角膜は目の表面を覆っている透明なレンズで、「見る」という行為に関して非常に重要な役割を果たしている器官のひとつです。角膜は5層に分かれ、一番外側から順に、角膜上皮細胞・ボーマン膜・角膜実質・デスメ層・角膜内皮細胞と呼ばれています。円錐角膜(えんすいかくまく)とは、この角膜が何らかの原因によって薄くなってしまい、眼球から盛り上がるように突出してしまう病気です。多くの場合は思春期に発症しますが、専門医のもとで適切な治療(コンタクトレンズや角膜移植など)を受ければ予後の悪い病気ではありません。円錐角膜とはどのような病気なのか、また治療にはどのような方法があるのかについて、近畿大学眼科主任教授の下村嘉一先生にお話しいただきました。
角膜は、眼球の保護や光の屈折調整(光を目の中にとりいれる)といった機能を持つ器官で、一般的に「黒目」と呼ばれる部分が角膜に該当します。
円錐角膜とは角膜が飛び出てしまう病気の総称です。多くは思春期に発症することが分かっています。
眼の中にはコラゲナーゼ(コラーゲンを分解する酵素の一種)という、角膜のコラーゲン(線維)を溶かす酵素があります。何らかの原因でこのコラゲナーゼが活性化し、角膜の線維を溶かしてしまうと、通常0.55mm程度の厚みをもつ角膜が薄くなってしまいます。こうなると眼圧を抑えきれず、角膜が目の中央から前方に向かって突出してしまいます。この状態が円錐角膜(えんすいかくまく)です。
通常、角膜は下図のとおり、眼球の曲線に沿うような形で表面を覆っています。
一方、円錐角膜の状態では下図のように角膜の中心部分が突出し、横からみると円錐のような形になっていることが分かります。
はっきりとした原因は現在のところわかっていません。病状の程度も重症から軽症まで幅広く、解明されていない面が多く残っています。ただし、以下の2点は発症との関係性があると考えられています。
いくつかの例で、遺伝による円錐角膜の発症がみつかっています。しかし、すべての症例に必ず遺伝が関係しているとはいえず、はっきりとした証拠はありません。
円錐角膜を発症した方はアトピー性皮膚炎を持っている方が多いといわれており、円錐角膜はアレルギーとの関係が深いといわれています。
たとえばアレルギー性結膜炎のようなアレルギー性疾患を発症すると、通常は両眼とも同じ程度まで症状が進行します。
しかし、春季カタル(角膜近くの結膜が大きく腫れ、角膜が損傷する)まで症状が進行した場合には、患者さんは目の強いかゆみにより、無意識に目をこすってしまいます。
円錐角膜では、こすってしまった側の目が重症化することが報告されているのです。
円錐角膜は眼鏡では矯正できず、治療効果が見込めません。
近畿大学では、しばしば「今まで眼鏡でみえていたのに最近みえづらくなった」という患者さんの紹介を受けます。眼科や眼鏡屋で眼鏡を処方されたのに眼鏡ではみえづらいという場合は、円錐角膜の発症初期段階です。この場合は、眼鏡で視力を回復させることはできません。
15~16歳程度の場合、眼鏡での矯正視力が1.0以上あれば問題ありません。しかし、数年後(18から19歳ごろ)になり、眼鏡をかけた状態で矯正視力がが0.9以下にとどまる場合は、眼科医はなぜ1.0以上に視力が回復しないのか、精密検査して調べる必要があります(基本的には眼鏡の矯正で1.0まで回復します)。この点を調べていくと、円錐角膜であると判明する場合が多くあります。
初期の円錐角膜は、角膜形状解析装置という角膜の形状を分析する特殊な機具を用いて検査をするとすぐに判明します。
上記のような画像の状態は円錐角膜の初期段階であり、眼科医であれば容易に診断できます。
円錐角膜はハードコンタクトレンズでの矯正治療が可能です。ほとんどの患者さんはコンタクトレンズによる治療が適応されます。
ただし、円錐形となった角膜にややフラットなハードコンタクトレンズを乗せると、レンズが落ちて眼球から外れてしまい、下に落ちたレンズによって目が染みたり痛んだりするという問題があります。
これを防ぐため、近畿大学では、MZ加工を用いたハードコンタクトレンズでの治療を行っています。MZ加工とは、レンズ周辺に円周状の溝をつける加工のことです。治療では、円錐角膜の眼球の直径に対して、少々サイズが大きい加工済みハードコンタクトレンズを挿入します。MZ加工によってレンズの表面に溝がついているため、溝の部分が瞼にうまく引っかかって眼球から外れなくなります。
※関東ではビギーバックという方法を用いている病院もありますが、関西ではMZ加工を用いたコンタクトレンズによる治療が主流となっています。
症例によって異なりますが、思春期で円錐角膜を発症した場合は、30歳程度までハードコンタクトレンズをつけていただく必要があります。30歳以上になると、ほとんど症状は進行しなくなると考えられています。
ハードコンタクトレンズによる治療が普及して以降、角膜移植をしなければならない患者さんは減少しているように感じます。
ただし、すべての患者さんがハードコンタクトレンズによる治療で回復するとは限りません。MZ加工を施したコンタクトレンズでも眼から外れてしまったり、デスメ膜(角膜実質層と角膜内皮層の間にある強靭な膜)が剥離・破損し、角膜の中に前房水が侵入して角膜水腫(かくまくすいしゅ:角膜に水が溜まって濁り、視力低下や痛みを伴う病気)を合併したりした場合は、角膜移植を検討します。
角膜移植は移植手術の中でも成績がよい手術ですが、やはり移植である以上はどうしても拒絶反応が起こる可能性があります。ですから、角膜移植はあくまで最終手段として考えています。
レーシックとは視力矯正手術の一種で、角膜の中央を切って上皮を反転させ、レーザーで角膜の実質を薄くすることで屈折異常を矯正する手術です。円錐角膜の患者さんがレーシックを受けると、円錐角膜で薄くなった角膜が更に薄くなってしまうため、絶対にやってはいけません。
実際近畿大学には、円錐角膜であることに気づかれずレーシックを受けて、大変な状態になった患者さんがときどきいらっしゃいます。この場合、残念ながら治療は難儀し、角膜移植をせざるを得ない場合もあります。(ただ、レーシック自体が現在ではあまり行われなくなってきています)
円錐角膜はコンタクトレンズによる治療が確立し、失明する危険もほとんどありません。角膜移植を行う場合も、手術の成績は良好です。きちんと眼科専門医のもとで治療をすれば、多くの場合はよくなります。ですからあまり不安にならず、眼科医を受診してください。
近畿大学 名誉教授、生長会 眼科 統括部長
下村 嘉一 先生の所属医療機関
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