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大腸がんの手術――腹腔鏡手術や肛門温存手術について

大腸がんの手術――腹腔鏡手術や肛門温存手術について
西口 幸雄 先生

大阪市立総合医療センター 病院長(大阪市立十三市民病院 元院長)

西口 幸雄 先生

井上 透 先生

大阪市立総合医療センター 消化器外科 部長(大阪市立十三市民病院 元外科部長)

井上 透 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年08月08日です。

大腸がんは、患者さんの状態や、がんが生じた場所によって手術方法が異なります。それぞれの手術方法には、どのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。また、数多くの大腸がん手術を手がける大阪市立十三市民病院は、どのような取り組みを行っているのでしょうか。

今回は、大腸がんの手術について、大阪市立十三市民病院 院長である西口幸雄(にしぐちゆきお)先生と、同病院の外科・消化器外科部長である井上 透(いのうえとおる)先生にお話をお伺いしました。

大腸がんのステージ分類については記事1『大腸がんのステージ分類――手術対象はステージⅢまで?』をご覧ください。

大腸がんの手術には、主に開腹手術と、腹腔鏡(ふくくうきょう)*を用いた腹腔鏡下手術があります。患者さんの状態や病院の治療方針によって、それぞれの手術方法が選択されます。

腹腔鏡:先端にカメラがついた小型の内視鏡

がんが大きい場合や、複数回手術をしているなどの理由で癒着が想定される場合は、腹部の真ん中を数10cmほど切開する開腹手術を適応します。

開腹手術のメリット

医師が直接手で患部に触れられることが、開腹手術の大きなメリットです。患部だけではなく、患部以外にも異常がないか手でしっかり触って確認することができます。

開腹手術のデメリットやリスク

上述のようなメリットがある一方で、腸を広く触ると腸のはたらきが悪くなってしまったり、癒着がひどくなったりするというデメリットもあります。また、手術後に腸閉塞や、回復が遅くなるなどのリスクが考えられます。さらに、手術による傷が腹腔鏡手術に比べて大きいため、術後の痛みが強い場合もあるでしょう。

腹腔鏡下手術とは、腹腔鏡と呼ばれる内視鏡を挿入し、お腹の中をモニターに映し出しながら、腸管の切除や、切除した腸管をつなぎ合わせる吻合(ふんごう)などを行っていく手術です。当院では、腹腔鏡下手術の適応を基本としています。

腹腔鏡下手術のメリット

腸を手で直接触ることが少ないため、術後の癒着が少なく回復が早いことが、腹腔鏡下手術の大きなメリットです。傷が小さいため痛みや出血が少なく、翌日から歩ける方も多いようです。

腹腔鏡下手術は、体に負担の少ない低侵襲であるという特徴から、高齢者に適応を広げることができる手術とも考えられます。高齢の方であっても、歩いて診察室に来ることができ、自分で横になり起き上がれるほどの体力がある方なら手術が受けられるケースがあります。場合によっては、90歳以上の方でも、腹腔鏡下手術を受けられることがあります。

腹腔鏡下手術のデメリットやリスク

腹腔鏡下手術によって、合併症が起こる可能性があります。たとえば、出血や感染症、皮下気腫*などが起こることがあるでしょう。

皮下気腫:腹腔鏡手術で皮下に炭酸ガスが入り手術後に首回りが膨らむこと

当院では、負担の少ない手術を目指して、複数回の開腹歴や癒着がなければ、基本的に腹腔鏡下手術を検討します。たとえば、これまでに手術歴があっても手術箇所が腸でなかった場合には、基本的に腹腔鏡下手術を適応します。

ただし、腸の手術歴がある場合は、癒着している可能性があります。そのため、腹腔鏡でお腹の癒着状態を見て難しいと考えられるときは、開腹手術に切り替えることもあります。また、腹腔鏡下手術中に多量の出血が起こった場合も開腹手術に切り替えることがあるでしょう。

“腹腔鏡下手術のメリット”の項目でお話ししたように、体への負担が少なく回復が早いことが、腹腔鏡下手術の大きなメリットです。腹腔鏡によって拡大して見ることで、細かい血管や神経まで確認することができ、出血を防ぐことにもつながります。

当院では、切除した大腸を吻合するよう努めています。そして、可能な限り、一時的な人工肛門(ストーマ)*をつくることがないよう工夫しているのです。たとえ一時的だったとしても、これまで通り排泄できないことで、肉体的、精神的なストレスを抱えることがあるからです。

患者さんのこのような負担を少しでも減らすため、当院では、大腸をつなげて問題がない状態であれば、可能な限り吻合するようにしています。

人工肛門:お腹から腸の一部を外に出してつくる肛門に代わる便の出口。一時的に人工肛門を設け、回復後に閉じることもある

記事4で詳しくお話ししますが、当院では栄養サポートチーム(NST)が中心となり、手術前の栄養療法にも力を入れています。NSTとは、医師、歯科医師、看護師、薬剤師、管理栄養士などで構成されたチームです。

術前の栄養状態が良好であると、合併症など手術時のリスクを減らすことができ、術後の経過の悪化を防ぐことにつながります。そのため、当院では、術前から一人ひとりの患者さんに合わせた栄養管理を行うようにしています。

大腸がんは、がんが生じた場所によって手術方法が異なります。盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸にできたがんは、結腸がんと呼ばれます。直腸S状部、上部直腸、下部直腸にできたがんは直腸がんと呼ばれます。

結腸がんの手術は約3時間、直腸がんの手術は4~5時間ほどかかります。

結腸がんの手術では、がんができた部分の大腸を切除して、腸管をつなぐ手術が行われます。結腸がんの手術には、大きく分けて以下の種類が挙げられます。

  • 回盲部切除術
  • 結腸右半切除術
  • 横行結腸切除術
  • 結腸左半切除術
  • S状結腸切除術

直腸がんの手術には、大きく分けて以下の種類が挙げられます。

直腸局所切除術

早期の直腸がんに適応される手術で、肛門からがんを切除します。

高位前方切除術

腹膜反転部*より上で腸をつなぐ手術で、肛門は温存されます。

腹膜反転部:内臓を包む腹膜が反転しているところ

低位前方切除術

腹膜反転部より下で腸をつなぐ手術で、肛門は温存されます。

直腸切断術(腹会陰式直腸切断術:APR)

マイルス手術とも呼ばれる直腸切断術は、肛門を切除するため人工肛門が作られます。

肛門温存手術(括約筋間直腸切除術:ISR)

肛門に近い下部の直腸がんでも、状態によっては肛門を温存することができます。

次項で詳しく説明します。

肛門温存手術であるISRは、肛門を残すことができる手術方法です。

肛門には、無意識にお尻を締めている内肛門括約筋と、意識的に締めることができる外肛門括約筋があります。このうち、内肛門括約筋をがんと共に切除し、肛門と直腸をつなげます。一時的に人工肛門を作ることが多いですが、数か月後に閉鎖して自然排便ができるようになります。

直腸がんの方で肛門からがんがあるところまで3cmほどあり、外肛門括約筋にがんが広がっていない場合は、肛門温存手術を受けられる可能性があります。

ただし当院では、70歳以上で肛門温存手術への強い希望がない方には、基本的に人工肛門をすすめています。将来的なことを考えると、患者さんのご家族にとっては人工肛門のほうが介護しやすいからです。肛門温存手術は患者さんだけではなく、そのご家族へ将来的にかかる負担や環境なども考慮したうえで提案しています。

肛門温存手術のメリットは、なんといっても自然排便ができることです。社交ダンスなど人との距離が近いスポーツや仕事をしている方にとっては、においや音を気にしなくてよいため、人工肛門がないことは大きなメリットになります。

デメリットとしては、内肛門括約筋を切除するため便漏れ、便が近くなる、便意があるのに出ないなどの症状が出ることがあります。

便秘になった場合は、下剤を処方できるため医師に相談してください。下剤を飲むことで、便通をうまくコントロールすることができます。

食後は腸が過敏になり、食事のたびに排便が起こることがあります。就寝中の便漏れ対策としては、夜ご飯は少なめにするとよいです。

また、つま先立ちをする、仰向けになってお尻を上げるなどの肛門括約筋体操をすることで、外肛門括約筋は鍛えることができます。術後のリハビリとしてやってみてください。

大阪市立十三市民病院では、手術から48~72時間後に、シャワーの許可を出しています。また、湯船につかるのは、術後7~10日経っていればよいと伝えています。シャワーや入浴の許可については、主治医の先生に確認しましょう。

術後2週間ほど経ち、経過が良好であれば、ウォーキングやジョギングなど軽い運動を始めて構いません。ただし、ゴルフなどお腹をひねるスポーツは1か月ほど控えるよう患者さんに伝えています。

ラグビーやサッカーなど人と接触する激しいスポーツは、患者さんの状態にもよりますが、3か月後を目安に許可を出すことがあります。

大腸がんの手術後は、腸閉塞が起こりやすい状態です。暴飲暴食は腸閉塞の原因になるため、食べ過ぎないようにしましょう。

大腸がんの手術後の食事について、詳しくは記事4『大腸がんの手術前や手術後の食事――術前の免疫栄養療法で合併症を予防できる?』をご覧ください。

西口先生

西口幸雄先生:

日本は、世界の中でも大腸がんの治療が進んでいる国です。手術や内視鏡治療に関して経験を重ねた医師が、よりよい大腸がん手術を目指して日々取り組んでいます。

つらいこともあるかもしれませんが、諦めずに治療することで改善する可能性もあります。希望をもって治療に取り組んでほしいと思っています。

井上先生

井上 透先生:

院長である西口先生を筆頭に、当院は、あらゆる状態の大腸がんの患者さんを受け入れています。「がん難民をつくらない」という決意のもと、さまざまな治療に対応しているのです。治療が難しい症例であっても対応することができるよう、日々技術を磨いています。安心して治療を受けることができる体制を築いていますので、不安を感じることなくお越しいただきたいと思います。

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