指定難病のひとつである低ホスファターゼ症は、2015年から酵素補充療法が始まったことで、生命予後が著しく改善しました。今回は、低ホスファターゼ症の検査と治療について大阪大学大学院医学系研究科小児科学講座教授の大薗恵一先生に詳しくお話を伺いました。
骨X線検査(レントゲン検査)と血液検査は、必須で行います。X線で骨の状態を確認し、血液検査では、採血をして血清(血液が固まる際に分離する透明な液体)の検査をします。
アルカリホスファターゼ値や血中カルシウム濃度を調べることで、低ホスファターゼ症が起こる可能性も一緒に検査できます。また、必須ではありませんが尿検査で尿のアミノ酸を検査すると、尿中ホスホエタノールアミンの上昇が見られます。
痛みが強い場合は、痛みをおこすようなレベルの運動は避けるように運動制限の指導をしています。しかし、運動神経は運動をすることで育っていくため、運動を全くしないという選択は避けてほしいです。
体と体がぶつかる柔道やラグビーなどのコンタクトスポーツは衝撃の強さで骨折することがあるため、避けていただきたいですが、そのほかのスポーツ、特に水泳は骨にもいいので積極的に取り入れられるとよいです。
2015年から低ホスファターゼ症の治療として酵素補充療法が開始されています。これは、人工的に作られたアルカリホスファターゼという酵素(リコンビナントタンパク)を皮下注射により補充するものです。週3回または週6回、皮下注射を自分で打つ必要があります。
私はこの治療法を2年間施してきていますが、確かな効果を感じています。低ホスファターゼ症の方は主治医の方に相談し、治療の検討をしていただきたいです。特に重症の方はできるだけ早く治療するほうがよいです。
酵素補充療法は画期的です。しかし、デメリットがないわけではありません。
効果がある一方で、患者さんの負担は大きく、重症の方はずっと注射を続けなければいけません。
そこでデメリットを減らすために、薬の使用経験者をフォローアップし、どのような副作用や効果があるかを調べる「市販後調査」という調査があります。治験だと患者数と治療期間が限られているため、薬が実際に使えるようになってからの経験の中で明らかになることもあります。できる限り市販後調査にご協力していただければと思います。
基本的には可能ですが、高価な治療のため小児慢性特定疾病の医療費助成制度を利用して行われます。指定医が医療費助成の申請することになっていますので、一定の規模の小児科診療をしている施設に行くことが望ましいです。
重症型の場合、以前は90%以上の方が2〜3歳までに亡くなっていました。しかし、酵素補充療法の治験結果によると80〜90%の方が生きていらっしゃいます。(Whyte M. J Clin Endocrinol Metab 2016)
市販後の正確なデータはまだ出ていませんが、生命予後は著しく改善していることが期待されます。その一方で、骨の痛みや、運動ができるかなど機能的な予後については改善するかまだわかっておらず、今後、時間をかけて評価が行われていきます。
実際に使える治療法は、リコンビナントタンパクを使った酵素補充療法だけなので、今後この薬で治る症状、治らない症状を見極めていかなければなりません。
たとえば、乳歯の早期脱落がこの酵素補充療法で防げるのかは疑問視されています。なぜかというと、歯が生えるのは生後6か月ごろですが、歯の準備は生まれる前からされているので、歯の準備期間の段階で歯が抜けやすい性質が決まっているとすれば、あとで酵素を補充しても効果がない可能性があります。
低ホスファターゼ症の合併症として知られる頭蓋骨縫合早期癒合症についても、薬で防げるか、むしろ悪化するか、まだ議論されているところで、今後調査をして見極めていかねばなりません。
また、次世代の治療法として考えられている遺伝子治療では、体内でアルカリホスファターゼを作ることで何回も注射せずともよくなるかもしれません。
酵素補充療法と共に、このような新しい治療法の開発に私自身も貢献していきたいと思っています。
すでに治療を受けている方につきましては、定期的に受診して、症状がどうなっているか主治医の方にお話をしていただきたいです。
症状が軽いために治療を受けていない患者さんにつきましても、運動が激しくなると痛みが出てくることもあるかもしれないので、年に1回程度、医師に相談されたほうがよいです。
希少な疾患のため、孤独感があるかもしれませんが、患者さん同士でつながれる低ホスファターゼ症の患者会があります。医師側としても、患者さんの声を診察の場だけではなく、患者会を通じて聞こえてくることも大事にしています。
医療面だけではなく、都道府県や国レベルの福祉の面からも、薬の認可や、生活のサポートなど、患者さんが困ることができるだけ減るように、患者会の活動を通じて、社会を動かす力になっていけばよいと考えています。ぜひ患者会のホームページにアクセスして、入会を検討していただきたいです。
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