ハンセン病とは、らい菌と呼ばれる細菌に感染することで起こる感染症です。ハンセン病を発症すると、皮膚の発疹や手足の麻痺、痛みや熱さを感じにくくなる知覚障害などの症状が現れます。
2018年現在、ハンセン病は、すでに有効な治療法が確立されています。今回は、国立療養所多磨全生園 園長(前 国立感染症研究所ハンセン病研究センター長)である石井 則久先生に、ハンセン病の症状と治療についてお話しいただきました。
ハンセン病の原因については記事1『ハンセン病の原因-原因の細菌に感染したら必ず発症する?』をご覧ください。
ハンセン病を発症すると、痛みやかゆみを伴わない皮疹(皮膚の発疹)が現れます。たとえば、白い斑点ができる白斑(はくはん)、赤い斑点ができる紅斑(こうはん)、円形に赤い発疹ができる環状紅斑(かんじょうこうはん)など、多彩な皮膚症状が現れる点が特徴です。皮膚症状は1か所のこともありますが、複数現れることもあります。
また、毛根や汗腺の障害によって、脱毛や汗が出にくくなる症状がみられることもあります。
さらに、手や足、顔の末梢神経に知覚障害が起こることが多いでしょう。
末梢神経に障害が起こると、痛みや温度を感じにくくなる知覚障害の症状が現れます。このため、ハンセン病の患者さんのなかには、大きな傷ややけどをしてしまう患者さんもいます。
また、治療前のみならず、治療中や治療後に、らい反応と呼ばれる強力な免疫反応が起こることがあります。らい反応では、神経や皮膚の急激な炎症によって、神経の麻痺や皮疹、運動障害などの症状が急速に現れます。
さらに重症になると、発熱やたんぱく尿(本来は尿に含まれないたんぱく質を高濃度に含んだ尿)、関節の腫れや炎症を伴う関節炎などの全身性の症状が現れることもあります。
このらい反応は、後遺症につながることがあります。たとえば、手足に神経麻痺が起こった結果、手が変形してしまい、そのまま動かすことができなくなる方もいます。
ハンセン病の重症度には、感染している菌の量や免疫力の状態によって個人差があります。
たとえば、皮疹が1個しかない人と、皮疹が10〜20個あるケースを比較すると、病変が多いほうが感染している菌の量が多いため重症化しやすいといえるでしょう。
また、免疫力が低下している状態では、より重症化しやすいと考えられています。
ハンセン病の診断では症状の確認とともに、菌を確認する検査で、らい菌への感染を確認します。
検査方法は、主に3つあります。まず、皮膚の一部を採取し、抗酸菌染色と呼ばれる菌が染まる検査によって確認する方法です。ほかにも、皮膚症状のある部位にメスを刺し、メスについた菌を染色する方法もあります。さらに、皮膚の一部を採取し、らい菌に特異的なDNAがないか調べる検査も有効であるといわれています。
日本では、ハンセン病の診断は、ハンセン病を専門とする医師が行うことが多いでしょう。皮膚科など患者さんが最初に受診した病院とハンセン病を専門とする医師が連携をとり、診断を行う体制が築かれています。
ハンセン病治療指針(第3版)によると、ハンセン病の主な治療法は、複数の薬を用いた多剤併用療法になります。菌を排除する複数の薬を半年から数年にわたり服用することで、治癒することが可能です。
きちんと薬を服用することが病気の進行を止めることにつながるでしょう。
また、ハンセン病の治療において、らい反応をいかにコントロールするかは大きな課題です。
らい反応に対しては、ステロイド(炎症を抑えたり、免疫の働きを弱めたりする薬)によるコントロールを推奨しています。また、らい反応の一つである、らい性結節性紅斑ではサリドマイドが有効ですが、使用には厳格な安全管理の手順が必要です。
ハンセン病の効果的な治療法がみつかっていなかった時代には、手足や顔面の変形などの後遺症が残ることがありました。しかし、有効な治療法がある2018年現在では、早期発見・早期治療によって後遺症が残ることはまれです。
しかし、治療後にらい反応が起こってしまうと、手足の変形など後遺症が残る可能性があります。治癒しても数年間は、死んだらい菌に対して免疫が活性化され、らい反応を起こす恐れがあるのです。
このため、治療によって症状が現れなくなったとしても、数年間は、経過の確認のため定期的に病院を受診してほしいと思います。
繰り返しになりますが、現代の日本では、たとえハンセン病を発症したとしても早期発見・早期治療によって後遺症を残すことなく治癒することが可能です。
また、日本では医師に向けたハンセン病の啓発活動などによって、病気を発見しやすい環境が整備されています。
診断を受けたとしても不安を感じず、決められた治療法を守っていただきたいと思います。
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