概要
オクシピタル・ホーン症候群とは、体内の銅の量が不足することから皮膚や血管などに異常を示す病気のひとつです。オクシピタル・ホーン症候群は、ATP7Aと呼ばれる遺伝子に異常が存在することで発症します。同じ遺伝子異常を伴う病気には「メンケス病」と呼ばれるものが知られていますが、メンケス病に比べて症状がよりマイルドであり軽症です。
オクシピタル・ホーン症候群は、日本においては難病指定を受けている病気のひとつです。68万人に1人の発症率であり、ほとんどは男性に発生すると報告されています。オクシピタル・ホーン症候群に対しての根本的な治療方法は存在せず、症状に合わせた支持療法が中心となります。遺伝性疾患の側面も持っているため、遺伝カウンセリングの必要性もある病気です。
原因
オクシピタル・ホーン症候群は、ATP7Aと呼ばれる遺伝子に異常が存在することで発症します。ATP7A遺伝子は、金属の1種類である銅を体内で正常に保つために必要不可欠な遺伝子です。銅はさまざまな酵素が正常にはたらくために必須な物質であり、細胞が正常に機能するためになくてはなりません。その一方、過剰に存在すると身体に対して毒性を示すことになります。それゆえ、銅は適量で調整されている必要がありますが、ATP7A遺伝子はこの役割の一端を担っています。
オクシピタル・ホーン症候群で見られるATP7A遺伝子異常では、銅の機能調節が完全に障害を受けている訳ではなく、ある程度のレベルで銅の調整をすることが可能です。しかし、それでも銅の代謝には一定の障害は生じており、オクシピタル・ホーン症候群でみられるような症状が引き起こされることになります。オクシピタル・ホーン症候群では、銅の吸収が低下しており、さまざまな酵素障害を通して細胞に影響がおよぶことになります。なお、本遺伝子異常は、同じく銅代謝異常のひとつである「メンケス病」でも同様であり、遺伝子異常の生じ方が異なると考えられています。
ATP7A遺伝子は性染色体の異種類である「X染色体」に存在しており、オクシピタル・ホーン症候群は「X染色体劣性遺伝」と呼ばれる遺伝形式をとります。X染色体は女性では2本持つのが通常ですので、2つのATP7A遺伝子を持ちます。そのため1本にATP7A遺伝子異常を示していても、もう片方のX染色体が正常なATP7A遺伝子を持つことが多いです。それゆえ、女性では多くの場合オクシピタル・ホーン症候群の症状は発症せず、病気の保因者となります。しかし、男性はX染色体を1本しか持っていませんので、ATP7A遺伝子異常を持つと、その異常をカバーする正常なATP7A遺伝子が存在しません。それゆえ、男性の場合はATP7A遺伝子異常を持つことは病気の発症につながります。
症状
オクシピタル・ホーン症候群の症状がみられる時期は、ATP7A遺伝子異常の程度に応じてさまざまであり、1〜10歳と幅があります。症状がみられる部位は、皮膚、筋力が多いです。皮膚に見られる症状としては、皮膚を引っ張ると伸びやすいという特徴があります。筋力は低下することが多く、歩行の獲得は同年代のお子さんに比べるとゆっくりです。小脳失調を伴うことが多いことから、歩行は不安定であるということもあります。
また、血管の蛇行や、膀胱憩室に伴う繰り返す尿路感染症、慢性の下痢、鼠径ヘルニア、骨粗しょう症、体幹や四肢の変形(漏斗胸や側弯など)などを示すことがあります。軽度の知的障害を伴うことがありますが、正常なこともあります。
検査・診断
オクシピタル・ホーン症候群では、血液検査にて銅の体内での代謝状況を確認します。具体的には、血液中の銅濃度低下、銅の代謝に関連した「セルロプラスミン」と呼ばれる物質が低いことが確認されます。
オクシピタル・ホーン症候群では、その名前の由来として後頭部の下の方に小さな角状の骨が見られることが特徴であり、頭部レントゲン写真で確認します。ほかの画像検査として膀胱憩室を確認するための超音波検査・CT、血管の蛇行を確認するためのMRAなどが行われます。
皮膚の組織を用いた病理検査が行われることもありますし、ATP7A遺伝子異常を確認するための遺伝子検査が行われることもあります。
治療
オクシピタル・ホーン症候群の根本治療は存在せず、症状に合わせた対症療法が行われます(2019年時点)。介入が必要な症状としては、膀胱憩室に伴う繰り返す尿路感染症があります。尿路感染症状(排尿時痛や頻尿など)がある際には、早期に抗生物質の使用を検討することになります。また、筋力低下に伴い歩行に障害がおよぶことも多いため、症状の程度に応じた介護体制を敷くことが重要です。
オクシピタル・ホーン症候群は、遺伝性疾患の側面を持ちます。病気を抱えるお子さんの兄弟や、ご自身のお子さんへの影響などの理解を深めるためにも遺伝的カウンセリングを行うことも大切です。
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