概要
ポイツジェーガース症候群(Peutz-Jeghers症候群)とは、消化管にポリープが多発することと、皮膚や粘膜にほくろのような色素が出現することを特徴とする疾患です。
消化管ポリープから慢性的な出血を繰り返すことで貧血を起こすことがありますし、腸重積といった緊急対応が求められる病態を生じることもあります。さらに、消化管及びその他の臓器におけるがんの発生リスクも高まることが知られています。
ポイツジェーガース症候群に対する根本的な治療はなく、貧血やがんなどの発生がないかどうかを定期的にチェックすることが重要になります。また、ポイツジェーガース症候群は遺伝性疾患としての側面を有するため、遺伝カウンセリングを行うことも検討されます。
原因
細胞が健康な状態を保つためには、規律正しく増殖することが必要です。しかし、がん細胞ではこうした規律正しい増殖が乱れてしまっており、無秩序に細胞が増えます。細胞が適切に増殖できるようにさまざまな仕組みが存在しますが、そのなかのひとつとしてSTK11と呼ばれる遺伝子が知られています。
ポイツジェーガース症候群ではSTK11遺伝子に異常が生じており、細胞の増殖がうまく調整できなくなってしまいます。その結果として、消化管ポリープの多発やがんの発生につながります。
ポイツジェーガース症候群は家族性に伝わることがある疾患であり、常染色体優性遺伝と呼ばれる遺伝形式をとります。常染色体優性遺伝では、両親のうちどちらかがSTK11遺伝子に異常を有しており、病気の発症者です。お子さんが病気を発症する可能性は、理論的には50%となります。ただし、家族歴がない状態で突然変異的にポイツジェーガース症候群を発症することもあります。
症状
ポイツジェーガース症候群は、消化管内でのポリープの多発、皮膚や粘膜の色素沈着によって特徴付けられる疾患です。
消化管のポリープ
小腸が好発部位ですが、胃や大腸などでも見られます。ポリープは出血を来しやすいことから貧血が引き起こされ、動悸や運動時の易疲労感、息切れ、顔色不良などの症状が出現します。
また、消化管内にポリープが存在すると、腸重積と呼ばれる状態を引き起こすリスクも高まります。腸重積では吐き気や嘔吐、腹痛、下血などの症状をみますが、悪化した場合は消化管が腐ってしまい、消化管切除を余儀なくされることがあります。
皮膚や粘膜の色素沈着
目の周りや鼻、口腔粘膜、肛門周囲、指などに見ることが多いです。こうした色素沈着は、年齢とともに薄くなります。
その他、ポイツジェーガース症候群ではさまざまな腫瘍性疾患を合併するリスクも高いことが知られています。女性であれば卵巣腫瘍を発症することがあり、思春期が通常よりも早く発来したり、生理不順となったりします。男性では精巣に腫瘍が発生し、乳房が女性のように発達することもあります。さらに、消化管、乳腺、膵臓などでがんが発症することもあります。
検査・診断
ポイツジェーガース症候群は、家族歴や色素沈着の存在から疑われます。
検査としては、血便や貧血のチェックのために便検査や血液検査が行われます。また、ポリープの存在を観察するために内視鏡検査や造影検査なども行われます。さらに、ポイツジェーガース症候群はSTK11遺伝子の異常に関連して発症する病気であることから、血液を用いた遺伝子検査も行います。
ポイツジェーガース症候群では、消化管や性腺(卵巣や精巣)、乳腺、膵臓などに腫瘍が発生することがあるため、内視鏡検査や触診、エコーやCTなどの検査を行い、早期発見に努めます。
治療
ポイツジェーガース症候群の根治的な治療方法は存在しません。消化管ポリープや色素沈着に対して、対症療法を行うことになります。そのため、定期的なチェックを行うことが重要です。
消化管ポリープが大きくなると腸重積の発症リスクが高まるため、定期的な画像検査を行います。ある一定以上の大きさを示すポリープは、内視鏡的に切除します。
腸重積を発症した場合には、手術的に整復を試みることもあります。腸重積の程度が強く進行した場合には、消化管切除を余儀なくされることもあります。
消化管ポリープに関連して、貧血が生じることもあります。この場合、ポリープからの出血を抑えることに加えて鉄剤を内服します。
ポイツジェーガース症候群は、遺伝性疾患としての側面も有しているため、遺伝カウンセリングを行うことも大切です。
医師の方へ
「ポイツ・ジェーガース症候群」を登録すると、新着の情報をお知らせします