概要
有機酸代謝異常症とは、「有機酸」という物質が体内に過剰に貯まることでさまざまな症状をきたす先天性疾患の総称です。
小児慢性特定疾病に指定されており、具体的にはメチルマロン酸血症、プロピオン酸血症、β-ケトチオラーゼ欠損症、イソ吉草酸血症、3-メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼ欠損症、メチルグルタコン酸尿症など多くの病気が挙げられます。
アミノ酸の代謝(体内で別の物質に作り替えること)、特にアミノ基(アミノ酸の一部)が外れた後の代謝に必要な酵素が生まれつきうまくはたらかないため、本来は体の中で貯まることのない代謝の過程で生じる物質(有機酸)が多く貯まることで起こります。
多くの場合、生後間もない時期から発作が始まり、嘔吐やけいれん、意識障害などの症状が現れます。また、発達や発育に遅れがみられることもあり、重症な場合は命に関わることもあります。
原因
有機酸代謝異常症は、アミノ酸の代謝に必要な酵素がうまくはたらかないために起こります。いずれも代謝に必要な酵素の情報をもつ遺伝子の異常によるもので、先天性の疾患です。
症状
有機酸代謝異常症の症状は病気によって異なります。
一般的には、体内に有機酸が過剰にたまることで代謝性アシドーシス(血液が酸性に傾くこと)や高アンモニア血症*が起こり、嘔吐、哺乳力の低下、呼吸障害(呼吸が多くなる、無呼吸になるなど)、けいれん、意識障害といった症状が発作のように現れます。また、多くの場合、発達や発育に遅れがみられます。
そのほか、強い体臭や尿臭、難治性の湿疹、尿路結石、貧血、腎臓や心臓の機能低下、膵炎、骨格筋の異常など、病気によってさまざまな症状が生じることが分かっています。
*高アンモニア血症:体にとって強い毒性をもつアンモニアの血液中の量が増加する病気。
検査・診断
日本ではほぼ全ての新生児に対して、新生児マススクリーニングという検査が実施されています。ほとんどの有機酸代謝異常症もこの検査に含まれており、有機酸代謝異常の疑いがあるかが生後1~2週に判明します。ただし重症の子どもではその前に発症することもあるので注意が必要です。
有機酸代謝異常症が疑われる場合は医療機関でさらなる詳しい検査が行われます。
血液検査、尿検査
尿中の特徴的な有機酸のパターンを見ることで診断をすることができます。また、有機酸代謝異常症では病気に特徴的なアシルカルニチンと呼ばれる物質が増えるため、診断の参考になります。新生児マススクリーニング検査ではアシルカルニチンの濃度を調べます。
そのほか、アンモニア値、血糖値、肝機能などを調べて全身の状態を評価するためにも血液検査が必要です。
診断の確定には、遺伝子検査や酵素活性測定(血液細胞や培養皮膚線維芽細胞*を用いた分析)、培養皮膚線維芽細胞を用いた機能解析など特殊な検査が行われます。
*培養皮膚線維芽細胞:皮膚の機能を保つうえで重要な役割を果たす線維芽細胞を培養したもの。
画像検査(頭部MRI検査)
有機酸代謝異常は、けいれんなどの神経症状を引き起こすことがあり、その評価を目的に頭部MRI検査が行われます。また、病気に特徴的な所見を示すことがあり、診断に役立つ場合があります。病気の進行度や治療効果の評価、長期的な予後予測に用いられることもあります。
遺伝子検査
発症の原因となる、アミノ酸代謝に必要な酵素の遺伝子変異があるか否かを調べるための遺伝子検査を行う場合があります。
治療
2024年現在、有機酸代謝異常症を根本的に治す方法はありません。そのため、治療の主体は代謝性アシドーシスや高アンモニア血症などによる症状に対する対症療法となります。症状がないときには体内に貯まった有機酸の排泄を促したり、有機酸の産生を抑制したりする薬物療法を行います。また、タンパク質摂取を減らすことで有機酸の元となるアミノ酸を制限する食事療法も行われます。こうした治療は生涯必要となります。
感染などを契機とした代謝クリーゼ(代謝性の発作)は大変重篤な状態になることがあるため、迅速な対応を必要とします。
また、有機酸代謝は主に肝臓で行われるため、代謝性発作を繰り返す場合や生活の質の低下が著しい場合などでは、肝臓移植を検討することがあります。肝臓移植によって有機酸の産生を減少させ、重篤な発作や発達の遅れなどを抑制することが期待できます。
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