概要
動脈管開存症とは、本来なら出生後に自然に閉じるはずの“動脈管(大動脈と肺動脈をつなぐ血管)”が開いたままになる病気のことです。動脈管開存症は先天性心疾患の1つであり、そのうちの5~10%を占めるとされています。特に低出生体重児に多くみられ、1,500g未満で生まれた極低出生体重児の34%、1,000g未満で生まれた超低出生体重児の48%が発症して治療を受けているといわれています。
胎児期は、肺呼吸をしていないことから肺に必要な血流量が少なく、心臓から肺に血流を送る肺動脈から全身に血液を送り出す大動脈に直接つながる動脈管が存在しています。この動脈管は、生まれて肺呼吸を始めると肺へ多くの血流が必要になるため、機能的には生後10~15時間、器質的には生後2~3週ほどで自然に閉じるのが通常です。しかし、動脈管の閉鎖が正常に行われず開いたままの状態になると、動脈管を介して大動脈から肺動脈へ血液が逆流します。それにより心臓への負担が増え肺への血流量が増加することで、哺乳不良や体重増加不良などを引き起こします。
原因
動脈管は出生後に肺呼吸を行うことで、血液中の酸素増加とプロスタグランジンという物質の血中濃度低下によって収縮し、機能的に生後10~15時間、器質的には生後2~3週ほどで閉鎖します。
しかし、以下に記載するさまざまなケースによって動脈管の閉鎖が妨げられます。
早産による動脈管組織などの未発達
低出生体重児の動脈管は、正期産と比べて酸素の反応が鈍く、またプロスタグランジンの代謝が未成熟で体内に残りやすいため、動脈管が閉じにくいと考えられています。
さらに低出生体重児は動脈管の組織が十分に発達する前に生まれることもあるため、動脈管が閉鎖しにくいことも動脈管開存症を発症しやすいとされています。
血中の酸素不足
出産時のトラブルや、ほかの先天性心疾患によって血中の酸素が不足した状態になることも動脈管開存症の原因となります。
先天性風疹症候群
妊娠中に母親が風疹ウイルスに感染した場合、胎盤を経由して胎児が先天性風疹症候群を発症することがあります。この先天性風疹症候群も動脈管開存症を引き起こしやすいことが知られています。
症状
動脈管開存症は、出生後に閉じるはずの大動脈と肺動脈をつなぐ“動脈管”が開いたままになる病気です。大動脈は心臓から全身に血液を送り出す血管で、肺動脈は全身を巡って酸素が少なくなった血液が心臓から肺へ送り出される血管です。
胎児期は肺で呼吸をしていないため、肺へ多くの血流は必要なく、肺動脈から直接大動脈へ血液が流れるために動脈管が存在しています。しかし、出生後に肺呼吸を開始すると肺に多くの血流が必要になるため、動脈管が閉塞して大動脈と肺動脈の交通はなくなるのが通常です。また、肺動脈の圧力は出生後に低下していきます。そのため、出生後も動脈管が開いたままの状態になると圧力が高い大動脈から圧力が低い肺動脈へ血液が逆流するため、肺へ送られる血液量が増えて全身へ送られる血液が減少します。
その結果、動脈管が太く血液の逆流量が多い場合は、心臓と肺へ負担がかかるため、脈圧の増加(収縮期血圧-拡張期血圧)や息切れ、多呼吸、頻脈をはじめ、体重増加不良、哺乳不良、多汗などの症状が引き起こされます。
低出生体重児の場合、肺うっ血や心不全などを招きます。また、腸管が壊死する壊死性腸炎といった重篤な合併症を引き起こすこともあり、治療が遅れると命に関わることもあります。
検査・診断
動脈管開存症は特徴的な心雑音を聴取できるのが特徴です。聴診や身体所見などから動脈管開存症が疑われるときは次のような検査を行います。
心臓超音波検査
心臓の形や血液の流れ、機能などを評価できる検査です。動脈管開存症が疑われた場合は第一に心臓超音波検査を行い、開いたままの動脈管の確認や心臓への負担の程度などを評価する必要があります。
画像検査
動脈管開存症は重症な場合、心不全に至ることがあります。そのため、心不全による心拡大(心臓が大きくなる)の有無を確認するためにX線検査を行うのが一般的です。
心電図検査
この病気は不整脈を引き起こすことがあるため、心電図検査を行うのが一般的です。
血液検査
貧血や炎症の有無、肝臓や腎臓の機能など全身の状態を把握する目的で血液検査を行う必要があります。
治療
動脈管開存症は重症度などによって治療方法が大きく異なります。
動脈管開存症と診断された場合でも約3分の1は自然に閉鎖していくとされています。そのため動脈管の開存が認められるものの、症状がなく大動脈から肺動脈への逆流が少ない場合は特別な治療をすることなく経過を見ていくこともあります。一方、上述したような呼吸苦などの心不全症状がある場合は、水分制限を行ったうえで利尿薬などによる薬物療法を行います。また、未熟児動脈管開存では動脈管の収縮を促すインドメタシンという薬物を投与します。
しかし、心不全が進行している場合や、未熟児動脈管開存でインドメタシンが作用しない場合などでは、動脈管を閉鎖するための外科手術やカテーテル治療が必要になります。外科手術では、動脈管を糸で結んだりクリップで閉じたりする開胸手術や、内視鏡の映像を見ながら動脈管をクリップで閉じる胸腔鏡下手術が挙げられます。
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予防
動脈管開存症は早産や先天性風疹症候群が発症に関与していると考えられています。早産の可能性がある場合は、新生児呼吸窮迫症候群(RDS)などのリスクを軽減するため妊婦にステロイドを投与することがありますが、そのステロイド投与が動脈管開存症の予防にもつながると考えられています。また、先天風疹症候群は動脈管開存症以外にもさまざまな症状を引き起こすため、妊娠前にワクチンを接種するなどの対策が推奨されています。
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