
蕁麻疹の1つである“慢性特発性蕁麻疹(CSU)”は、原因が特定できず症状を繰り返すのが特徴です。「かゆくて眠れない」「見た目が気になる」といった悩みを抱え、日常生活に支障が出たり、精神的につらい思いをしたりしている患者さんもいるでしょう。
自身も蕁麻疹を経験している武岡皮膚科クリニック 丸亀本院 院長の武岡 伸太郎先生は「自己解決しようとせず、専門とする医師に相談してほしい」とおっしゃいます。今回は武岡先生に、慢性特発性蕁麻疹の特徴や治療、医師への相談で心がけてほしいことなどについてお話を伺いました。
蕁麻疹とは、虫に刺されたように皮膚が赤く盛り上がる膨疹が現れる病気で、かゆみを伴うことが多いです。症状は約24時間以内に跡形もなく消えてしまうのが一般的ですが、数日間継続する例もあります。
特定の食物など原因を特定できるものもありますが、蕁麻疹の70〜80%程は検査をしてもその原因が分からないといわれています。このように原因不明の蕁麻疹を“特発性蕁麻疹”と呼びます。特発性蕁麻疹のうち、症状を繰り返すものが“慢性特発性蕁麻疹(CSU)”です。数か月から数年にわたって症状が続くことが多いといわれています。
慢性特発性蕁麻疹は、夕方から夜間にかけて症状が現れたり悪化したりすることが多いという特徴があります。そのため患者さんからは「かゆみに悩まされてなかなか寝つけない」「眠りが浅くなる」といった相談を受けることがあります。睡眠不足によって日常生活に支障が出るリスクがあるのは、病気による弊害の1つといえるでしょう。皮膚が赤く盛り上がるため、見た目への影響を気にされる方も少なくありません。
また、周囲の人たちに、膨疹やかゆみによるつらさを理解してもらえないことも少なくないようで、患者さんにとって精神的な負担につながるのではないかと思っています。
お話ししたような患者さんの自覚症状を、客観的に確認する指標として使用されることがあるのがUCT(Urticaria Control Test)スコアです。患者さんには、直近4週間の蕁麻疹の状態や、それに伴う生活の質に関する4つの質問に対して、当てはまる答えを選んでいただきます。各設問の回答には症状がもっとも重い場合の0点からコントロール良好な4点まで点数が割り振られ、それぞれの点数を足すことで病気の状態を評価します。スコアが高いほど、蕁麻疹のコントロールが良好ということを意味するのです。
医師へ自身の状態をより正しく伝えるために、患者さんにはぜひUCTを活用して自身の状態を伝えてほしいと思います。UCTによって我々医師も客観的にどれくらいの期間コントロール良好な状態を保てているのか確認することができ、よりよい治療の検討につながります。患者さんに「状態はいかがですか?」と質問するだけでは、それぞれの感じ方による主観的な回答が返ってくる可能性があります。たとえば、月に1回でも症状が現れると「あまりよくなっていません」と答える患者さんもいれば、月に何回も症状が現れていても「大丈夫です」と答える方もいるのです。
特に治療が長期間にわたっている場合は、UCTという客観的指標を用いることで、状態が改善していないにもかかわらず同じ治療を続けていないか、ほかの薬に変える必要はないか検討するきっかけになります。UCTを使うことで主治医との会話が増え、よりよい治療について話し合うきっかけにもなるでしょう。
慢性特発性蕁麻疹の治療では、大きく2段階の目標があります。1段階目では、薬物治療によって現在現れている症状を消失させることを目指します。さらに2段階目では、薬を減量していき、薬による治療を止めても症状が出ない状態を目指します。これが、最終的な治療目標です。
慢性特発性蕁麻疹の治療の基本は、抗ヒスタミン薬という飲み薬です。蕁麻疹は何らかの原因によってマスト細胞(肥満細胞)から放出されたヒスタミンという物質が、血管や神経に作用することで赤みやかゆみなどの症状が現れると考えられています。抗ヒスタミン薬には、その作用を抑える効果が期待できます。症状が軽減されない場合には抗ヒスタミン薬の増量や、ほかの抗ヒスタミン薬への変更や併用などを試みます。
抗ヒスタミン薬にはさまざまな種類がありますので、ご自身に合う薬を主治医と相談しながら処方してもらうことをおすすめします。副作用として、眠気が誘発されることがありますので、とくに運転をする方は、1日1回の服用で作用し眠気が起こりにくい抗ヒスタミン薬*を選択するとよいでしょう。
*眠気が起こりにくい抗ヒスタミン薬:日本皮膚科学会の蕁麻疹診療ガイドラインでは、第二世代の抗ヒスタミン薬(非鎮静性抗ヒスタミン薬)が第一選択薬として推奨されている。
抗ヒスタミン薬の服用だけでは症状を十分に改善できない場合は、次のステップとして、蕁麻疹診療ガイドラインで推奨されているH2拮抗薬*や抗ロイコトリエン薬**の飲み薬を追加することがあります。
H2拮抗薬は、ヒスタミンと結合するH2受容体を遮断する薬です。抗ヒスタミン薬やH2拮抗薬などで症状が軽減されない場合、ヒスタミン以外の物質が原因の可能性があるため、蕁麻疹の症状に関与していると考えられるロイコトリエン受容体を遮断する抗ロイコトリエン薬を追加することがあります。
H2拮抗薬や抗ロイコトリエン薬を追加しても症状が抑えられない場合、シクロスポリン***や副腎皮質ステロイドの飲み薬を検討することがあるでしょう。ただし、これらの薬には副作用もあるため、長期的な服用には向いていません。副腎皮質ステロイドを使用する場合は、減量や中止について1か月以上目処が立たなければ、ほかの治療薬を検討します。シクロスポリンも副腎皮質ステロイドも免疫を抑制する作用があるので、感染症にかかるリスクが高くなります。また、シクロスポリンは腎障害を、副腎皮質ステロイドは糖尿病や高血圧症、骨粗鬆症などを起こすリスクがあります。抗ヒスタミン薬を倍量に増やしたり、H2拮抗薬や抗ロイコトリエン薬を併用したりしても症状をコントロールできない場合、使わざるを得ないこともありますが、リスクに注意しながら使用する必要があるでしょう。
*H2拮抗薬:胃酸分泌を抑制するはたらきがあり、胃潰瘍や急性胃炎、逆流性食道炎などの治療で使用する薬。蕁麻疹に対する保険適用は未承認。
**抗ロイコトリエン薬:気管支喘息やアレルギー性鼻炎の治療で使用する薬で、蕁麻疹に対する保険適用は未承認。
***シクロスポリン:T細胞の活性を抑える免疫抑制薬の1つで、蕁麻疹に対する保険適用は未承認。
抗ヒスタミン薬を基本にした既存の治療では十分に改善しない場合は、生物学的製剤を提案することがあります。生物学的製剤は皮下注射で投与するので、肝臓や腎臓の代謝に影響が少ない薬です。定期的に医療機関で皮下注射を受けていただくのが基本ですが、自己注射が可能なものも登場しており、その場合はご自身で注射をしていただきます。
具体的には、慢性特発性蕁麻疹を引き起こす物質の1つといわれている血液中のIgEを抑制する効果が期待できる薬を使用することがあります。また、慢性特発性蕁麻疹の炎症で中心的な役割を果たしていると推測されるIL-4(インターロイキン-4)とIL-13(インターロイキン-13)のはたらきを抑える薬も登場しています。
既存の治療では病勢を抑えられなかった方も、これらの薬に変更することで症状の改善が期待できます。
お話ししたように、慢性特発性蕁麻疹は原因が分からない病気ですが、日常生活のどのような状況で蕁麻疹が悪化するか増悪因子を見つけることは可能です。たとえば、お風呂に長くつかるとかゆくなる方もいるでしょうし、汗をかいたらかゆくなる方もいるでしょう。何が原因で症状が悪化するかできるだけ早く見つけ、そのような状況を避けるよう対策すれば、日常生活や症状が楽になると思います。
治療法は、その患者さんの状態に応じて定期的に見直しを行います。慢性特発性蕁麻疹の患者さんは、定期的な受診のときには症状が現れていないことも多いので、問診で生活上何か困っていることはないか詳しくお聞きし、それをもとに治療の変更を検討することがあります。また私は、UCTの点数が低いときには治療を見直すようにしています。
慢性特発性蕁麻疹の患者さんには、長期間にわたり飲み薬による治療を続けてもあまり改善がみられず、症状が現れたときだけ副腎皮質ステロイドを追加で内服している方が多くいらっしゃいます。私の患者さんの中に費用面で悩まれた末に「長期的につらい状態が解消できるのであれば」と、飲み薬から生物学的製剤に変更された方がいました。その患者さんの場合は、生物学的製剤に変えたことで症状が改善され、副腎皮質ステロイドを服用する必要がなくなったのです。副腎皮質ステロイドを長期にわたり服用するリスクがなくなったことはメリットといえるでしょう。
慢性的な蕁麻疹の症状に悩まれて受診を検討している方は、身近なクリニックへの受診を最初に検討されると思います。よりよい治療のために私は、日本皮膚科学会認定の皮膚科専門医(以下、皮膚科専門医)が在籍するクリニックへの相談をおすすめします。日本皮膚科学会のホームページには皮膚科専門医MAPがあります。そちらも参考に、皮膚科専門医が在籍するクリニックが近隣にあるか検索し、受診されるとよいでしょう。
お伝えしたように蕁麻疹の多くは、検査をしてもその原因が分からないといわれています。「何か原因があるのではないか」と不安になる患者さんの気持ちは理解できますが、検査をしても望む結果を得られない可能性のほうが高いのです。
たとえ原因が分からなくても、皮膚科専門医を受診することで治療による改善が期待できます。受診時には、日常生活でどのような点について困っているのか、症状が悪化するタイミングはいつかといったことを相談するのがよいでしょう。そういったご相談内容であれば、皮膚科専門医は具体的な治療や対策についてアドバイスをすることが可能だと思います。
慢性特発性蕁麻疹は原因が分からないため、患者さんは不安になることが多いと思います。中には、自分で何とかしようとインターネットなどで調べた対処法を試しても改善せず、負のスパイラルに陥っている方もいらっしゃるかもしれません。現在は薬の種類も多く、治療の選択肢がたくさんあります。情報過多な時代ですが、自分で調べて解決しようとせず、医師に相談し治療を受けたほうが精神的にも楽になると思います。まずは、皮膚科専門医のいる医療機関を受診して、相談してみてください。
武岡 伸太郎 先生の所属医療機関
関連の医療相談が10件あります
騒音性難聴と耳鳴り
1年くらい前から耳鳴りがきになり耳鼻科を受診したら騒音性難聴とのことでした。その後テレビがついていたり雑音があると会話が聞き取りにくく、仕事中どうしてもなんかしら雑音があるため聞き取りにくく聞き返すことが増えてこまっています。時々耳抜きができないような詰まった感じがすることも増えました… 加味帰脾湯という薬を処方されましたが改善しません… ほかの病院を受診してみるべきですか? あと、耳の感じはとても説明しにくいです。症状を伝えるのになにかアドバイスあったらおしえてほしいです…
睾丸にシコリ
息子が3日前に男性の睾丸の中にシコリがあり今日、泌尿器科に行きました。レントゲン、エコーはなく尿検査はありました。後は先生が手で触っての診察でした。潜血反応±、白血球が+(尿一般)と書いてありました。息子が先生から説明されたのが精子を作る横に2つシコリがある(1個は良く男性にあるが2個は珍しい)炎症をおこしている。と言われたそうです。1週間後に病院受診。エコーがあるそうです。尿の菌は何か原因を調べましょう。と言われたそうです。薬を1週間毎朝食後に飲むようにもらいました。治らないと不妊症になりやすいとも言われたそうです。ガンが親の私は心配になりました。ガンの事は何も言われなかったそうですが可能性はありますでしょうか?
夜間頻尿による睡眠不足
1年以上になりますが、毎晩2~3回(月に1日くらいは4回)、トイレに起きます。1回の尿量は約300cc(多い時は400cc)です。夜10時半過ぎに就床、朝6時半前に起床、という睡眠スタイルですが、熟睡できず、寝不足感に悩んでいます。日中は昼食後に睡魔に襲われルことがあり、しばしば昼寝をします。慢性的に体がだるく、困っています。どのようにしたら良いでしょうか、ご教示ください。
褐色の尿が出た
一か月前に、朝起きたときの尿が濃い褐色で、血尿かと思われました。 朝一回かぎりで、2回目時からは通常の色でした。 それが4日ほど続いて心配していたのですが、5日目からは褐色の尿は出なくなりました。 最初に褐色の尿が出た前日に、肩の鎖骨を骨折し、内出血がすごかったので関係があるかと思ったのですが、整形外科医は無関係だと言っています。 専門の医師を受診した方がいいでしょうか。 放っておいても大丈夫でしょうか。 診察を受けるとすれば、診療科はなんでしょうか。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「慢性特発性蕁麻疹」を登録すると、新着の情報をお知らせします