概要
レット症候群は、乳幼児から姿勢や運動、脳や神経に関する症状が現れるまれな病気で、ほとんどが女児に発症します。
多くの患者では、脳の発達に不可欠な蛋白質を産生するMECP2遺伝子に機能異常があることが分かっています。遺伝する傾向はみられておらず、患者の遺伝子に起こる突然変異と考えられています。
レット症候群は進行性の病気であり、年齢に応じてさまざまな症状が現れます。生まれてすぐは症状などがみられないことが多くありますが、次第に寝返りや独り歩きの遅れ、寝ている時間が長いなどの症状がみられるようになります。手を揉むなど特徴的な繰り返し行動もみられます。また、運動機能や姿勢の異常、脳や神経に関する症状もみられるようになります。
現在のところ根本的な治療法は見つかっておらず、症状にあわせたリハビリテーションや療育、薬物療法などが行われます。アメリカでは2023年にトロフィネチド(trofinetide)という薬剤が認可され、症状の改善のために使用され始めました(2025年6月現在では日本国内未承認)。
原因
レット症候群の患者の多くは、脳の発達に不可欠な蛋白質を産生するMECP2遺伝子に機能異常があることが分かっています。一方、これ以外のいくつかの遺伝子の変異も確認されており、たとえば早い段階からけいれんがみられる患者ではCDKL5遺伝子の変異があることや、一部の患者では大脳の形成に重要なFOXG1遺伝子に変異があることが知られています。
症状
レット症候群は生後6か月ごろまでは目立った症状がなく、異常に気付かれないことが多くあります。しかし、進行性の病気であるため、年齢に応じてさまざまな症状が現れます。経過としては、以下の4つのステージに分類されます。
第1期:発達停滞期(生後6~18か月)
身長や頭囲の伸びが遅れるなど発育の遅れがみられるほか、寝返りや独り歩きの遅れ、寝ている時間が長く周囲の刺激に反応しないなどの症状がみられるようになります。また、言葉の発達にも遅れがみられます。
第2期:退行期(1~4歳から、数か月の間継続)
運動に関する機能や、言語など認知機能に関する症状が現れるようになります。
それまでは問題がみられなかった、スプーンを持つなどの手を使った動作を行うことができなくなります。さらに、手を揉む、手で胸を叩く、手を口に入れるなどの特徴的な繰り返し動作が現れるようになります。歩くことができていた患者でも、歩行が難しくなるなどの症状がみられます。
また、一度話せるようになった言葉を話せなくなる、意思疎通が難しくなるなどの症状もみられます。
第3期:仮性安定期(2~10歳から、数年の間継続)
症状は安定している時期で、アイコンタクトや周囲とのコミュニケーションができるようになる場合もあります。一方、手の特徴的な繰り返し行動は続き、過呼吸や無呼吸などの呼吸異常や歯ぎしりなどが目立つようになり、てんかん発作がしばしば起こるようになります。
第4期:晩期機能低下期(10歳以降)
運動に関する症状が進行し、移動には車いすが必要となる場合もあります。また、筋肉が緊張することによる姿勢や運動の障害が目立つようになり、背骨が左右に曲がる側弯症、ジストニアなどの症状が生じる場合もあります。言葉によるコミュニケーションは難しくなります。
検査・診断
レット症候群は、一度獲得した手の運動機能や言語機能を失うなどの特徴的な症状が現れているか、ほかの外傷や病気による症状ではないかを確認したうえで、MECP2遺伝子をはじめとする遺伝子変異が確認された場合に診断されます。
遺伝子の変異が確認されない場合もあるため、一定の特徴的な症状が現れていればレット症候群と診断される場合があります。
治療
現在のところ、レット症候群の根本的な治療法はなく、症状に応じた治療が行われます。
運動に関する症状やジストニアなどの姿勢に関する症状に対しては、理学療法などのリハビリテーション治療が行われます。また、認知機能に関する症状などに対しては療育などによる適切な支援を行うことも重要です。
そのほか、てんかん症状が生じている場合には抗けいれん薬による薬物療法が、側弯症が進行した場合には矯正手術が行われることもあります。
アメリカでは2023年にトロフィネチドという薬剤が認可され、症状の改善のために使用され始めています。
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