概要
単純ヘルペス脳炎とは、単純ヘルペスウイルスの感染が脳に及ぶことによって、脳に炎症が生じる病気です。
症状は発症年齢により異なります。発症後早期に現れる症状としては、小児では発熱、けいれん、意識障害などが挙げられます。一方、成人では発熱、頭痛などかぜの症状、嘔吐、意識障害、けいれんなどの症状が現れます。
治療後にも症状が残ることがあり、小児ではてんかん、神経発達に関わる症状、麻痺などがみられます。成人では記憶に関わる症状、パーソナリティ(いわゆる性格、人格)の変化、てんかんなどがみられます。
単純ヘルペスウイルスはありふれたウイルスであり、初感染の場合には口内炎や歯肉炎などを発症することがあります。また、過去に感染して体内に潜んでいたウイルスが再活性化すると、口角などに痛がゆい発疹を生ずる単純疱疹(いわゆる“ヘルペス”)を発症することが一般的です。単純ヘルペス脳炎を発症することは非常にまれであり、日本では1年間に100万人あたり3.5~3.9人が単純ヘルペス脳炎に罹患するといわれています。
なお、単純ヘルペス脳炎は命に関わる可能性がある病気であり、発症した場合はできる限り早急に治療を開始することが重要です。発熱や頭痛に続いて、意識障害やけいれんなどの症状がみられた際は、救急を要請するなど速やかに医療機関を受診しましょう。
原因
単純ヘルペス脳炎は、感染した単純ヘルペスウイルスが神経や血液を通って脳に達することで発症するとされています。単純ヘルペスウイルスの感染は、主に接触感染(直接触れて感染すること)や飛沫感染(せき、くしゃみなどの飛沫により感染すること)などにより生じます。
小児の単純ヘルペス脳炎では、3分の1は初めて単純ヘルペスウイルスに感染した際に、3分の2は体内に潜んでいたウイルスが再活性化することにより発症するといわれています。成人はほとんどの場合、ウイルスの再活性化により発症すると考えられています。
症状
単純ヘルペス脳炎の発症後に現れる症状として、発熱、意識障害、けいれんなどが挙げられます。ただし、発症する年齢などによって症状の現れ方や経過が異なるほか、治療後に症状が残ることもあります。
小児の場合
小児が発症すると、早期には発熱やけいれんが多くみられるほか、意識障害や構音障害*、性格の変化が生じることもあります。また、成人と比べて症状の進行が速いとされています。治療後に残ることがある症状としては、てんかん、神経発達に関わる症状、麻痺などが挙げられます。
*構音障害:舌、喉、口周りの神経や筋肉に障害が起こり、適切に発音できなくなる症状。
成人の場合
成人が発症すると、主に発熱、頭痛、鼻水などのかぜ症状にはじまり、その後、意識障害、けいれん、言動の異常などの症状が現れます。しかし頭痛や発熱などの初期症状には個人差もあり、ほとんど頭痛や発熱がみられないケースもあります。
治療後に残ることがある症状としては、記憶に関わる症状、パーソナリティの変化が多く、そのほかに、てんかんや運動機能に関わる症状などもみられます。
検査・診断
単純ヘルペス脳炎が疑われる場合は主に以下の検査を行います。
画像検査
脳の状態を評価するために、まずはMRIまたはCTによる画像検査を行います。画像検査の結果、ウイルス性脳炎の特徴がみられる場合には、単純ヘルペス脳炎の確定診断を待たずに抗ウイルス薬による治療を開始します。
髄液検査
髄液を採取して細胞の数や病原体の有無などを調べる検査です。
単純ヘルペス脳炎では、髄液中の単純ヘルペスウイルスの存在、リンパ球の細胞数などの成分を調べることで、確定診断につなげることができます。なお、初回の髄液検査の結果が正常だった場合でも、時間をおいて再検査を行うことがあります。
治療
単純ヘルペス脳炎の基本的な治療として、抗ウイルス薬を用いた薬物療法を行います。単純ヘルペス脳炎は発症後速やかに治療を開始することが重要とされており、疑いがある場合は髄液検査の結果を待たずに治療が開始されます。また、現れている症状やその進行により、副腎皮質ステロイド薬を使用する場合もあります。
意識障害や呼吸の異常などの神経症状が重篤な場合、全身状態が悪い場合などには、集中治療室で治療が行われることもあります。
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