概要
インスリノーマとは、血糖値を低下させるはたらきを持つインスリンというホルモンを過剰に分泌する腫瘍のことです。膵臓のβ細胞というインスリン分泌細胞から発生する腫瘍であり、発症すると低血糖による震えや気分不良、発汗などの症状が引き起こされ、重症な場合には意識を失ったり、けいれんが生じたりすることも少なくありません。これらの症状は特に血糖値が低くなりがちな運動時や空腹時に起こりやすく、ブドウ糖を補給すると症状が改善するのが特徴です。
インスリノーマの多くは良性ですが、約1割は悪性であり、遺伝子異常によって起こる家族性の“多発性内分泌腺腫症1型”では腫瘍が多発性の場合もあります。
なお、根本的な治療方法は手術による腫瘍の摘出です。
原因
インスリノーマとは、血糖値を下げるホルモンであるインスリンを分泌する膵臓β細胞から発生する腫瘍のことです。インスリノーマは膵内分泌腫瘍の1つで、MEN1、DAXX/ATRX遺伝子などの体細胞変異が原因となります。約10%はMEN1遺伝子の胚細胞変異によって引き起こされる多発性内分泌腺腫症1型の1つの症状として現れ、一般的なインスリノーマは50歳前後で発症するのに対して、この病気が原因のインスリノーマは20歳代で若年性に発症しやすいのが特徴です。
また、そのほかにも神経線維腫症1型や結節性硬化症など腫瘍ができやすくなる病気の症状の1つとして発症するケースも知られています。
症状
インスリノーマはインスリンを過剰かつ自律性に分泌する性質を持つ腫瘍です。そのため、この病気を発症するとインスリンが増加して低血糖になりやすくなります。その結果、一般に運動時や空腹時などに低血糖状態となり、手の震え、動悸、発汗、脱力などの自律神経刺激症状や、さらに進行すると頭痛、錯乱、神経麻痺、筋力低下、視覚の異常などの中枢神経症状が現れます。
重症な場合にはけいれん発作や意識消失などが生じることも少なくありません。また、これらの症状は糖分を補給すると速やかに改善するのが特徴です。
検査・診断
インスリノーマが疑われるときは次のような検査が行われます。
血液検査
インスリノーマの診断には、血液検査により特に空腹時の血糖値やインスリン値、C-ペプチド値などの測定が必要です。インスリノーマでは低血糖時に血液中のインスリン値やC-ペプチド値が高いことが特徴であり、過剰なインスリンが脂肪の分解を抑制するため遊離脂肪酸なども少なくなります。
また、上述した多発性内分泌腺腫症1型の可能性が考えられる場合は、ほかの膵臓内分泌ホルモンや下垂体ホルモン、血清Ca、P、PTH値などを調べることもあります。
画像検査
腫瘍の存在を確認し、位置や大きさ、転移の有無などを評価するために超音波(特に超音波内視鏡)、造影CT、造影MRIなどによる画像検査が必要です。
選択的動脈内刺激物注入試験
腫瘍のサイズが小さく画像検査で発見できない場合には、膵臓や十二指腸に近い部分を走行する動脈にカテーテル(医療用の細い管)を挿入してインスリン分泌を促す薬剤(カルシウム)を注入し、静脈血中のインスリン値の変化を調べることで腫瘍がどの部分の動脈によって栄養されているかを調べる検査です。比較的侵襲性のある検査ですが画像では見つからないような直径5mm以下の腫瘍の局在診断も可能で、手術でどの範囲を切除するか判断する重要な指標にもなっています。
治療
インスリノーマと診断された場合は、食事指導などを行いながら低血糖を予防し、低血糖が生じた場合はブドウ糖輸液などによる対症療法を行います。また、低血糖発作の予防にはジアゾキシドやオクトレオチド、エベロリムスなどの薬剤が有用です。
しかし、インスリノーマの根本的な治療は手術による切除です。手術によって切除する範囲は腫瘍の位置や大きさによって異なりますが、悪性が疑われる場合は肝臓や周辺のリンパ節切除も必要になることがあります。
予防
インスリノーマの確実な予防法はありません。しかし、遺伝性の多発性内分泌腺腫症1型などの症状の1つとして現れることがあるため、家族にこのような病気の人がいて、低血糖によるものと考えられる症状が繰り返される場合は、できるだけ早めに医師に相談しましょう。
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