がんないあくせいりんぱしゅ

眼内悪性リンパ腫

最終更新日:
2023年11月06日
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2023/11/06
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概要

眼内悪性リンパ腫(vitreoretinal lymphoma:VRL)は、悪性リンパ腫(血液細胞であるリンパ球ががん化したもの)が眼球内で発生する病気です。初発時に目に発生したものや、目に発生し脳にも浸潤(がん細胞が広がっていくこと)した原発性眼内悪性リンパ腫(primary vitreoretinal lymphoma:PVRL)と、目や脳以外の全身の病変から目に進展した二次性眼内悪性リンパ腫(secondary VRL)に分類されます。

原発性眼内悪性リンパ腫の脳への浸潤は一般的で、発症時に16~34%、経過中に35~90%の症例で生じるといわれています。逆に、脳を原発とする中枢神経原発悪性リンパ腫(primary central nervous system lymphoma:PCNSL)患者の約15~25%は、眼内悪性リンパ腫を発症するという報告もあります。

また原発性眼内悪性リンパ腫は、中枢神経系へ65~80%と高率に再発するという報告もあり、眼疾患の中でももっとも生命予後の悪い難治性疾患です。

希少疾患である眼内悪性リンパ腫に関する詳細なデータベースは、いまだ世界的に存在しないため真の発生率は不明ですが、日本における患者数は増加傾向にあるといわれています。原発性眼内悪性リンパ腫は30~80歳代の成人に発症するのが一般的で、患者の診断時年齢の中央値は63歳という報告もあります。なお、男女差は認められていません。

原因

眼内悪性リンパ腫が眼内でどのように発生するのか、その病態はまだ十分に解明されていません。しかし近年、原発性眼内悪性リンパ腫においてMYD88 L265PおよびCD79Bと呼ばれる遺伝子の変異が多く認められることが明らかになっており、発症への関与が考えられます。

また、眼内悪性リンパ腫は高い確率で中枢神経系に再発しますが、これは診断時のMRIでは検出できない不顕性脳病変によるものか、目の網膜や視神経を介した微小浸潤の播種(はしゅ)がん細胞が種をまいたように広がること)によるものかは、議論されているところです。

症状

眼内悪性リンパ腫で現れやすい自覚症状には、かすみ目や充血、視力低下などがあります。また、目の所見が眼内炎症性疾患であるぶどう膜炎と類似するために誤診されやすく(“仮面症候群”と呼ばれる)、注意すべき病気とされてきました。

目に認められる所見では、硝子体混濁が認められることが多くあります。眼球の中の硝子体と呼ばれる組織にリンパ腫がからみつき混濁すると、視力低下を引き起こします。また、網膜に起こる病変として、多発性で癒合性のある黄白色の網膜下浸潤病変を生じるケースも少なくありません。

検査・診断

眼内悪性リンパ腫の診断基準として国内外で定まったものはありませんが、眼科の検査で眼内悪性リンパ腫が疑われる場合、現状では以下のように診断が行われることがあります。

まず硝子体手術によって眼内液を採取し、悪性細胞がないか顕微鏡で調べる細胞診が行われます。Class IV(強く悪性を疑う細胞)かⅤ(悪性細胞)、もしくはセルブロック法と呼ばれる方法で悪性リンパ腫と病理学的に診断されれば確定診断となります。細胞診は昔から信頼できる検査法と考えられてきましたが、眼内悪性リンパ腫では病理学的な確定診断が非常に難しいとされており、偽陰性となる例が30%程度といわれています。

上記の細胞診で確定診断とするのが難しい症例では、眼内液を検査した結果、以下の5項目中2項目以上が陽性であった場合に眼内悪性リンパ腫と診断されます。

(1)細胞診でclass III(良性・悪性どちらとも判断できない細胞)となる

(2) IL-10とIL-6という物質の濃度を比べて、IL-10の値がより高くなる

(3)IgHモノクローナリティー検査の結果、1種類の細胞のみが増殖している

(4)フローサイトメトリーという測定の結果、CD19かCD20と呼ばれる物質の値が高い、もしくは細胞表面のタンパク質を構成するγ鎖およびλ鎖の陽性率がどちらか片方に偏っている

(5)MYD88もしくはCD79Bの遺伝子変異が認められる

眼内悪性リンパ腫と診断がついた場合には、病気の進行度を判断するステージングのために、脳のMRI検査、全身の造影CTまたはPET-CT、および骨髄生検、髄液検査が行われます。脳に病変がある場合や、全身性の病変がある場合などは、治療法や予後が変わるため、眼科と血液内科が連携することが重要です。

治療

初発の眼内悪性リンパ腫に対する治療法には、目に対する局所治療であるメトトレキサート(MTX)硝子体注射や、眼放射線治療があります。また、目の局所治療と化学放射線治療を組み合わせた集学的治療もあり良好な成績という報告もありますが、いまだ標準治療は確立されていません。

MTX硝子体注射

MTX硝子体注射は、メトトレキサートと呼ばれる抗がん薬を目の中の硝子体に注射する治療法です。MTX硝子体注射は眼内悪性リンパ腫に対して高い有効性が認められていますが、この治療のみでは中枢神経や全身への再発を抑制することが難しいのが現状です。日本では、眼内悪性リンパ腫に対するMTX硝子体注射が広く行われている一方で、保険適用されていないため、現在多くの施設で倫理委員会の承認を得たうえで行われています。

眼局所放射線治療

眼局所放射線治療は、放射線を眼球および視神経管に照射する治療法です。欧米で広く行われており、日本でも眼局所治療として行われてきました。高い寛解率が得られることが分かっていますが、原則として1回しか実施できない治療である点が特徴です。また、治療後に白内障のリスクがあることや、比較的早期に再発しやすいという特徴があります。近年では、放射線治療の副作用を避ける傾向があり、何らかの理由でMTX硝子体注射が難しい患者さんを対象に行われることが多いです。

集学的治療

MTX硝子体注射と全身化学療法、さらに低線量の全脳放射線照射を組み合わせた集学的な治療を行うことで中枢再発の抑制が報告されています。MTX硝子体注射に加えて、R-MPV化学療法、23.4Gyの低線量全脳予防照射およびHD-AraCによる化学放射線療法の集学的治療によって眼内悪性リンパ腫の4年無病再発生存率が72.7%、中枢再発が10%と、予後が大きく改善したという報告もあります。近年発表されたイギリスおよびフランスにおける中枢神経リンパ腫の治療ガイドラインでは、原発性悪性リンパ腫の治療として全身状態が許せば積極的な全身化学療法を推奨しています。

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