不妊症とは、正常な夫婦生活を送りながら、1年以上妊娠しない状態を指します。このように、何らかの理由で自然妊娠にいたらない場合には、「不妊治療」という選択肢があります。不妊治療には、どのような種類があるのでしょうか。また、どれくらいの期間を目安に不妊治療に取り組むべきなのでしょうか。
今回は、恵愛生殖医療医院 院長の林 博先生に、不妊治療の種類と治療の選択方法についてお話しいただきました。
排卵障害や子宮内膜症など不妊症の原因が明らかな場合には、その原因に対する治療を行っていきます。
たとえば、記事1『不妊症の原因と検査-どれくらいの期間妊娠しなければ受診すべき?』でお話したような排卵障害があれば、排卵を促す排卵誘発剤を使用することが多いです。子宮内膜症がある場合には、治療のために腹腔鏡手術を行うこともあります。
原因が明らかではない場合には、通常は以下の流れで治療を行っていきます。
タイミング療法とは、排卵日を予測し、夫婦生活をもつタイミングを指導することで自然妊娠の可能性を高める方法です。
当院では、それまでに不妊治療の経験がない方が3~6回タイミング療法を行い、妊娠にいたらない場合には、次のステップである人工授精を受けていただくことが多いです。
人工授精とは、排卵のタイミングに合わせて、子宮内に精子を直接注入する方法です。タイミング療法との違いは、精液が入る場所です。タイミング療法では、子宮の入り口の手前まで精液が入ります。一方、人工授精では、タイミング療法より奥の子宮内へと精液を注入することで妊娠の確率を高めます。
体外受精とは、体内から取り出した卵子と精子を体外で受精させ、培養した受精卵(胚)を体内に移植する方法です。体外受精は、当院では人工授精を5〜6回行っても妊娠にいたらない場合に選択されることが多いでしょう。
また、精子の量が極端に少なかったり、女性側の卵管が両方とも閉塞していたりする場合に選択されることもあります。
お話ししたような流れではなく、すぐに人工授精や体外受精に入ることも可能です。女性側の年齢が高かったり、これまでにタイミング療法の経験があったりするようなご夫婦に対しては、早めに人工授精をおすすめすることもあるでしょう。
当院でも、たとえば女性側の年齢が40歳以上の場合には、すぐに体外受精をおすすめすることもあります。また、ご本人の希望によって、早めに人工授精や体外受精を始めるケースもあります。
原因が明らかな場合には、主に手術によって不妊症の原因の改善をはかります。
たとえば、記事1『不妊症の原因と検査-どれくらいの期間妊娠しなければ受診すべき?』でお話ししたような精索静脈瘤*がある場合には、手術によって静脈瘤を取り除くことで、精子の数の改善をはかることがあります。
また、精液の中に精子がまったくいないケースでは、精巣を切開し、何らかの原因によって出てこれなくなっている精子を取り出すこともあります。このようなケースでは、取り出した精子をもとに体外受精を行うことが多いでしょう。
精索静脈瘤:精子をつくる精巣へと流れる静脈に静脈瘤(こぶのようなもの)ができてしまい、精巣の温度が上がってしまう病気
何らかの原因で男性側の精子の数が少ない場合には、人工授精によって妊娠の確率を高めることもあります。なお、極端に精子が少ない場合には、体外受精を選択することが多いでしょう。
不妊治療では、なるべく早く妊娠することを目指しますが、不妊治療開始から概ね1年以内の妊娠をひとつの目安と考えていただくとよいと思います。通院頻度としては、当院では、タイミング療法であれば月に1回程度、人工授精であれば月に2〜3回程度となります。
また、体外受精では、月に5回程度の通院が必要となるケースが多いでしょう。体外受精では通院頻度が多少増えますが、当院では、仕事と両立しながら治療を受けられる女性も少なくありません。日程の相談にも乗りますので、無理のないスケジュールを相談していただきたいと思います。
不妊治療にかかる費用は、受ける治療や期間によって異なります。当院では、人工授精と体外受精にかかる費用は、おおよそ以下のようになります。
人工授精による妊娠の確率は、1回あたり5〜10%程度といわれています。そのため、タイミング療法から人工授精に移行したとしても、急に妊娠できる可能性が上がるわけではないと考えたほうがよいでしょう。
体外受精の場合、35歳未満で初回であれば、約60%が妊娠にいたるといわれています。ただし、体外受精も女性側の年齢が高くなるほど妊娠の確率は低くなります。なるべく早期に体外受精に取り組むことで、妊娠する可能性は高くなるため、時期を逃さずに取り組んでほしいと思います。
人工授精や体外受精の回数に制限はありません。そのため、治療を続けるかどうかは、医師との相談のうえで、ご本人に決めていただくことになります。
人工授精では、6回目までに妊娠にいたるケースが多く、体外受精では、4回目までに妊娠にいたるケースが多いです。そのため、これらがひとつの目安となります。
不妊治療を受ける方には、禁煙に取り組んでいただきたいと思います。喫煙は、男女共に妊娠のしやすさが低下することがわかっているからです。男性であれば、精子の数の減少につながるといわれていますし、女性も喫煙によって妊娠しづらくなるという報告があります。
女性の患者さんの中には、不妊治療のために仕事を辞められるか迷う方もいらっしゃるかもしれません。特に通院頻度が高くなる体外受精では、日程の調整を不安に思われる方もいるのではないでしょうか。
私は可能であれば、治療のために仕事を辞めないでいただきたいと考えています。それは、不妊治療に注力するあまり、必要以上に悩んでしまったり不安を抱えてしまったりする方もいるからです。もちろん、仕事でなくても構いませんが、不妊治療を続けながら仕事や趣味などにも取り組むことが気分転換につながると思います。
また、不妊治療には費用がかかるケースもあります。治療のための費用を確保する意味でも仕事を続けることをおすすめします。
私は、上手にリフレッシュしながら不妊治療に取り組んでほしいと思っています。治療を受けていない時間は、なるべく治療のことを忘れてほしいのです。
たとえば、普段いかないような高級レストランにご夫婦で出かけてみたり、映画や舞台を観覧したり、旅行をしたりなどもよいでしょう。そうして上手にリフレッシュしながら治療を続けてほしいと思います。
恵愛生殖医療医院 院長
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医日本生殖医学会 生殖医療専門医日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医日本周産期・新生児医学会 周産期専門医(母体・胎児)
1997年に東京慈恵会医科大学卒業後、同大学病院にて生殖医学に関する臨床および研究に携わる。
2011年4月恵愛病院生殖医療センター開設。
2016年1月恵愛生殖医療クリニック志木開院。院長就任。
2018年1月同クリニックを和光市に移転し、恵愛生殖医療医院へ改称。
日本生殖医学会認定 生殖医療専門医、日本産科婦人科学会認定 内視鏡技術認定医、日本周産期・新生児医学会認定 周産期(母体・胎児)専門医を持つ不妊治療のスペシャリストとして活躍。自らも体外受精・顕微授精や不育治療を経験しており、患者さま目線の治療を提供することをモットーとしている。
林 博 先生の所属医療機関
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