概要
オピオイド誘発性便秘症とは、オピオイドという鎮痛薬の服用によって排便がスムーズに行われない状態です。
オピオイドは脳や脊髄に作用して痛みを和らげる薬で、モルヒネ塩酸塩水和物やフェンタニルクエン酸塩、オキシコドン塩酸塩水和物などの種類があります。一方で、吐き気や眠気を生じることがあるほか、腸の動き(腸の蠕動運動)の低下や、腸液の分泌量が減ることで便秘を起こすことがあります。
緩和ケアを受けているがん患者を対象に行われた調査によると、オピオイドを使用している患者の約60~90%が便秘であることが分かっています1。
オピオイド誘発性便秘症は、オピオイドを内服している間、便秘症状が続くため、ストレスなど精神面にも影響が及ぶ可能性があり、QOL(生活の質)の低下につながるといわれています。治療法として、便を排泄しやすくする緩下薬の使用や浣腸などが行われるほか、2017年にはオピオイド誘発性便秘症の治療薬(ナルデメジントシル酸塩)が保険適用となりました。
原因
オピオイド誘発性便秘症は、手術中や手術後の痛み、外傷、悪性腫瘍、神経障害性疼痛などの痛みを和らげるために、オピオイドを内服することで引き起こされます。
痛みは、体内に存在する痛みの受容体*が刺激を感知して、脳にその信号が伝わることで認識されますが、オピオイドを使用すると、痛み刺激の代わりにオピオイドの成分が受容体に結合するため脳に刺激が伝わりづらくなり、痛みを感じにくくなります。
しかし、腸などの消化管に多く存在する“オピオイド受容体”にオピオイドが結合することで、腸の動き(蠕動運動)の低下や、腸液の分泌量の減少、排便の際に緩む肛門括約筋が緊張するなどして便秘となることがあります。
*内分泌や神経、免疫などに関わる神経伝達物質やホルモンなどを受け取り、細胞の核に情報を伝えるタンパク質。
症状
オピオイドを内服することで、副作用として便秘がみられます。排便回数の減少やコロコロとした硬い便の排泄、便を出してもすっきりしない、いきまないと便が出ないなど、症状は患者によってさまざまです。
便秘の定義は“本来排泄すべき糞便が大腸内に滞ることによる兎糞状便・硬便、排便回数の減少や、糞便を快適に排泄できないことによる過度な怒責、残便感、直腸肛門の閉塞感、排便困難感を認める状態”(『便通異常症診療ガイドライン2023』)とされており、単に便が出ないだけでは便秘とはいえず、症状の程度には個人差があります。
便秘の状態が続くことで、ストレスや不安など精神面に悪影響を及ぼすこともあります。また、オピオイドを内服する副作用として、便秘のほか吐き気や眠気を伴うこともあります。
検査・診断
オピオイドの使用中に便秘を認める場合は、オピオイド誘発性便秘症を疑い、問診や腹部の診察を行います。
問診では、排便回数や腹部症状、便の性状などを確認します。腹部の診察では、聴診器を使って腸の蠕動音を聴取したり、触診を行い腹部の張りの有無を確認したりします。
治療
オピオイド誘発性便秘症の治療では、生活習慣の改善指導や薬物療法、浣腸などが行われます。
便秘の原因には、オピオイドだけでなく食事や運動習慣も挙げられます。そのため、患者の状態に応じて十分な水分や食物繊維の摂取、適度な運動などを行うよう指導されることがあります。
薬物療法では、排便をコントロールするため以下のような緩下薬が用いられます。
- 酸化マグネシウム、ラクツロース……便を軟らかくする作用があります。ただし酸化マグネシウムは、腎機能が低下している患者では高マグネシウム血症を起こすことがあるため注意が必要です。
- ルビプロストン……腸液の分泌を促進させます。
- センノシドA・Bカルシウム塩、ピコスルファートナトリウム水和物……腸の動きを促進させます。
上記のほか、2017年からオピオイド誘発性便秘症の治療薬としてナルデメジントシル酸塩が用いられるようになりました。ナルデメジントシル酸塩は消化管のオピオイド受容体に結合することで、消化管におけるオピオイドの副作用を緩和させるはたらきが期待されます。
生活習慣の改善や薬物療法、浣腸などを行っても便秘が改善しない場合には、オピオイドの使用を中止したりほかの薬剤に変更したりするケースもあります。
参考文献
- Bruera E, et al (eds). Constipation and diarrhea. Textbook of Palliative Medicine and Supportive Care. 2nd ed. CRC Press, Boca Raton ; 2015. p559-568
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