概要
手部腱損傷とは、手を通る腱に何らかの原因によって生じる損傷のことです。腱とは、筋肉と骨を結びつける固い線維のことです。
私たちの手には、前腕から伸びるさまざまな腱が複雑に入り組んで走行しています。これらの腱は手指関節につながり、前腕からの力を伝えることで手指の屈伸運動を可能にしています。指で細かな作業ができるのも、腱が手指の屈伸運動を上手くコントロールしているためです。
手背側には指を伸ばすための伸筋腱、掌側(てのひら側)には指を曲げるための屈筋腱がそれぞれ走行しています。手指はスポーツや転倒などによって外力を受けやすい部位であり、これらの腱はその外力によってダメージを受けることがあります。
外傷以外にも関節リウマチや糖尿病など、腱の構造が脆弱化(弱くなる)する病気がある場合は、日常動作を行うだけで腱損傷を生じることがあります。
手部腱損傷のなかには「突き指」と呼ばれる一般的に広くみられる外傷もありますが、腱が断裂しているような場合では早期に適切な治療を行わないと、修復が難しくなり、手指運動に障害を残したり、手指が変形したりすることもあります。
原因
外傷による手部腱損傷
- 手指に強い外力が加わることで腱が過度に引き伸ばされる
- 刃物などの鋭利なもので手を傷つけることで腱にダメージが加わる
といったことが挙げられます。
特に指に縦方向の強い外力が加わると、第一関節が手背側へ過度に屈曲し、伸筋腱がダメージを受ける「突き指」が生じます。
病気による手部腱損傷
関節リウマチや、キーンベック病など骨の一部が突出するような病気、不完全に整復された骨折によって生じることがあります。
関節リウマチ
関節に生じた炎症が腱に波及して腱が脆弱化すると、微小な外力や日々の関節運動のみでも腱損傷を起こすことがあります。
骨の一部が突出する病気や外傷
腱が突出した骨との不必要な摩擦を繰り返すことで摩耗し、断裂に至ることがあります。
症状
伸筋腱と屈筋腱のどちらに損傷が生じたかによって、大きく異なります。それぞれの特徴は下記の通りです。
伸筋腱損傷
軽度な損傷では、患部の痛みや腫れ、発赤などを生じますが、多くは数日で回復します。しかし、なかには過度に引き伸ばされた腱が手指との付着部を剥がすような剥離骨折や、手指の関節の脱臼を生じることもあります。このような場合には、自然に治ることはなく、第一関節の伸展が行えなくなることがあります。また、放置すると第二関節が過度に伸展して、「スワンネック変形」と呼ばれる手指の変形を生じることもあります。
屈筋腱損傷
手指が曲げにくくなるため、力を抜いた状態において他の指よりも伸びて真直ぐになるのが特徴です。
損傷を受ける部位によって症状は異なり、第一関節のみが曲がらなくなることもあれば、第二関節まで曲がらなくなることもあります。
また、強い外力を受けた場合に受傷部周辺を走行する神経や血管にもダメージが加わることがあります。
検査・診断
手指の痛みや腫れなどを主訴に病院を受診した場合、まずは骨折や脱臼の有無を確認するためにレントゲン検査が行われます。レントゲン検査では腱の断裂や炎症などを描出することができないため、診断がはっきりしないときには、MRI検査によって腱の状態が評価されます。
また、病的な損傷が疑われる場合には、血液検査で関節リウマチなどを調べることもあります。
治療
軽度な損傷であれば、患部を安静にすることで多くは数日で回復します。
しかし、腱断裂が生じている場合にはなるべく速やかに腱を縫い合わせる手術を行います。特に、伸筋腱は屈筋腱よりも平らな構造をしているため、受傷から時間が経つと縫い合わせることが難しくなるとされています。
また、脱臼や剥離骨折などを伴う場合には、整復や骨折部の固定を行う必要があります。一般的には、スクリューや鋼線などを皮膚の上から差し込んで固定します。
また、刃物などによる腱損傷の場合には、腱が外界に露出した状態となり、細菌感染の危険があるため、予防的に抗生剤の投与が行われることがあります。
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