前立腺とは、男性にのみある臓器で、前立腺液という精液の一部をつくるはたらきをしています。そこにがんが発生すると、前立腺がんとなります。この病気は60歳くらいから年齢が上がるにつれ発症率が高くなり、加齢や家族歴などが発症に関係しているといわれています。前立腺がんの治療方法としては大きく、手術療法、放射線療法、内分泌療法の3種類が実施されています。
今回は、東京都多摩総合医療センター 泌尿器科 医長 東剛司先生に、前立腺がんの治療の種類や内容についてお話しを伺いました。
前立腺がんには
の大きく3つの治療法が存在します。
前立腺がんの進行度、患者さんの年齢や希望を考慮し、適切な治療法を選択します。若年の患者さんほど手術療法や放射線療法が有益になるため、実施を勧める傾向にあります。
また、一部の低悪性度の前立腺がんに対しては、アクティブサーベイランスという待機療法を実施することもあります。待機療法とは、すぐに上記の3つの治療は行わず、まずは経過観察をするという治療法です。治療をすると、どうしても患者さんの心身や経済的にも負担がかかります。そのため、待機療法を実施し、必要になった時点で3つの治療法を開始するという選択肢もあります。
手術療法が推奨されている患者さんは、前立腺の周囲の臓器(膀胱や直腸)へがんが広がっておらず、見込まれる余命が10年以上の方です(前立腺癌診療ガイドライン2016年版より)。しかし、見込まれる余命が10年以下であっても、患者さんが手術を希望し、手術に耐えることができる状態と医師が判断した場合、70歳代であれば手術を実施することもあります。
前立腺がんの手術には
の3種類があります。開腹手術では、患者さんの腹部を切開し手術を行います。腹腔鏡手術は、患者さんの腹部に複数の小さな穴をあけ鉗子*を挿入し、直接医師が鉗子を操作しながら手術を行います。ロボット支援手術は、患者さんの腹部に鉗子を挿入するところまで、腹腔鏡手術とほぼ同じです。そこから、医師が操作するロボットによって鉗子を動かし手術を行います。
(ロボット支援手術について詳しくは、記事2『前立腺がんのロボット支援手術とは 特徴や方法について』をご参照ください)
腹腔鏡…腹部の表皮から腹部の内臓がおさまっているところに入れる内視鏡器具。
鉗子…物を引っ張ったり掴んだりするための手術器具。
手術の実施内容は3種類とも同様で、前立腺と精嚢(男性の生殖器の一種)を摘出し、膀胱と尿道を繋ぎ合わせる「前立腺全摘除術」を行います。勃起機能を保つため、前立腺の神経は温存します。
多摩総合医療センターでは、過去にお腹の手術を実施した既往歴*があり、組織同士の癒着が強い患者さんに対しては開腹手術を実施しています。しかし、多少の癒着であればロボット支援手術で切除することができるため、前立腺がんの患者さんの多くはロボット手術の適応となっています。また、2018年現在、腹腔鏡手術はロボット支援手術へと移行傾向にあります。
既往歴…患者の過去の病歴や健康状態に関する記録。
前立腺がんの手術を実施した際の合併症*として主なものは、尿失禁と性機能障害の2つです。
合併症…ある病気や、手術や検査が原因となって起こる別の症状。
尿を我慢する役割を担う括約筋という組織が存在します。しかし、前立腺がんの手術の際に括約筋を傷つけてしまうと正常に機能しなくなり、尿失禁を起こすことがあります。
前立腺の近くに存在する勃起に関係する神経を手術中に傷つけてしまうと、術後に性機能障害である勃起障害*を発症することがあります。
勃起障害…勃起機能が低下すること。
前立腺がんの放射線治療には
の2種類があります。手術と同様に、主に前立腺の周囲の臓器にがんが広がっていない患者さんが放射線治療の適応となります。
外部照射療法とは、患者さんの体の外から放射線を照射する方法です。外来で治療を受けることが可能です。この治療では、前立腺だけでなく膀胱や直腸など周囲の臓器にも放射線が照射されるため、直腸粘膜の損傷や勃起障害などの合併症が起こる可能性があります。
組織内照射療法とは、前立腺のなかに放射線の小線源*(ヨウ素125線源)を埋め込むことで、内側から前立腺がんに放射線を照射する治療法です。治療には入院が必要で、麻酔をかけた状態で前立腺内に針を刺し、その針を通して小線源を挿入します。前立腺の周囲の臓器への照射を抑えることができ、合併症が発生するリスクも抑えることができます。
小線源…放射性同位元素が入ったカプセル。
前立腺がんの増殖には男性ホルモンが関係しています。そのため、男性ホルモンの分泌を抑えるために内分泌療法(ホルモン療法)を実施します。適応となる患者さんは、年齢が80歳以上の方や他の臓器に転移のある方です。内分泌療法には大きく、精巣摘出術と薬物治療の2種類があります。
精巣摘出術とは、手術により両側の精巣を摘出する治療法です。精巣は男性ホルモンをつくるはたらきをしているため、精巣を摘出することにより男性ホルモンの分泌を抑えることができます。
薬物治療は、男性ホルモンの分泌を抑える効果のある薬物注射を1か月に1回、もしくは3か月に1回打ち続ける治療法です。副作用として、ほてりや性欲がなくなるといった症状が現れることがあります。
記事2『前立腺がんのロボット支援手術とは 特徴や方法について』では、前立腺がんの手術のなかでもロボット支援手術について、詳しく解説します。
東京都立多摩総合医療センター 泌尿器科 部長
東京都立多摩総合医療センター 泌尿器科 部長
日本泌尿器科学会 泌尿器科専門医・泌尿器科指導医日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医・指導医日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会 泌尿器腹腔鏡技術認定者日本内視鏡外科学会 技術認定取得者(泌尿器科領域)日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医
東京都立多摩総合医療センター部長を務め、ダウィンチ手術を含めた泌尿器悪性腫瘍に対する手術を行っている。癌に対する薬物療法にも精通しており、日本で数少ないがん薬物療法専門医である。特にがん免疫療法に精通しており、米国ジョンズホプキンス大学に留学し、PD-L1を発見したChen教授の元で研究していた経歴を持つ。
東 剛司 先生の所属医療機関
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