インタビュー

根治性と整容性を両立する新しい乳がん治療の選択肢――自分らしい姿で歩むために

根治性と整容性を両立する新しい乳がん治療の選択肢――自分らしい姿で歩むために
森 弘樹 先生

東京科学大学 形成・再建外科学分野 主任教授

森 弘樹 先生

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乳がんの治療は手術でがんを取り除くことが基本となりますが、それにより乳房の一部または全てを失ってしまうことがあります。こうしたケースに対して選択肢となるのが、自分の組織や人工物を使って手術前に近い形・大きさに修復する“乳房再建”という方法です。今回は、日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会の副理事長である森 弘樹(もり ひろき)先生(東京科学大学 形成・再建外科学分野 主任教授)に、乳房再建の方法、乳房再建の普及に向けた学会の取り組みなどについてお話を伺いました。

乳房オンコプラスティックサージャリーとは、“がん治療”を意味するオンコロジー(Oncology)と、“形成外科”を表すプラスティックサージャリー(Plastic Surgery)を組み合わせた言葉です。安全性を担保しながら根治を目指すがん治療と、切除した乳房を再び自分らしい形に整える形成外科の技術を組み合わせた新しい考え方の治療です。

1960年代までは、乳がん手術は乳房や周囲の筋肉まで広く切除する大きな手術が標準で、乳房の変形や患者さんの心に大きなダメージを残すことが問題でした。1970年代になると、乳房の一部を切除し放射線治療を組み合わせる乳房温存療法が、全切除と同等の治療成績を示すことが明らかとなり、1980年代以降広く普及しました。同時期には乳房再建も進歩し、人工乳房や自家組織を用いた再建法が確立され、切除後の外見の回復が可能となりました。一方、乳房温存療法においても乳房の変形が問題となることがあり、1980年代後半から1990年代にかけて、がんの切除と整容性の回復を同時に行う“オンコプラスティックサージャリー”の考え方が生まれ、温存後の変形に対する有効な解決策として欧州を中心に発展しました。現在では全摘後の再建も含めて、“腫瘍切除+再建・整容を一体化した手術”という広い概念として用いられています。乳房再建の開発が進み、患者さんの状態や希望に合わせた術式の選択が可能になりました。まだ新しい考え方の治療ではありますが、乳房再建を受けられる病院も増加してきています。乳がんの根治性と整容性のどちらも諦めずに、治療後の生活の質(QOL)向上を目指せるようになってきているのです。

乳房再建にはいくつかの方法があります。

乳房全切除術によりご自身の乳房を完全に失った場合には、乳房再建の方法として“人工物再建”と“自家組織再建”があります。乳房全切除後の乳房再建は保険診療として受けることができます。

人工物再建

人工物再建は、シリコンでできた人工物(インプラント)を皮下や大胸筋の下に入れて乳房の形を作る方法で、乳房インプラント再建とも呼ばれます。メリットは、乳房切除をしたときと同じ傷口から手術ができるので、新たな傷あとを増やす必要がなく、社会復帰も早いことが挙げられます。

人工物再建では、インプラントを入れる前の第一段階として、皮膚やその周辺組織を拡張するために大胸筋の下にエキスパンダーというシリコン製パックを挿入する処置を行うことが一般的です。エキスパンダーを挿入後は、外来通院で何回かに分けてエキスパンダーに生理食塩水を注入して拡張していきます。十分に拡張されたら、エキスパンダーとインプラントを入れ替えるための手術が行われます。

自家組織再建

自家組織再建は、患者さん自身の脂肪や筋肉、皮膚で乳房を作る方法です。これらの組織は血流が維持された状態で移動できるため、時間とともに体の一部として生着して馴染み、自然で柔らかい形態に再建できます。ただし、他の部位から組織を採取してくる必要があるため、人工物再建に比べて傷あとが大きくなり、手術時間も長くなることはデメリットといえるかもしれません。

乳房を部分切除した場合の再建方法としては、がんの摘出後に残った乳腺を移動させて失った部分を補う“ボリューム・ディスプレイスメント”が整容性を高める選択肢として用いられます。乳房の状態に合わせて、残った乳腺を寄せて乳房全体を小さくしたり、垂れた乳房を持ち上げたりすることで形を整えます。

一方で、部分切除により欠損した範囲が大きい場合、残された乳腺の移動だけでは不足するため、背中や(わき)の組織を移動させて補う“ボリューム・リプレイスメント”という手術が行われることもあります。

乳房再建は、がんの切除と同時に行う “一次再建”と、がんの切除から期間を空けて行う“二次再建”に分けられます。

一次再建は、乳房の形が残っている状態で再建できるため整容性に優れるほか、二次再建に比べてトータルの手術回数が少なく済むので身体的・経済的な負担を軽減することができます。また、“乳房を失う”という経験をすることがない点は心理的に大きなメリットだと考えます。ただし、がんの切除と同時に行われるので手術時間が長くなること、それに伴い皮膚の血流不全や感染などの局所の合併症のリスクがわずかに高まることはデメリットといえるでしょう。

二次再建は乳がんの手術から再建までの期間が空くため、患者さん自身が乳房再建について考える時間を持つことができます。乳がんと診断されたショックや混乱を抱えるなかで、がん治療のことを考えながら再建のことまで考えるのは心身に大きな負担がかかります。乳がんの治療がひと段落した後でじっくりと再建について考えられることは、二次再建の1番のメリットではないでしょうか。再建するためのいくつかの工夫が必要となりますが時間が経過してからでも乳房再建を行うことは可能で、乳がん手術から20年経って乳房再建が行われたケースもあります。

森 弘樹先生

日本では2006年に自家組織再建、2013年に人工物再建(乳房インプラント再建)が保険適用となり乳房再建を受ける方は増えつつありますが、乳房全切除後の乳房再建率は13%にとどまります(2022年データ)。一方で、米国や韓国では乳房全切除後に約半数の方が乳房再建を行っています。

価値観や文化的背景など“お国柄”の違いもあると思いますが、日本の実施率が低い理由の1つには、乳房再建に関する情報が十分に行き届いていない可能性があると考えています。患者さんの中には、乳房再建そのものを知らなかったり、知っていても保険適用で受けられるとは思っていなかったりする方が少なくないのが現状です。

私は関連学会である日本乳癌学会・日本形成外科学会でも乳房再建に関する委員会に所属しており、医師や一般の方々に向けた乳房再建の情報発信に努めてきました。2024年には、日本乳癌学会が主体となり、「乳房再建の説明に関する学会提言」を発表しました。乳房再建という選択肢を提示されていない患者さんがいる現状を受け、乳房全切除を行う患者さんに乳房再建の選択肢を提示するように求める提言です。また、患者さんから医師に乳房再建について相談しやすくなるように、国民に向けた乳房再建の啓発ポスターを各都道府県に配布しています。そのほか、日本形成外科学会が主体となり、乳房再建に関する市民公開講座を2024年度から2025年度にかけて再建率の低い県で開催しました。乳がんになる前から乳房再建という選択肢があることを知っておけば、もしも乳がんになったときに「私は再建できますか」と医師に聞くことができると思います。知らないがゆえに乳房再建を受けられない患者さんを減らすために、地道ではありますがこれからも啓発活動を続けていきたいと思っています。

乳房再建にはいろいろな方法があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。乳房再建を検討されている方は、乳房再建の具体的な方法や各術式の特徴を知ったうえで、主治医の先生と相談しながら、ご自身の希望に沿った乳房再建の方法を考えていただきたいと思います。

“乳房再建は心の再建”といわれるように、精神面に大きなメリットをもたらす手術です。がんによって失った乳房を再び取り戻すことで、自分に自信を持って暮らしていらっしゃる患者さんの姿をこれまでにみてきました。乳がんと診断されて手術を控えている方、すでに乳房全切除を受けた方は、ご自身が乳房再建の適応になるかどうかをまずは主治医に聞いてみてください。そして希望があれば近くの形成外科への紹介をお願いしてください。そのうえで、乳房再建をする/しないを含めて自分に合った治療を選んでいただきたいと思います。

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