概要
心室中隔欠損(VSD)とは、心室中隔(右心室と左心室を2つの空間に分けている筋肉の壁)に穴が開いている状態を指します。心臓は、右心房・右心室・左心房・左心室の4つの部屋から構成されています。さらに、右心室と左心室は、心室中隔と呼ばれる筋肉で2つの空間に分けられています。
心室中隔欠損症は、先天性心疾患(産まれつき何かしら心臓に病気がある)のひとつですが、そのなかでも一定の割合を占めています。心室中隔の穴は、およそ半数のお子さんにおいて、生後1年以内に自然閉鎖するといわれています。しかし、自然閉鎖をせず、年齢を経てから症状が現れることもあります。また、穴がとても大きい場合や、ほかの心疾患と合併している場合などには、早期の段階から治療介入が必要になることもある病気です。
原因
妊娠4週から8週間目頃の胎児の心臓には、一つの心室しかありません。このころを境として心室中隔が形成されることにより、右心室と左心室との2つの部屋に隔てられます。しかし、心室中隔の形成が不十分であると穴が残ってしまい、心室中隔欠損が生じます。心室中隔のつくられる過程において最後に形成される部分は薄い膜になっています。この薄い膜の部分に穴が残存してしまう膜様部欠損型が一番多いタイプとされています。その他にも穴が残存している部位はさまざまであり、残存している部位に応じて以下のように分けられます。
- 筋性部欠損(心室中隔のなかほど筋肉の壁)
- 流入部欠損型(心室の入り口付近)
- 流出部(漏斗部)欠損型(心室の出口付近)
など
それぞれのタイプに応じて、血行動態も異なるため、症状の現れ方や自然閉鎖傾向、治療法も異なってきます。
なお、ダウン症候群や18トリソミーなどの染色体異常においては、全身疾患の一部として合併することが知られています。また、遺伝子のなかでもNkx2.5、Gata4、Tbx5などが、心室中隔欠損の発生に関与していると考えられていますが、特定の一つの遺伝子が原因であるわけではなく、多因子遺伝によるものと想定されています。
症状
心室中隔欠損の部位、大きさ、合併奇形の存在などによって、病気の進行具合や症状の現れ方には個人差があります。たとえば、大きな心室中隔欠損を抱えるお子さんの場合は、生後早期の段階から症状が現れます。母乳やミルクを飲むのにも疲れてしまい、成長に必要な量を飲めません。そのため、体重増加が悪くなることがあります。また、呼吸が増えることもあります。これらの症状は心不全の症状です。生後すぐに症状は出にくいのですが、出生後、肺や循環動態が母体の外の環境に慣れるにつれて徐々に症状が現れます。
心室中隔欠損症では肺にも負担がかかり、病状が進行すると、チアノーゼ・易疲労感・胸痛・失神・喀血といった症状(アイゼンメンジャー症候群)が現れてきます。また、こうしたお子さんは、普段から心臓や呼吸に負担をかけている状態であり、特に風邪などきっかけとしてさらに呼吸状態が悪くなることがあります。
心室中隔欠損の大きさが小さい場合などには、こうした症状は出ずにしばらく無症状で経過します。なかには治療介入をせずとも、成長とともに自然に穴が閉じることを期待できるお子さんもいます。自然閉鎖は1歳までに起きることが多く、2歳以降に閉じることはまれといわれています。
検査・診断
症状がない場合でも、新生児検診や乳児検診で心室中隔欠損を指摘されることがあります。心室中隔欠損症は、聴診を含めた身体診察に加えて、胸部レントゲン、心電図、心エコー検査をもとに診断されます。心室中隔欠損症では、穴の影響がどの程度心臓や肺に負担をかけているかを判断することも必要です。この判断をするためにも、上記の検査は有効といえます。
また、合併奇形の評価や手術適応を判断するために、心臓カテーテル検査・心臓造影検査といった、より侵襲性の高い検査を行うこともあります。
治療
治療介入(手術や内服薬など)については、心室中隔欠損の大きさや合併症の有無などによって判断します。また、自然閉鎖することが期待できる場合には、経過観察のみでフォローをすることもあります。
穴が小さく、合併する心疾患もないお子さんの場合は、積極的な治療介入をせずに経過観察を行うことが一般的です。一方、症状が出現するほどの大きさの穴を持つお子さんの場合は、内服薬を使用することで心不全症状のコントロールを行います。処方される薬には、利尿剤や強心剤といったものがあります。
内科的な治療でも症状が進行する場合や穴が大きい場合、心臓に別の合併症が疑われる場合には、手術による治療介入が検討されます。手術の方法には心内修復術(心臓の穴を閉じる方法)や、肺動脈絞扼術(心臓から肺へ流れる血流を制限する方法)などがあります。
感染性心内膜炎の予防を
心室中隔欠損症では、感染性心内膜炎という細菌が心臓のなかに巣を形成する病気を発症するリスクが高いといわれています。たとえば、歯科で治療を受けた、大きな怪我をしたなどの場合には、血液中に細菌が入り込むことがあります。そのため、心室中隔欠損症の方は、感染性心内膜炎を予防するためにも、歯科治療後などに抗菌薬を内服することが推奨されます。
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心室中隔欠損症について
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定期検診と悪化について
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