概要
レット症候群とは、遺伝子異常により、手揉み様の特異な常同運動、脳・頭囲発育の遅延、歩行障害、てんかん発作、精神遅滞を特徴とする症候群です。出生後およそ半年頃から運動面の遅れが見られるようになります。その他、おもちゃに対しての興味が失われるなど、それまでにできていたことができなくなるといった「退行」と呼ばれる症状が出現します。
典型的には女児に認める病気ですが、極まれに男児にも見られると言われています。自閉症と類似の症状や運動発達の遅れを見ることから、自閉症や脳性麻痺と誤診されることもあります。1万人に1人の女児に生じると推定されており、日本においては1,000人前後のお子さんがこの病気に罹患していると報告されています(2019年7月時点)。
原因
レット症候群は、MECP2遺伝子、CDKL5遺伝子、FOXG1遺伝子の遺伝子に異常があることから発症します。脳神経の発達には、脳細胞同士がしっかりと連携を取りつつ情報交換をすることが重要です。こうした情報交換網(シナプス)の正常な形成に重要な役割をもつと推定されるのが、MECP2遺伝子です。この遺伝子に異常のあるレット症候群では、シナプスの数が正常の半分になっています。また、同時に、脳神経が正常に機能するために重要な神経伝達物質(ドパミン、アセチルコリン、グルタミン酸など)に関する異常も報告されています。レット症候群は、家族歴がないことがほとんどであり、多くの症例において遺伝性も確認されていません。MECP2遺伝子に突然変異が生じることからレット症候群は発症します。
症状
レット症候群に伴う症状は、年齢によって変化します。出生後から生後6〜18か月頃までは、正常発達様式を示し、ほかの健康な赤ちゃんと何ら変わりありません。しかし、徐々に運動発達の遅れが見られるようになります。具体的には、はいはいができない、自立歩行をしないなどです。また、身体の柔らかさを見ることもあります。こうした運動発達の遅れに続き、発語の遅れも認めるようになります。
レット症候群で特徴的なことの一つとして「退行」を挙げることができます。すなわち、生後しばらくはおもちゃに手を伸ばすなどの行動が合った場合でも、おもちゃに対する興味を失うようになり、目的に沿った運動ができなくなります。そのほか、目的もなく手をもんだり、手を口に持っていったりするなどの常同行動が出ますが、こうした症状もレット症候群のお子さんでよく見られる典型的な症状です。小頭症の症状も出現するようになります。
幼児期から学童期以降は、てんかんを認めるようになります。筋肉を使うことも乏しく、自立歩行はできないことも多く、車いすでの移動が必要になります。筋力の使用も乏しいため、背骨の側弯(ねじれ)が生じることもまれではありません。最重度の知的障害を呈することも多いです。誤嚥性肺炎や不整脈を認めることもあり、生命予後を規定する症状になり得ます。
歩行ができないことや筋緊張が強くなること、目が合いにくい、周囲に対しての興味が乏しいなどの症状を見ることから、脳性麻痺や自閉症の誤診を受けることもありえます。
検査・診断
レット症候群の診断は、その特徴的な症状からなされます。特に重要な項目としては、①目的のある手の運動機能を習得した後に、その機能を部分的、あるいは完全に喪失すること(おもちゃを握らなくなるなど)、②音声言語を習得後に、その機能を部分的、あるいは完全に喪失すること(それまで発していた喃語がなくなるなど)、③歩行異常(歩かない、歩けていても徐々に歩けなくなるなど)、④手の常同運動(手をねじる、口に手を入れる、などの運動)、の4項目です。レット症候群は脳の変性疾患ではなく、脳の損傷を引き起こしうる明らかな原因(たとえば、出産期の低酸素など)は除外する必要があります。また、これら症状は、生後6か月以降に認めることが診断には重要です。
レット症候群では、MECP2遺伝子、CDKL5遺伝子、FOXG1遺伝子の異常が報告されています。これら遺伝子に対しての遺伝子検査が行われることもあります。これらのうちMECP2遺伝子異常によるレット症候群の約90%で報告され、もっとも頻度が高いです。
治療
レット症候群に対しては、確立された根本治療方法はありません。神経学的な予後を改善する薬物療法も試みられていますが、効果が見られる確立した方法はありません。
レット症候群では姿勢をうまく保つことができず、自力で座ることができなかったり、歩いたりすることができません。また、手を無目的に動かしてしまうことから、手先の運動についても障害されます。これらを改善するため、理学療法が重要になります。発語を見ないことも多いため、意思疎通を図るための訓練を積むことも重要になります。
さらに、2歳以降になるとけいれん発作を見るようにもなり、症状に合わせての抗てんかん薬が適応になります。嚥下機能の問題から誤嚥性肺炎を起こすこともあるため、食事形態を工夫したり、肺炎を発症したときには抗生物質が使用されたりすることもあります。背骨の側弯が強くなるときには、手術的な介入が必要になることもあります。
レット症候群の発症は、ほとんどの患者さんが、家族歴のない孤発例です。この場合には、次のお子さんがレット症候群を発症するリスクは上がりません。しかし、極まれに遺伝するタイプのレット症候群もあるため、遺伝カウンセリングが必要とされる場合もあります。
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