概要
肺動脈弁狭窄症とは、肺動脈弁の開きが不十分になる病気です。
心臓は、右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋に分かれています。全身を巡って戻ってきた血液は、右心房から右心室へと流れます。そして、右心室から肺動脈を通して肺へと送り込まれます。この右心室と肺動脈の間に位置するのが、肺動脈弁です。
肺動脈弁は、ドアのように開いたり閉じたりする仕組みになっています。右心室が収縮すると、この弁が開いて血液を肺動脈へ流します。収縮が終わると、今度は弁が閉じて血液が右心室に逆流するのを防ぎます。このように、肺動脈弁は血液が一定方向に流れるように機能しています。
肺動脈弁狭窄症では、この弁が十分に開くことができません。その結果、肺への血流が制限され、右心室に負担がかかります。この状態が長期間続くと、心臓の機能低下につながることがあります。
主な原因は、生まれつき肺動脈弁に構造的な異常があり、十分に開かないことです。多くの患者は自覚症状がありません。そのため、健康診断で心雑音が見つかったことをきっかけに診断されることが多くあります。進行すると息切れ、胸の痛み、失神などの症状が現れるようになります。
狭窄*が軽度で無症状の場合には、積極的な治療は行わず経過観察を行います。一方、症状がある場合や中等度以上の狭窄がある場合には、狭窄を広げるバルーン肺動脈形成術や外科的治療が推奨されます。
*狭窄:血管の内腔や弁が狭くなること。
原因
肺動脈弁狭窄症の多くは、生まれつき肺動脈弁に構造的な異常があることが原因です。先天性心疾患の約8%を占めるとされており、単独で発症することもあれば、心房中隔欠損症や心室中隔欠損症、ファロー四徴症などのほかの心疾患と合併することもあります。
肺動脈弁狭窄症では、肺動脈弁の開きが悪く、右心室から肺動脈への血液が流れにくくなります。そのため、右心室は狭い部位に血液を送り出すために通常以上に力を必要とし、心臓に負担がかかるようになります。その結果、進行すると不整脈や心不全を引き起こします。
また、頻度は高くないものの、ヌーナン症候群などの先天的な遺伝子異常のある患者では肺動脈弁狭窄症をしばしば合併します。日本ではまれですが、成人になってから発症するケースもあり、カルチノイド症候群*に関連して引き起こされることもあります。
*カルチノイド症候群:腫瘍(しゅよう)がホルモンを過剰に分泌し、顔の赤みや下痢などを引き起こす病気。
症状
肺動脈弁狭窄症は重度の場合、新生児期にチアノーゼ(皮膚や粘膜が青紫色になる状態)や心不全を引き起こすこともあります。軽度の場合、明確な自覚症状がほとんどみられません。年齢を重ねるにつれて病気が悪化することもあり、成人になってから初めて気付かれることもあります。
心臓に強い負担がかかる状態が続くと、不整脈や心不全を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。これらの心臓の病気を発症すると、息切れや胸の痛み、失神、動悸、呼吸困難といった症状が現れ始めます。
検査・診断
肺動脈弁狭窄症が疑われる場合、以下の検査が行われます。
画像検査
胸部X線検査で肺動脈の形態や心拡大の有無を評価します。心電図で右心室への負担の有無や、不整脈の有無を確認します。心臓超音波検査では、弁の形態や開放、逆流の有無を評価するとともに、肺動脈弁を通る血液の速度を測定し、診断や重症度の評価が行われます。
心臓カテーテル検査
カテーテル(医療用の細い管)を心臓まで挿入し、心臓内部の圧力や肺動脈の血流を評価する検査です。また、造影剤を使って肺動脈弁の形状を確認し、重症度の判断をします。
治療
肺動脈弁狭窄症は軽度の場合、目立った自覚症状がないまま経過します。軽度の狭窄で症状がない場合は、経過観察のみで治療を行いません。しかし、中等症以上の場合は心不全や不整脈などの合併症を引き起こす可能性があるため、適切な治療が必要となります。主な治療法には、バルーン肺動脈形成術と外科的治療があります。
バルーン肺動脈形成術
バルーン肺動脈形成術は、カテーテルを心臓内に挿入し、開きの悪い肺動脈弁を拡張する方法です。カテーテル先端のバルーン(風船)を膨らませることで弁を広げ、弁の開放を改善します。安全性が高く、体への負担が少ないため、一般的に選択される治療法です。中等度以上の狭窄がある場合に行われます。
外科的治療
手術により、肺動脈弁の開放制限がある部位を直接切開して広げる方法です。バルーン肺動脈形成術が適さない場合や、その効果が不十分な場合に実施されます。また、加齢に伴い弁が硬くなって石灰化している場合には、自分の弁を切除し、人工弁に置き換える弁置換術が行われることもあります。
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