概要
メープルシロップ尿症とは、生まれつき特定のアミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)を分解する酵素に異常があるために起こる先天性代謝疾患です。 分岐鎖アミノ酸(BCAA)であるバリン、ロイシン、イソロイシンは、肉、魚、牛乳、卵などたんぱく質を多く含む食品に豊富に含まれています。この病気は、これらの分岐鎖アミノ酸を分解してエネルギーに変換するのに必要な酵素「分岐鎖ケト酸脱水素酵素」を生成する遺伝子に生まれつき異常があることによって発症します。
初期症状として哺乳力の低下(母乳やミルクを十分に飲めなくなること)や、機嫌の悪化、嘔吐などが現れ、進行するとけいれんや意識障害などを起こし、命に関わる状態になることもあります。患者の尿や汗からメープルシロップのような甘い香りがすることからこの病名が付けられました。日本での発生頻度は約50万人に1人と比較的まれな病気です。
治療は症状の進行度によって異なり、症状の重い急性期では輸液やビタミン投与、アシドーシス補正、たんぱく質制限などが行われます。症状が改善しない場合には透析や肝移植を検討します。慢性期の治療では、分岐鎖アミノ酸の制限食や特殊ミルクによる食事療法を継続的に行います。この病気は新生児マススクリーニング*の対象となっており、早期発見・早期治療により、症状の改善が期待できます。
*新生児マススクリーニング:生後数日以内に実施され、先天的な代謝異常などの病気を早期に発見することを目的とした検査。早期発見により、症状が現れる前に治療を開始し、病気の進行を防ぐのに役立つ。
原因
メープルシロップ尿症は、分岐鎖アミノ酸の分解に関わる酵素「分岐鎖ケト酸脱水素酵素」を生成する遺伝子の変異によって発症します。この酵素が正常に機能しないと、分岐鎖アミノ酸をエネルギーに変換できず、分岐鎖アミノ酸や異常な代謝物(分岐鎖ケト酸)が体内に過剰に蓄積します。その結果、神経や臓器に障害を引き起こします。
この病気は常染色体潜性(劣性)遺伝という形式で子どもに遺伝します。これは、父親と母親の両方から変異のある遺伝子を受け継いだ場合にのみ発症する遺伝形式です。片方の親からだけ変異のある遺伝子を受け継いでも、もう片方の親から正常な遺伝子を受け継いでいれば発症しません。そのため、両親がともに保因者*である場合、子どもが病気を発症する確率は25%となります。
*保因者:病気の原因となる遺伝子を持っているが、病気を発症していない人。
症状
メープルシロップ尿症の初期症状としては、赤ちゃんの元気がない、哺乳力の低下、いつも不機嫌、ミルクを吐いてしまう(嘔吐)などの症状がみられます。また進行すると、意識障害やけいれん、呼吸困難、筋肉の緊張低下などの症状が現れます。重症化した場合には命に関わったり、神経に後遺症が残ったりすることがあります。尿や汗などの体液からメープルシロップのような匂いがすることもありますが、新生児期に発症した場合には匂いからはすぐには分からないことも少なくありません。
その後患者が成長した後も、発達障害や精神・運動の発達の遅れ、けいれんなどの症状がみられることがあるため、継続的に様子をみていくことが大切です。
検査・診断
メープルシロップ尿症は、新生児マススクリーニングによって発見されることがほとんどです。この検査では生後4日〜6日ごろに、かかとから少しの血液を採取して検査を行います。この血液検査で血液中にバリン、ロイシン、イソロイシンの増加がみられ、特にロイシンが4mg/dL以上であった場合に、メープルシロップ尿症が強く疑われます。
新生児マススクリーニングで異常がみられた場合には(ロイシン+イソロイシンが4.5mg/dL以上)、尿中の分岐鎖ケト酸の増加や代謝に関わる酵素の活性低下を調べる検査などを行なって診断を確定します。メープルシロップ尿症は重症化すると命に関わる可能性が高く、後遺症を残すおそれもあることから、特に速やかに発見し、治療を受けることが重要です。
治療
治療は急性期と慢性期で異なります。
急性期の治療
急性期の治療では、高カロリー輸液や電解質輸液の投与、タンパク質制限、ビタミンの投与、アシドーシスの治療などを実施します。ビタミンB1の大量投与は症状の改善に効果が期待できるケースもあります。血液が酸性に傾くアシドーシスを起こしている場合には、炭酸水素ナトリウムの薬剤を投与してアシドーシスの補正を行います。これらの治療を行っても症状が改善しない場合には、緊急的に血液をろ過して血液中に溜まった有害物質を取り除く血液浄化療法を行う必要があります。
慢性期の治療
急性期を脱した後や症状が落ち着いた状態で行われる慢性期の治療では、患者が代謝できない分岐鎖アミノ酸を制限した食事や、分岐鎖アミノ酸を除去した特殊なミルクを使用する食事療法を継続的に行います。この食事療法は生涯続けることが一般的です。
また、かぜなどの感染症により体調が崩れると、食事が摂れない状態が続き症状が悪化しやすくなるため、点滴や入院などの治療が必要となることがあります。体調が悪化した場合は、速やかに医療機関を受診することが大切です。
また、急性増悪を回避するために肝移植が検討されます。
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