概要
卵円孔開存症とは先天性心疾患の1つであり、心臓の右心房と左心房を隔てる“心房中隔”の一部が完全に閉じていない状態のことを指します。
出生前の胎児期には、心臓の上部にある右心房と左心房の間の壁(心房中隔)に、組織が重なり合うようにしてできた穴が開いています。この穴を“卵円孔”といい、胎盤を通して流れてくる酸素を含んだ血液が“母親から”胎児の全身に循環するために必要な穴です。卵円孔は通常、出生後に自然に閉鎖されます。しかしながら成人の4~5人に1人は、卵円孔が完全には閉じていないといわれています。このように卵円孔が開いたままの状態のことを“卵円孔開存(Patent Foramen Ovale : PFO)”といいます。PFO自体が問題を起こすことは通常ないのですが、足の血管などに血の塊(血栓)ができると、この穴を通って脳の血管を詰まらせ脳梗塞を起こすことが知られており、これは奇異性脳梗塞と呼ばれています。
原因
どのようなメカニズムで卵円孔が閉鎖しないのか明確には解明されていません。しかし、上記のように多くの健康な方がこの卵円孔開存を有しており、頻度の高い心疾患の1つといえます。
症状
卵円孔開存症は通常目立った症状は起こさないと考えられています。
心房中隔の一部がいわゆる“弁”のような構造になっているため、心臓内の血液の流れに異常が生じることはほとんどなく、心臓病で一般的にみられる動悸・息切れ・胸の痛みなどの症状は通常現れません。
しかし、咳や排便などにより腹圧がかかるような状況になると右心房内の圧が高くなり、この弁(卵円孔)を通じて左心房内に血液が流入することになります。その際、何らかの原因で下肢の静脈に血栓が生じていた場合、その血栓が右心房から左心房に入り込み、脳の血管を詰まらせて脳梗塞を引き起こすケースがあります。このように卵円孔開存症によって引き起こされる奇異性脳梗塞の多くは、60歳未満の比較的若い世代で発症することが知られており、軽度な場合は頭痛やめまい、視野の異常などを引き起こして自然に改善することもあれば、重度な場合は手足の麻痺や言語障害などが生じることもあります。
検査・診断
卵円孔開存症が疑われる場合は次のような検査が行われます。
心臓超音波検査
体表面や食道から心臓に対して超音波を当て、心臓の形、動き、血流などを観察する検査です。卵円孔開存症は通常は血流の異常が生じないため、息を止めるなど右心房の圧が上昇する状況を作り出しながら検査を行います。卵円孔開存の有無を調べるために必須の検査となるため、疑われた場合は第一に行われます。
心電図検査
心臓を構成する筋肉の電気的な動きを記録するための検査です。心電図検査のみでは卵円孔開存の有無を評価することはできませんが、奇異性脳梗塞が疑われた場合、他の原因による脳梗塞(多くは、心房細動という不整脈から生じる脳梗塞)を除外する目的で、心臓に電気的なはたらきの異常がないか確認するために行われることが一般的です。
治療
卵円孔開存症による奇異性脳梗塞と診断された場合は、まずは神経内科、脳外科などで脳梗塞に対する薬物治療やリハビリなどの治療が行われます。その後、脳梗塞の再発予防のために以下のような治療が行われます。
薬物療法
アスピリンのような抗血小板薬や、ワルファリンカリウムなどの血をサラサラにする抗凝固薬の内服を行います。
カテーテル治療
卵円孔開存により脳梗塞の再発リスクが高いと判断された場合は、カテーテル治療が選択されます。2019年からは日本でもカテーテルを用いて卵円孔を閉鎖する器具を留置する治療が認可されました。右心房と左心房の間に開存するPFOを行き来する血流を遮断するように作られた器具(デバイス)をPFOの穴にはめ込んで塞ぎます。カテーテル治療は通常、ふとももの付け根(そ径部)から細い管を入れて行います。局所麻酔または全身麻酔を用いて1~2時間程度で行われる、体への負担が小さい治療法です。
手術
カテーテル治療の進歩により手術が行われるケースは少なくなっていますが、カテーテル治療が困難な場合や、その他に心臓手術の必要な病態を合併している場合は、脳梗塞の発症を防ぐためにも手術によって卵円孔を閉鎖することがあります。
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