概要
ビリルビン脳症は、生まれたばかりの赤ちゃんに生じる“新生児黄疸”により起こる病気で、核黄疸とも呼ばれます。血液中に増加したビリルビンという色素が脳に沈着することによって、脳に障害をもたらします。
ビリルビンは赤血球に含まれる黄色い色素で、通常肝臓で処理されます。しかし、何らかの原因によって肝臓でうまく処理されずビリルビンの血中濃度が上昇すると、黄疸といって皮膚や白目が黄色く変色する症状が現れるようになります。生まれたばかりの赤ちゃんにはほとんどの場合、黄疸がみられます(生理的黄疸)。これは出生後の環境に適応する間に、血液中のビリルビンが一時的に増加することによって起こります。生理的黄疸は肝臓でのビリルビンの処理能力の発達とともに、通常1週間ほどで消失します。
一方、早産児や重篤な病気のある赤ちゃんなどでは、ビリルビンが生理的反応の範囲を超えて過剰に蓄積し、脳に沈着することがあります。すると脳に障害が起こり、難聴やけいれん、脳性麻痺、発達の遅れなどを招くことがあります。これがビリルビン脳症です。一度脳に障害が起こると治癒は期待できないため、早期発見と早期治療が重要です。
原因
ビリルビン脳症につながるような、ビリルビンの過剰な蓄積が起こる原因はいくつかあります。具体的には、胎児と母親の血液型が一致しないABO血液型不適合やRh式血液型不適合による赤血球の破壊(溶血)、遺伝性疾患、自己免疫性疾患などが挙げられます。
ビリルビンは通常血管内を流れていますが、上記のような原因により過剰になると、血液と脳の組織間でウイルスなどの外敵の侵入を防御する“血液脳関門”を通過して脳に到達し、ビリルビン脳症を起こすことがあります。
なお、ビリルビン脳症のリスク因子には以下のようなものがあります。
- 呼吸障害
- 新生児仮死
- 低体温
- アシドーシス*
- 低血糖
- 低タンパク血症
- 感染症
など
*アシドーシス:体内の血液が酸性に傾いた状態
症状
正期産で生まれた新生児の場合には、哺乳不良、甲高い啼泣、嗜眠*などの意識障害が現れることがあるほか、症状が進むとけいれんや体を弓のように反らせるような発作(後弓反張)などを生じ、重症の場合は亡くなることもあります。一方、早産児の場合には目立った症状がみられることが少ないです。
しかし、いずれも小児期になると筋肉の緊張が異常となるアテトーゼ型脳性麻痺、感音性難聴、上方を注視することができない上方注視麻痺、知的障害などを生じる例があります。ビリルビン脳症はかつて脳性麻痺の3大原因の1つとされていましたが、治療法が確立したことによって正期産児の発症頻度は激減しました。最近では早産児のビリルビン脳症がみられるようになっています。
*嗜眠:意識レベルが軽度に低下した状態
検査・診断
ビリルビン脳症では診断基準が確立されていません。これまでの知見から、現状では在胎週数や特徴的な筋肉の緊張や姿勢を表す運動発達の遅れ、頭部MRI検査や聴力検査の一種である聴性脳幹反応(ABR)などの結果から診断が行われています。
治療
ビリルビン脳症を予防するために、症状がみられなくても血中のビリルビン値が高い場合はさまざまな治療が行われます。
光療法
光療法は特殊な光源を体に照射することでビリルビンを水に溶けやすくし、胆汁の中に排泄させビリルビン値を低下させる治療法です。ビリルビン値が治療基準値を下回れば治療の中止を検討します。
交換輸血
光療法で治療効果が十分に得られなかった場合や、血液型不適合にて溶血がある場合には交換輸血の適応となります。
交換輸血は体内に循環する血液からビリルビンを速やかに除去するために、体内の血液を抜いて輸血による血液の補充を行う治療法です。白血球数の減少や無呼吸、肺出血などの合併症のリスクがあるため、副作用の出現に注意しながら行われます。
全身管理
低体温や低血糖、感染症、呼吸障害などを生じている場合は、ビリルビン脳症を発症するリスクが高い状態です。このような場合には、点滴や薬物治療、呼吸管理などを行います。
また、早期に光療法を開始することもあります。
そのほかの治療法
交換輸血が行えない場合などは、免疫グロブリンの投与が行われることがあります。免疫グロブリンは体内に存在するタンパク質の一種で、溶血が進行する速度を低下させる効果が期待できます。
ビリルビン脳症の合併症として嚥下障害や胃食道逆流症、呼吸器合併症などを認める場合には、状態に応じてリハビリテーションや経管栄養、気管切開などを検討することもあります。
予防
ビリルビン脳症を予防するためには出生後の黄疸の管理が重要です。特に早産児はビリルビン脳症の発症リスクが高いため、一般的にNICU(新生児集中治療室)で退院時までビリルビン値を含めた全身のモニタリングが行われています。
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