破裂すると命に危険を及ぼす大動脈瘤。したがって、大動脈瘤の治療では破裂を未然に防ぐことが重要です。では、大動脈瘤の治療にはどのような治療選択肢があるのでしょうか。
今回は、山梨県立中央病院 心臓血管外科の津田 泰利先生に大動脈瘤の治療についてメリットとデメリットを含めてお話を伺いました。
大動脈瘤の治療選択肢には、手術と薬物療法があります。下記の手術適応に当てはまらない大動脈瘤の場合には薬物療法が選択されます。
破裂の危険が手術による生命危険を上回ると考えられる場合に、手術が治療選択肢として考慮されます。日本循環器学会が公開している2020 年改訂版大動脈瘤・大動脈解離診療に対するガイドラインでは、一般的な大動脈瘤の場合、胸部大動脈瘤は直径55mm以上、腹部大動脈瘤では直径50~55mm以上で手術療法を考慮することを推奨しています。このように治療の適応は、動脈瘤の大きさや形態によって決定するのです。
しかし、その適応基準は施設ごとに少しずつ異なります。私は以前直径40mmの腹部大動脈瘤で破裂した患者さんを経験したので、特に腹部大動脈瘤では患者さんと相談のうえ、基準よりも少し小さい45mm以上の段階で手術を行うこともあります。
薬物療法では血圧を下げる薬を内服いただき、血圧を至適範囲内(最高血圧130mmHg未満/最低血圧80mmHg未満)になるようコントロールをしながら定期的なCT検査で経過を見ていきます。また、高血圧の予防の一環として塩分制限や禁煙を行うことも重要です。
しかし、薬物療法によって大動脈瘤が縮小することはありません。ですから、あくまで拡大するスピードを落とすことが目的の治療という点はご留意ください。
人工血管置換術は、大動脈瘤を切除して耐久性に優れているポリエステル製の人工血管に取り替える手術です。基本的に人工血管は生涯にわたり交換する必要がありません。
胸部大動脈瘤の場合、心臓を止めて手術しなければならないため、体外循環*を用いて手術を行います。一方、腹部大動脈瘤は体外循環を用いることはあまり多くありません。しかし、腎動脈より上に位置している腹部大動脈瘤では血流を止めて手術する必要があるため、その場合は体外循環を使用します。
*体外循環:心臓を止める、または大動脈を遮断するなどしても全身に血液が流れるように人工心肺などの装置を用いて血液循環を保つこと
【人工血管置換術のメリット】
【人工血管置換術のデメリット】
ステントグラフト内挿術とは、金属製のリングで裏打ちされた人工血管であるステントグラフトを用いた治療です。本治療の特徴は、切開創が3cmほどと小さいため患者さんの体への負担が少ない点がメリットとして挙げられます。
医療用の細い管であるカテーテルの中に収納したステントグラフトを主に足の付け根の血管から大動脈瘤の前後を含めた大動脈内にカテーテルごと運搬し適切な位置で展開します。こうすることで大動脈瘤の中にパイプを通すことになるので、大動脈瘤内の血流はステントグラフトの中を流れるようになって大動脈瘤壁には血圧がかからなくなります。大動脈瘤は体内に残存しますが、ステントグラフトの中だけにうまく血液が流れるようになるため、破裂の危険性を防ぐことにつながるのです。
【ステントグラフト内挿術のメリット】
【ステントグラフト内挿術のデメリット】
大動脈瘤の治療における最終目的は破裂を予防することです。その点では、人工血管置換術は確実性に勝ります。しかしながら、人工血管置換術では胸やお腹を大きく切開する必要があるため、破裂の危険はなくなったとしても術後に寝たきりの状態から回復するまで時間を要することもあります。特にご高齢の方にとっては体への負担が大きくなります。
ですから、高齢の方で手術の体力的負担が心配な方はステントグラフトを、比較的若年で体力がある方は人工血管置換術を選択することが多くなっています。若い方がステントグラフト内挿術を選択した場合には、高齢になるまで長期間にわたって動脈瘤の再拡大の有無をチェックしていかなければなりません。一方、それをご承知のうえで早期の仕事復帰を優先し、ステントグラフト内挿術を選択する現役世代の患者さんもいらっしゃいます。
お話ししたように人工血管置換術とステントグラフト挿入術のいずれの外科的治療であっても、それぞれにメリットとデメリットがあります。大動脈瘤は発見されたとしても治療を受けるまで比較的時間に余裕がある病気です。また、破裂するまでは無症状な場合も多い病気ですから慌てて治療方針を決めずに、心臓血管外科専門医から両方の治療法について十分な説明を聞いてから、受ける治療法を選択することが重要であると思います。
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山梨県立中央病院 心臓血管外科部長・循環器病センター長
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