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立ち上がるときに膝が痛む変形性膝関節症の症状と原因――​​O脚との関連も?

立ち上がるときに膝が痛む変形性膝関節症の症状と原因――​​O脚との関連も?
石川 博之 先生

横須賀市立市民病院 関節外科・人工関節センター 診療部長・人工関節センター長

石川 博之 先生

目次
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膝は、人が立ったり歩いたりするときに重要な役割を果たしています。骨と骨が合わさっている膝関節は、直接骨同士がぶつからないように軟骨で覆われていますが、加齢や肥満、O脚などが原因で膝関節の軟骨が減少すると、膝の骨同士が直接ぶつかり合ってしまいます。このことが要因で炎症や変形が生じた状態を「変形性膝関節症」といいます。変形性膝関節症は進行性の病気であり、病気を根治する治療法は2019年5月現在のところ確立されていませんが、膝への負担を軽減させることで進行をできるだけ遅らせることが可能です。本記事では変形性膝関節症について、横須賀市立市民病院 関節外科部長の石川博之先生にお話しいただきました。

変形性膝関節症とは、膝の関節にある軟骨が徐々にすり減って骨が露出し、骨同士がぶつかり合うことで、骨が変形してしまう病気です。膝に慢性的な炎症や変形が生じ、痛みや脚の変形などの症状が現れます。2008年の厚生労働省の報告によると、本邦における、自覚症状を有する変形性膝関節症の患者数は1,000万人に上るとされており、40歳以上の男性の4割以上、女性の6割以上が変形性膝関節症をきたしているという報告もあります。

変形性膝関節症の病態(初期~中期、進行期)※骨棘(こつきょく)…骨の組織が棘(とげ)状に増殖した状態
変形性膝関節症の病態(初期~中期、進行期)※骨棘(こつきょく)……骨の組織が(とげ)状に増殖した状態

変形性膝関節症の患者さんの男女比は1:4と、女性に多いことが特徴です。この理由ははっきりと解明されていませんが、一部で骨粗しょう症との関連が指摘されています。

変形性膝関節症は、脛骨(けいこつ)というすねの内側の骨の強度が低下することが原因として注目されています。骨の弱くなる原因のひとつが骨粗しょう症であり、骨粗しょう症は女性に多い病気です。このような理由から、変形性膝関節症は女性に多くみられるのではないかという見方があります。ただし、2019年5月現在、両者の関係性はまだ研究段階です。今後のさらなる解明が求められるでしょう。

変形性膝関節症は、原因の有無によって一次性変形性膝関節症と二次性変形性膝関節症に大きく分類されます。

一次性変形性膝関節症とは、明確な原因がないタイプの変形性膝関節症です。これに対して、けがや病気など明確な原因があって発症するタイプのものを、二次性変形性膝関節症といいます。具体的には、膝周辺の骨折捻挫や関節軟骨損傷、靱帯損傷、半月板損傷、特発性膝骨壊死、感染など、けがや別の病気などが二次性変形性関節症の原因となります。

日本における変形性膝関節症の患者さんのほとんどは、明確な原因がない一次性変形性膝関節症に該当します。

変形性膝関節症は、関節軟骨の変性と摩耗によって生じます。発症には加齢や筋肉の衰えなどが要因になることが知られていますが、現在のところ一次性変形性膝関節症のはっきりとした原因は特定されていません。軟骨の破壊に関与する物質や、リスク要因になる遺伝子がいくつか報告されていますが、予防や治療に結びつく明確な根拠は示されていないのが現状です(2019年5月時点)。

ただしもともとO脚の方は、変形性膝関節症に特に注意が必要です。

通常、人が立っているときには、膝の内側と外側の両方に体重がかかっています。しかしO脚の場合は、膝の内側にかたよって体重がかかります。大きな負荷がかかっている膝の内側の軟骨は、通常に比べて摩耗しやすいため、O脚の方は変形性膝関節症に至るリスクが高いと考えられています。また、変形性膝関節症が生じるとさらにO脚が進行します。

変形性膝関節症の主な症状は、起立時や階段昇降時に生じる「痛み」です。痛みの特徴として、歩き出した際に痛みを感じるものの歩行機能には問題がないこと、動きを中断してしばらく休むと痛みがなくなることなどが挙げられます。

変形性膝関節症による痛みの症状を繰り返すうちに、歩行時痛が悪化します。骨棘が増殖すると、膝関節の可動域が制限されて膝を伸ばせなくなったり、正座ができなくなったりします。長時間の歩行後や重い物を運搬した後など、運動後に急に痛みが強くなることもあります。膝関節に水(関節液)が溜まる場合もあります。関節に水が溜まると、膝が腫れて曲げにくくなります。

脚に力がかかる動作をした際に、骨同士が当たっているようなゴリゴリという異音を自覚することもあります。

痛みが強まり、平地歩行に支障をきたすようになります。膝関節がうまく曲げ伸ばしできなくなり、仕事や買い物といった日常生活にも影響が及ぶことがあります。骨の変形が進むため、O脚がさらに目立ちます。

変形性膝関節症は、関節軟骨の老化や摩耗によって生じます。人の関節軟骨は年齢を重ねるにつれてどうしても老化してしまいます。このように考えると、厳密な意味で変形性膝関節症にならないという予防法はないのかもしれません。ただし、進行をできるだけ遅らせることはできると考えます。

変形性膝関節症の進行を遅らせるためには、日常生活で膝への負担を減らすことが重要です。

膝への負担を考慮したとき、特に避けることが望ましい姿勢は「正座」です。

日本は歴史的に、「正座」という文化があります。日本人であれば、正座ができることは当然のように感じられるかもしれませんが、実は人間の膝は構造的に正座をするように作られていません。正座をするとき、膝にはかなりの負担がかかってしまいます。このような理由から、正座はできる限り避けることを推奨します。

肥満の場合、重い体重が膝への大きな負担となります。太りすぎないように注意が必要です。肥満の方は、減量して膝への負担を少なくしましょう。

関節軟骨は加齢に伴い少しずつ減少して、緩みが生じてきます。この緩みを抑えるには、太ももの前側にある大腿四頭筋を鍛えることが重要です。このほか、太もも裏の大腿三頭筋(ハムストリングス)やふくらはぎの下腿三頭筋も鍛えるとよいでしょう。

大腿四頭筋を鍛える運動の例
大腿四頭筋を鍛える運動の例(画像提供:PIXTA)

変形性膝関節症は進行性の病気です。痛みの症状は、初期段階であれば体を傷つけない保存療法(詳細は記事2)で多少改善が期待できます。

しかしながら保存療法では、病気そのものを治すことはできません。保存療法を続けていても少しずつ症状が進行していき、やがて生活に支障が生じるほど膝が動かなくなる可能性があります。このため、手術を受けられる状態であれば早期に手術を行うことが、長期的な予後の向上には重要になってくると考えています。

記事2」では、変形性膝関節症における保存療法と手術療法について詳細に解説します。

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