただくためです。またリハビリテーション(以下、リハビリ)が必要な場合は、当院で入院している間は理学療法士が行い、退院後はリハビリを専門とする病院をご紹介しますので、そちらで行っていただくことになります。
退院2週間後に当院で経過を見せていただき、その後は状態に応じて2~3か月に1回程度通院していただく形となります。
NTT東日本関東病院 脳神経外科 部長
「もやもや病」を登録すると、新着の情報をお知らせします
本ページにおける情報は、医師本人の申告に基づいて掲載しております。内容については弊社においても可能な限り配慮しておりますが、最新の情報については公開情報等をご確認いただき、またご自身でお問い合わせいただきますようお願いします。
なお、弊社はいかなる場合にも、掲載された情報の誤り、不正確等にもとづく損害に対して責任を負わないものとします。
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。