インタビュー

子どものやけどを予防するための啓発活動―子どもを事故から守るために

子どものやけどを予防するための啓発活動―子どもを事故から守るために
池山 由紀 先生

あいち小児保健医療総合センター 救急科医長

池山 由紀 先生

この記事の最終更新は2016年05月26日です。

子どものやけどは、その多くが予防をきちんとしていれば起こらずに済んだものといわれています。子どもの事故(傷害)は長年曖昧な状態で放置されており、今後は各家庭だけではなく、社会全体で子どもの事故を予防することが必要です。あいち小児保健医療総合センター救急科医長の池山由紀先生に、ご自身の思いを踏まえてお話しいただきました。

子どものやけどは、多くが未然に予防できたものと考えられており、病院に運ばれた子どものやけどの9割以上は、本来なら予防できた可能性があるともいわれています。

軽症できれいに治るやけどもありますが、中には感染症を起こして治りが悪くなったり、ケロイド(傷が治る過程で過剰反応を起こし、傷のない正常部位にまで隆起・かゆみ・痛みを及ぼす皮膚症状)を残してしまったり、事故によるショックで心の傷を負ってしまったりする子どもがいるのも事実です。また、やけどの傷自体はそれほど重症ではなくても、治療に必要な日々の処置は子どもにも保護者の方にも負担がかかります。

やけどが出来てしまった後ならば、傷をしっかり治すための対応が大切です。しかし、そもそもやけどを起こさず病院に来ないで済むならば、それに越したことはありません。そのため、やけどをする子どもが減っていくように、予防活動を積極的に進めていくことが重要だと私は考えています。

多くの方々に予防意識を浸透させていくのはなかなか難しいことといえます。たとえばやけど予防のための講演会を開いたとしても、そこに来るのは既に予防に対する意識や関心が高く、ある程度の知識を身につけている人が多いからです。予防することの重要性にまだ気づいていない方へ、どうやってメッセージを届けるかが課題となるでしょう。

やけどの場合は、製品自体の改良も求められます。たとえば、倒れてもこぼれない湯漏れ防止機能の付いた電気ケトルを開発改良するなどが挙げられます。こういった家庭に置く電化製品は、安全な機能が施されている製品を選択することもやけどの予防に繋がります。

実際、徐々に事故を予防するための製品改良が行われつつあります。炊飯器から出る蒸気でやけどする子どもが多いのですが、最新型では放出される蒸気の量が大分カットされるようになりました。加湿器も同様に、最近のものは熱い蒸気が出ないように工夫がなされていますし、電気ケトルも転倒防止機能・湯漏れ防止機能が付いたものが発売されてきています。

(関連記事:『子どもの事故とは? 「たまたま運悪く起こる」ものではない』

極端な話「やけどする可能性がある物に子どもを近づかせない」という予防策もありますが、24時間子どもを監視しているわけにもいきません。さらに、子どもは日々成長します。昨日までは届かなかった高いところも、今日になれば手が届いてしまうことがあります。

このように考えると、各家庭で注意するだけではやけどの予防は不十分だと感じます。上記のような製品改良とともに、チャイルドシートの義務化などのように、もっと広いレベルから、社会全体で事故予防のための法整備、教育や啓発活動をしていく必要があります。

また、どのような経緯でやけどが起きたかを医療者がヒアリングしていくことも重要になります。繰り返しになりますが、各家庭で注意するよう促すだけでは、事故予防策としては不十分です。製品そのものの機能を改善することや、我々医師や専門家が事故予防を社会に啓発していくことも重要だと考えています。

あいち小児保健医療総合センターの例ですが、「この事例は予防できたものではないか」と思ったら、私たちはご家族に事故予防のお話をします。院内には事故予防ハウスという、事故予防についての対策や、グッズについてのモデルルームがあるので、場合によってはそちらをご案内して、実際の例を見ていただくこともあります。地道な活動ですが、こういった努力も必要だと考えています。

とはいえこの活動も、対象は実際に事故に遭って、あいち小児保健医療総合センターへ受診された方に限られてしまいます。世の中の多くの家庭に届けるにはどうすればいいのかは手探り状態で、試行錯誤している段階です。

子どもの目線に立ってみると、自然と危険なものがみえてきます。具体的には、熱いものは食卓の端から30cm以内に置かない、倒れにくい容器に入れる、テーブルクロスを使わない、アイロンは冷めるまで手の届かない場所に置く、などが挙げられ、基本的なことに注意するだけでも予防効果があります。

病気やケガは予防できるもの(予防接種など)もあれば、残念ながらできないもの(生まれつきの病気など)もあります。やけどは、避けられるはずだった事例が多いことを知っておきましょう。

小児救急医としてやけどを負った子どもを診ていると、「きちんと予防ができていればこの子は病院に来ることもなかったのでは」と悔しい思いをすることがあります。今後は、病院に来なくてもよかったはずの子どもが一人でも減る社会へ、少しずつ変えていけたらと考えています。事故予防啓発について、社会からの働きかけもしていきたいと思います。

「子どもにけがはつきもの」という言葉があります。これは確かにそのとおりで、経験しなければわからない痛みや対処方法もあるでしょうし、すべてのけがを無くすことは現実的ではありません。しかしこれは軽度のけがに限るもので、重症なけがは後遺症を残したり、命を奪うこともあります。

個人の努力だけではどうしようもない部分もあり、社会全体で事故を予防することが重要です。それでも、個人が注意できるところは注意することが、事故予防の第一歩になります。一つ一つの怪我に対して神経質になりすぎる必要はありませんが、どういう状況で重大な事故が起きるのかを個々人が知っておくことも非常に重要でしょう。

 

「こどもの様子がおかしい」と思ったときは、日本小児科学会が運営する「こどもの救急(ONLINEQQ)」も参考にしてみてください。

 

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