概要
アイゼンメンジャー症候群とは、心室中隔欠損症などの先天性心疾患が長期間未治療で経過した場合に、肺の血管が狭くなりチアノーゼ*などが生じる状態です。
通常、心臓は左心房、左心室、右心房、右心室の4つの部屋に分かれ、左心房と左心室には酸素の多い動脈血、右心房と右心室には酸素の少ない静脈血が流れています。しかし、生まれつき心臓の部屋を区切る壁に穴が開いていたり、大動脈**と肺動脈***がつながっていたりすると、肺に流れ込む血液の量が増えます。この状態で長期間経過すると、肺動脈が狭くなり、肺に流れる血液の量が減ります。その結果、本来肺に送られる静脈血が動脈血の流れる左心房と左心室に流れ込み、全身に酸素の少ない静脈血が流れるようになります。
アイゼンメンジャー症候群では、チアノーゼのほか、失神や運動中の呼吸困難、喀血(肺や気管支から出血し、咳とともに吐き出すこと)などが生じ、場合によっては突然死を引き起こす可能性もあります。心臓の穴や、大動脈と肺動脈のつながりを閉じると、右心室の血液の逃げ場がなくなり危険な状態になるため、原因となる先天性心疾患の修復手術は原則的に行われません。治療の基本は肺血管拡張薬などの薬物治療や酸素吸入などの対症療法ですが、一部の患者では肺血管拡張薬を併用した修復手術や、心肺同時移植が検討されます。
*チアノーゼ:血液中の酸素が不足し、皮膚や粘膜が暗紫色になる症状。
**大動脈:左心室から全身に血液を送る、人体でもっとも太い血管。
***肺動脈:心臓から肺に血液を送る血管。
原因
アイゼンメンジャー症候群は、先天性(生まれつき)の心臓の形態異常が原因で引き起こされます。具体的な先天性心疾患としては、以下のような病気が挙げられます。
心房は心臓に流れてくる血液を受け取り、心室は心臓から血液を送り出す役割があります。左右の心房・心室や、大動脈と肺動脈が生まれつきつながっていることで肺に多くの血液が流れ、肺動脈の圧が高くなる場合があります。
治療をせず経過すると肺動脈の壁が硬く分厚くなり、肺に十分な血液が送れなくなります。そうすると静脈血は、心房・心室や血管のつながりを通って動脈血の側に流れ込み、肺で酸素を受け取らないまま全身へ流れるため、チアノーゼや呼吸困難などが生じます。
症状
チアノーゼや運動中の呼吸困難、疲労、動悸、胸痛、脳血管障害、失神、喀血などさまざまな症状が現れます。チアノーゼが進行すると臓器に酸素が届かなくなり、場合によっては命に関わることもあります。
症状を発症する年齢は原因によって幅があり、生後数年以内に発症する場合もあれば、20~40歳など成人期に発症することもあります。
なお、アイゼンメンジャー症候群の患者は症状が悪化して命に関わる可能性があるため、妊娠・出産を避けるべきとされています。
検査・診断
アイゼンメンジャー症候群は先天性心疾患が原因となるため、心臓の検査を行います。胸部X線検査や心電図検査、血液検査を行ったうえで、カラードプラ法*を用いた心臓超音波検査で血液の流れを確認します。
そのほか、肺動脈圧などを測定するために心臓カテーテル検査を行う場合もあります。
*カラードプラ法:血液の流れを色付けして確認する方法。
治療
通常、心臓の壁に穴が開いている場合はその穴をふさぐ手術を行いますが、アイゼンメンジャー症候群を発症している場合は穴をふさぐと血液の逃げ場がなくなり危険な状態になるため、修復手術は原則的に行われません。ただし、最近は肺血管拡張薬を用いることで、一部の患者では修復手術が可能になるケースもあります。
その他の治療としては、肺移植もしくは心肺同時移植があります。修復手術や移植を実施しない、またはできない場合は、肺高血圧や心不全に対する薬物治療や酸素吸入などの対症療法を行います。
近年、肺血管拡張薬の使用により運動能力や血液中の酸素濃度、生命予後が改善することが報告されています。
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