概要
無症候性心筋虚血とは、自覚症状がないまま心筋虚血が経過する状態を指します。心筋虚血は、狭心症や心筋梗塞と同様で、動脈硬化により冠動脈の血管が狭くなり(あるいは完全に詰まり)、心臓が活動するのに必要な血液が十分に供給されなくなることで起こります。
原因
高齢者や糖尿病患者の場合は、痛みを感じる神経の障害が原因で自覚症状を感じないことがあります。そのため、心筋虚血が起こっていても症状を自覚できず無症候性心筋虚血とよばれる状態となります。
また、狭心症などの自覚症状がなく自分は健康と思っている方の中にも、みられることがあります。
症状
無症状のものを無症候性心筋虚血と呼ぶため、症状はありません。そのため、健康診断などで偶然診断されることもあります。
検査・診断
標準12誘導心電図
心臓に供給される血液が不足して心筋虚血の状態になると、心電図波形の後半部分であるST部分に変化が生じます。
ホルター心電図
胸にいくつかの電極を貼り付け、携帯型の心電図装置に日常生活の心電図を24時間記録する検査です。標準12誘導心電図では検出できない労作時や、夜間~早朝といった時間帯の心電図異常を検出することができます。
運動負荷心電図
- 運動中や運動の前後で心電図を測定し、自覚症状や血圧、心電図の変化を調べる検査です。運動内容としては以下があります。
- 階段ののぼり降りをするタイプ(マスター負荷試験)
- ジムなどにあるランニングマシーンでのトレーニングのようにベルトコンベアーの上で歩いたり走ったりするタイプ(トレッドミル試験)
- 自転車のような器具をこぐタイプ(エルゴメーター試験)
運動によって心臓に負荷をかけたときの心電図異常を検出することができます。
心臓超音波検査
超音波により、心臓の収縮力、心拡大・心肥大の有無や心臓の弁の状態を評価することができます。心筋虚血が重症化すると、心臓収縮に必要な血液量が確保できないため、心臓の収縮力が低下することがあります。
心筋シンチグラフィ
血流に乗って心臓の筋肉に取り込まれるアイソトープ(放射性医薬品)を静脈から投与し、取り込まれたアイソトープが発する放射線を測定し、心筋の血流やエネルギー代謝を調べる検査です。安静状態で測定する安静シンチグラフィと運動や薬剤で心臓に負荷をかけて行う負荷シンチグラフィがあります。
冠動脈CT検査
冠動脈の状態(走行や内部の狭窄[きょうさく:狭くなっている状態])を調べることが可能です。検査時は、脈を遅くさせる薬などを用いて、心臓の拍動による撮影のブレを少なくしながら、造影剤を血管に注入して、冠動脈をきれいに映し出す必要があります。
冠動脈造影検査
手首や肘、足の付け根の血管からカテーテルと呼ばれる細く長い管(直径2mm程度)を心臓の近くまで挿入します。その後、冠動脈に造影剤を注入して放射線を用いた造影装置で血管を映し出します。血管の狭窄の程度を評価しやすく、冠動脈のカテーテル治療や外科治療を行ううえでほぼ必須の検査です。検査を行うには、基本的に入院が必要です。
治療
薬物治療
抗血小板薬
血小板のはたらきを抑えて血液のかたまり(血栓)ができるのを防ぐ薬剤をつかって、血管が詰まるのを予防します。またカテーテル治療の前後には同様のはたらきを持つ薬剤を併用して内服する場合があります。
脂質異常症の治療薬(脂質異常症の患者さんの場合)
狭心症の原因となりうる脂質異常症(コレステロールや中性脂肪などの異常)をコントロールして、狭心症を予防します。
糖尿病の治療薬(糖尿病の患者さんの場合)
カテーテルによる治療(経皮的冠動脈形成術: PCI [Percutaneous Coronary Intervention])
カテーテル検査と同様に、手首や肘、足の付け根の血管からカテーテルと呼ばれる細く長い管を心臓の近くまで挿入します。カテーテル治療では、カテーテルを通して、血管の狭くなった部分を拡張するためのバルーン(風船)やステントと呼ばれる金属でできたメッシュ状の筒を狭くなった血管の内部へ持っていきます。その後にバルーンを膨らませたり、ステントを血管の中に留置することで血管を広げて治療します。
外科手術
バイパス手術(CABG: Coronary=冠動脈、Arterial=動脈、Bypass Grafting)と呼ばれ、道路のバイパスと同様に、狭くなり血流が悪くなった血管を避け、グラフトと呼ばれる別の血管をつくり血液の流れをよくする手術です。
外科手術の選択については、カテーテル治療のリスクが高い、左冠動脈の左主幹部(根元部分)に狭窄がある方、狭窄が非常に多い方、重症の弁膜症(心臓の弁の障害)を合併している方が適応となります。
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