概要
抗酸菌とはグラム染色陽性の細長い桿菌であるMycobacterium属に属する細菌群の総称です。大きく結核菌群(M. tuberculosis)、らい菌(M. leprae)、非結核性抗酸菌群(NTM:non-tuberculous mycobacterium)の3群に大別されます。それらの菌による皮膚感染症がそれぞれ、皮膚結核、ハンセン病、皮膚非結核性抗酸菌感染症です。
日本では肺結核を含む結核の新規患者登録数は減少傾向にあります。現在の結核に関する問題点に、外国籍患者の増加とHIV陽性患者の増加、さらに抗結核薬に対する耐性菌の出現があります。
ハンセン病は1970年から1980年代には我が国でも多くの患者がいましたが、現在では激減し、今後患者が増加する可能性は低い病気です。
一方、非結核性抗酸菌感染症は新規結核患者の発症が少ない国や地域で、患者数が増加していると指摘されています。日本では定期的な疫学調査が行われてこなかったため正確な患者数の動向は不明ですが、肺の非結核性抗酸菌感染症は増加傾向にあり、肺結核患者より多くなっています。皮膚の症状についてはそれぞれ後述しますが、治療はいずれの場合にも抗結核薬の単剤もしくは併用による全身療法が行われます。
原因
皮膚結核は結核菌群(M. tuberculosis)、ハンセン病はらい菌(M. leprae)、皮膚非結核性抗酸菌感染症は非結核性抗酸菌群(NTM:non-tuberculous mycobacterium)の感染により発症します。
結核菌は感染力が強く、空気感染をします。らい菌は乳幼児期に主に罹患している家族と濃厚に接触することにより、鼻の粘膜から感染すると考えられています。非結核性抗酸菌群は結核菌群とらい菌を除いた抗酸菌群の総称で、2018年現在、約150種類の菌が確認されています。その中で人に病原性を持つ菌は約50種類です。これらの菌は水(環境水や上水道)や土壌、動物の体内など自然環境に存在し、 微細な外傷から皮膚に感染し発症すると考えられます。
症状
皮膚結核
結核菌が病変皮膚に証明される真性皮膚結核と、結核菌に対するアレルギー反応と考えられる結核疹とに分けられます。
真性皮膚結核には尋常性狼瘡、皮膚疣状結核、皮膚腺病があります。尋常性狼瘡と皮膚疣状結核は共に、鱗屑というフケ様の変化を伴う丘疹や紅斑が徐々に拡大します。一方、皮膚腺病は頚部や腋窩(わきの下)などに好発し、リンパ節や筋、骨など皮下の結核病変が、自壊し、潰瘍、瘻孔を形成して皮膚に排膿する状態です。熱感や疼痛を欠くことが特徴とされます(冷膿瘍)。
結核疹には硬結性紅斑、丘疹壊疽性結核疹、腺病性苔癬、陰茎結核疹があります。いずれも紅斑や丘疹、潰瘍などの症状を呈しますが、特異的な皮膚症状はなく、他のさまざまな皮膚疾患との鑑別を必要とします。
ハンセン病
皮膚症状は色調異常や、紅斑、丘疹、結節、潰瘍など多彩な症状を示しますが、特異的なものはありません。神経障害は非常に重要であり、知覚(触覚、痛覚、温冷覚など)の低下を生じます。神経麻痺を生じると手足の萎縮、離断、潰瘍、瘢痕、繰り返す熱傷などを呈します。脱毛や発汗異常、眼障害を呈することもあります。
非結核性抗酸菌感染症
ヒトに病原性を持つ菌は約50種類存在しますが、その中でM. marinumとM. aviumによる感染症が多いです。
M. marinum感染症は、水槽肉芽腫やプール肉芽腫とも言われます。本菌に汚染された淡水、海水に手や腕を浸したりすることにより、微小な外傷から感染します。病変のほとんどは皮膚に限局し、菌の侵入部位に暗紅色の丘疹や結節、皮下の硬結を形成します。リンパ菅の走行に沿って病変が飛び石状に多発する場合もあります。
M. avium感染症は、菌を吸入することにより肺感染症を生じることが多いです。健康な方に皮膚病変が出現することはまれですが、免疫の抑制された患者では原病巣から皮膚に病変が拡大することがあります。皮膚病変としては丘疹や皮下結節が単発もしくは多発しますが、特異的な皮疹はありません。
検査・診断
皮膚病変部からの組織検査および組織内での菌の存在を証明します。ツベルクリン反応は結核菌、非結核性抗酸菌共に陽性になることが多いです。結核菌に感染しているかどうかを血液で調べる検査法では、結核菌に対する特異的な感染を評価できます。
ハンセン病の検査は触覚、痛覚、温冷覚、振動覚の検査を行います。ハンセン病では表在性知覚が低下するのに対し、深在性知覚は保たれ、両者の乖離が特徴とされます。らい菌は培養することができず、菌の証明は皮疹部から採取した組織液をスライドグラスに擦り付け、抗酸菌染色を行い、顕微鏡下に菌を確認する必要があります。
治療
皮膚抗酸菌感染症では抗結核薬や抗菌薬を複数組み合わせて治療が行います。治療には数か月を必要とします。
非結核性抗酸菌感染症では使い捨てカイロなどによる局所の温熱療法を併用することもあります。
ハンセン病ではらい菌に対する抗菌薬による治療と神経障害に対する治療を必要とします。抗菌薬治療としてはいくつかの抗菌薬を症状により組み合わせて用います。一方神経障害に対する治療には副腎皮質ステロイドや非ステロイド性抗炎症薬を用います。
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