やけどは、Ⅲ度熱傷という最も重いやけどになると皮膚移植が必要になることもあります。重症やけどの子どもは、熱傷センターというやけど専門の治療部門や、小児の集中治療が行える小児専門病院で治療を受けていただく可能性もあるといいます。重症のやけどの治療について、実体験を交えてあいち小児保健医療総合センター救急科医長の池山由紀先生にお話しいただきました。
記事1『子どもがやけどをしてしまったとき すぐに見るべきポイントは何か』で述べたように、やけどの重症度はやけどの深さとその面積を合わせて判断します。やけどの深さの分類は下記の通りで、深達性Ⅱ度熱傷からは瘢痕を残す可能性が高くなります。
表1:臨床症状による深度分類 |
|
分類 |
臨床症状 |
I度熱傷 |
表皮熱傷ともいい、やけどした部分の皮膚が赤くなる。 痛みを伴うが瘢痕は残らず、数日で治る。 |
浅達性II度熱傷(SDB) |
水疱(水ぶくれ)ができ、真皮(皮膚の表面よりさらに下)は赤くなって痛い。 |
深達性II度熱傷(DDB) |
水疱(水ぶくれ)ができて底の部分の真皮は白くなる。 3~4週間程度で上皮化するが、瘢痕やケロイドを残す可能性が高い。 |
III度熱傷 |
皮膚全層が壊死しており、皮膚の色は黒色、褐色または白色。完全に皮膚が炭化したやけども個々に分類される。受傷部位の周りから上皮化が開始されるが、治癒に至るまでは3か月以上かかることもあり、瘢痕が残る。範囲によっては皮膚移植が必要なこともある。 水疱(水ぶくれ)はできず、痛くない。 |
また、Artz(アルツ)の基準というものに従って診断を行うケースもあります。
Artz の基準
- 重症熱傷
・Ⅱ度熱傷で受傷面積が体表面積の30%以上のもの
・Ⅲ度熱傷で受傷面積が体表面積の10%以上のもの
・ 顔面,手,足のⅢ度熱傷
・ 気道熱傷の合併
・ 軟部組織の損傷や骨折の合併
以上は輸液が必要で、特殊な治療をしなければ十分な回復は困難とされます。
- 中等度熱傷(一般の病院で入院加療を要するもの)
・ Ⅱ度熱傷で受傷面積が体表面積の15 ~ 30% のもの
・ Ⅲ度熱傷で受傷面積が体表面積の10%以下のもの(顔,手,足を除く)
以上は輸液が適応となる場合があり、症状に応じて行うことがあります。
- 軽症熱傷(外来で治療可能なもの)
・ Ⅱ度熱傷で受傷面積が体表面積の15%以下のもの
・ Ⅲ度熱傷はあるが受傷面積が体表面積の2%以下のもの
以上の場合、輸液は一般的に不要で、通院加療で十分治療することができます。
(日本皮膚科学会ガイドラインより)
中等症以上のやけどの場合は、皮膚の処置だけでなく、輸液(点滴での水分調整)を含む全身管理など高度な専門的治療が必要となります。そのため後述する熱傷センターや小児集中治療室にて管理を行うことも多いのですが、子どものやけどは上述した分類よりさらに狭い範囲でも入院、集中管理が必要なことがあります。
子どもの場合、体表面積10%を超えたやけどならば入院加療を検討します。10%以下でも、顔面・手足・外陰部・関節面の深い熱傷、あるいは気道熱傷の場合は、多くのケースで熱傷センターなどの専門施設や、小児の集中治療が可能な小児専門病院へ搬送されます。
*熱傷センターについて
熱傷センターとはやけどの治療を専門に扱う治療部門です。皮膚科、形成外科だけではなく、集中治療、麻酔、リハビリといった多職種のチームで治療にあたっています。熱傷センターはやけどの範囲が広く重症なときや化学薬品などによる特殊なやけどの時に行く機関です。
例えば、熱傷センターには熱傷ベッドという特殊な柔らかいベッドが設備されています。この熱傷ベッドに寝ると、皮膚が体重で圧迫されることを和らげることができます。
前述した通り、子どもは大人よりも重症になりやすい傾向があります。やけどを負うとその部分から水分が多量に失われていくことが知られていますが、子どもは体に水分の蓄えが少ないため、やけどにより大人よりも脱水状態になりやすいのです。また、処置の際にじっとできないと処置が難しくなります。そのため、大人のやけどの治療よりも管理が難しいとされます。
やけどの深さは、「原因物質の温度」と「それに触れていた時間」の組み合わせでほぼ決まります。
やけどの原因物質が低めの温度であっても、長い時間それに触れていれば重症のやけどになります。むしろ、低温の物質によってじわじわとやけどしたほうが、高温の物質に短時間触れていた場合よりも重症化する可能性もあります。
私が直面した救急患者さんで、ストーブによるやけどで運ばれてきた乳児の例があります。ストーブの近くで遊んでいた乳児の髪の毛と衣服がストーブに付着して着火し、乳児の背中が燃えたという事故でした。すぐに治療が施されましたが、この乳児の場合は大きく背中をやけどしていて、点滴の治療や毎日の皮膚の処置が必要でした。また、包帯をした上でも仰向けになると擦れて痛みが強く、長期間にわたってうつ伏せになっている必要がありました。しかし1歳に満たない子どもが同じ姿勢、しかもうつ伏せという状態を長く保てるはずがありません。そのため、しばらく挿管(口の中から空気の通り道に管を入れること)し、人工呼吸管理をせざるを得ませんでした。その乳児にも家族にも、さらに大きな負担がかかっていました。
このように、やけどでも重症な場合は、集中治療が必要になるケース、また後遺症が残ったり、最悪は命を落としてしまうケースもあるということを知り、皆さんにやけどを予防する意識を高めてほしいと思います。
「こどもの様子がおかしい」と思ったときは、日本小児科学会が運営する「こどもの救急(ONLINEQQ)」も参考にしてみてください。
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