動脈管開存症という病気をご存知でしょうか。動脈管開存症は先天性心疾患(生まれつきの心臓病)のひとつであり、日本では高い頻度でみられる病気です。動脈管は通常、赤ちゃんがお腹のなかから出てくる際に自然になくなるものです。しかし、自然になくならずに残ってしまう病気を動脈管開存症といい、それによりさまざまな症状があらわれます。日本における先天性・小児期心疾患のカテーテル治療の第一人者である昭和大学横浜市北部病院 循環器センター センター長の富田 英(とみた ひでし)先生に、動脈管開存症とは何か、またその症状についてお話しいただきました。
動脈管は、赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいる時に必要な血管です。肺動脈と大動脈をつなぐ小さな血管のことをいいます。胎児期には肺が働いていないため、肺にはあまり血液を流す必要がありません。ですから動脈管は、肺には血液を流さず、全身に新鮮な血液を流すために必要となります。赤ちゃんが生まれ、肺で呼吸をするようになるとこの動脈管は必要がなくなります。生後48時間以内に動脈管は縮んで血液はほとんど流れなくなり、生後1〜2日ほどすると完全に閉じてしまいます。
動脈管開存症(patent ductus arteriosus; PDA)とは、動脈管が自然に閉じずに残ってしまう病気です。動脈管開存症は生まれつきの心臓病のひとつで、約2,000人に1人の頻度でみられます。他の生まれつきの心臓病である心室中隔欠損症や肺動脈狭窄などと同様、日本においても高い頻度でみられます。動脈管開存があると、圧力の高い大動脈から圧力の低い肺動脈へ血液が漏れます。全身に流れるべき新鮮な血液の一部が心臓へ逆戻り(大動脈から肺動脈へ流れる)してしまいます。そのため心臓(左心房・左心室)や肺に負担がかかります。動脈管が太いほど流れる血液の量が多くなるため、負担が大きくなります。その場合は子供のうちに症状が出ることもあります。動脈管がそれほど太くない場合は、症状が出ずに気づくことなく成人まで成長することになります。
小さく生まれた赤ちゃんにとっては、大きな動脈管は肺や心臓に大きな負担となります。ふつうの体重で生まれた赤ちゃんでも、動脈管が太く、心臓や肺への負担が大きい場合は、小さく生まれた赤ちゃんと同様に次のような心不全症状がみられます。
これらの心不全症状がみられる場合には早期の治療が必要となります。しかし前項でも述べたとおり、何の症状もなく過ごして成人まで成長し、健診などで偶然、心臓の雑音が聞こえるなどの異常が見つかる場合もあります。ただし、成人までの長期間にわたって心臓に負担がかかっているため、息切れや動悸を生じることもあります。
動脈管開存症の重症度は、無症候性動脈管開存・小さな動脈管開存・中等度の動脈管開存・大きな動脈管開存にわけられます。重症度によって心臓や肺への影響が異なります。動脈管開存症の経過は次のとおりです。
・未手術の場合
動脈管開存が小さい場合、平均寿命は一般人口と同程度です。中等度以上の動脈管開存を有する成人は、加齢とともに心不全・肺高血圧・心房細動などを合併します。
・手術を受けた場合
肺血管の病変を有する成人では、動脈管の閉鎖後にもともとあった肺高血圧が残存することがあります。
昭和大学病院 小児循環器・成人先天性心疾患センター センター長
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