概要
劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、溶連菌の一種であるA群溶血性レンサ球菌が原因で発症する感染症です。急激に進行して手足が壊死*したり、複数の臓器がはたらかなくなったりするなどの深刻な症状を引き起こします。メディアでは “人喰いバクテリア”とも報道されています。
国内では毎年100〜200人の発症が確認されていましたが、近年は患者数が増加し、2023年の届出数は941人を記録しました。2024年は6月時点で977人(速報値)と過去最多の感染が報告されています。子どもから大人まで幅広い年齢層で発症しますが、特に30歳以上の大人に起こるケースが多く、健康な方も例外ではありません。
通常は、A群溶血性レンサ球菌に感染しても喉の痛みや発熱、赤い小さな発疹などの症状に留まります。しかし、劇症型溶血性レンサ球菌感染症では、かぜや手足のけがなどをきっかけに細菌が血液や筋肉などに広がり、急速に進行して皮膚や筋肉など体のさまざまな組織を破壊し始めます。初期症状としては、感染部位の強い痛みや腫れ、赤みのほか、発熱や寒気などかぜやインフルエンザに似た症状がみられます。その後は数十時間で症状が急激に進行し、皮膚や筋肉の壊死のほか呼吸困難や意識障害、多臓器不全**などの重い症状を引き起こします。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、迅速な診断が非常に重要です。画像検査や血液検査では確定できないため、皮膚の色が変化しているなど疑わしい部位を切開し、その部分の皮膚や皮下組織の色、血の巡り(壊死していると出血しにくい)、細菌の有無などを確認します。
治療では、感染の疑わしい部分を切開して取り除く手術を行います。この手術は広範囲に及ぶことが多く、緊急性が高いため、経験のある救命救急センターや大学病院での対応が必要です。抗菌薬による治療も行いますが、まずは患部の切開を最優先に行い、加えて点滴や輸血などが実施されます。
この病気は進行が非常に早いため、早期の発見と治療が重要です。手足の傷口周辺に痛みや腫れなど疑わしい症状がある場合は注意が必要です。しかし、特に傷口がなくても発症する場合もあり、手足のほか、片側の胸や脇腹、首に症状が起こることもあります。これらの部位の片側が痛む、発熱があるなどの症状がある場合は、早急に専門の医療機関を受診する必要があります。
*壊死:体の一部の細胞や組織が死滅すること。
**多臓器不全:心臓、腎臓、肝臓、肺、脳などの重要な臓器のうち、2つ以上の臓器が正常にはたらかなくなる状態。
原因
A群溶血性レンサ球菌という細菌に感染することで発症します。しかし、同じA群溶血性レンサ球菌でも、全てが劇症型感染症を引き起こすわけではありません。普段は細菌がいない血液や筋肉、肺などに侵入すると “劇症型”の重い症状を引き起こすと考えられています。
一般的なA群溶血性レンサ球菌の感染経路には、感染者の咳やくしゃみによって放出される飛沫を吸い込むことで感染する飛沫感染、細菌が付着した手で自分の口や鼻に触れることで感染する接触感染、細菌が付着した食品を口にすることで感染する経口感染があります。
一方、劇症型ではA群溶血性レンサ球菌が喉や鼻の粘膜や両手両足(四肢)の傷口から体内に入り込み、血液や筋肉、肺などに侵入して重症化するといわれていますが、詳しい感染経路についてはまだ分かっていません。
症状
劇症型溶血性レンサ球菌感染症の初期症状と進行時にみられる症状は以下のとおりです。
初期症状
初期症状としては、手足の傷口周辺などの感染部位に強い痛みや腫れ、赤みが生じるのが特徴です。そのほか発熱、喉の痛み、食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢、全身のだるさ、めまい、筋肉痛などかぜやインフルエンザのような全身症状が現れます。しかし、これらの初期症状が現れない場合もあります。
進行したときの症状
発症してから数十時間で急激に進行すると、以下のような重い症状を引き起こし、命に関わる状態になる可能性があります。
- 皮膚や筋肉周辺の壊死……手足など感染部位の皮膚や筋肉周辺の細胞が破壊されて死滅する
- 循環不全……体に必要な血液が行き渡らない状態
- 呼吸不全……体に十分な酸素を取り込めない状態
- 血液の凝固異常……血が固まりやすくなったり、反対に固まりにくくなったりする状態
- 多臓器不全……肝臓や腎臓など生命に重要な臓器が2つ以上うまくはたらかなくなる状態
検査・診断
診察では、感染部位の強い痛みや短時間で急激に悪化する全身症状など、劇症型溶血性レンサ球菌感染症に特徴的な症状があるかを確認します。その後、感染が疑われる部位や血液などに細菌がいるか調べる細菌検査を行い、A群溶血性レンサ球菌が検出されるか確認します。そのほか、感染の状態を確認するために、血液検査やX線検査、CT検査などが行われることもあります。
治療
劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、症状が急激に進行するため迅速な診断と早期の治療が大切です。治療では、まず感染の疑わしい部分を切開して取り除く手術を行います。広範囲の切除になることが多いため一般の病院では対応ができません。進行が早く時間が経過すると命に関わるため、すぐに経験のある救命救急センターや大学病院での対応が必要です。
手術に加えて、A群溶血性レンサ球菌の増殖を抑えるペニシリン系の抗菌薬が投与されます。壊死が生じた場合は、壊死した部位からの感染拡大を防ぐために、壊死した部位やその周辺の組織を切除する手術が行われます。
症状が進行して意識障害が起こったり、血液循環や呼吸などが困難になったりした場合は、血圧を上げるために輸液*や薬剤の投与のほか、呼吸を改善するために酸素投与や人工呼吸器の装着を行い、全身状態の回復を図ります。
*輸液:血管から体内に栄養や水分、薬剤などが含まれた液体を入れること。生命の維持や栄養補給などを目的に行われる。
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