概要
胃アニサキス症とは、アニサキスという線虫の幼虫が胃の粘膜に入り込むことで、急な腹痛などを起こす一過性の感染症(食中毒)です。アニサキス幼虫は消化管に感染し、腸などにも感染することがありますが、そのうち症状がみられる場合の9割は胃への感染だといわれています。
アニサキス幼虫は、さまざまな魚介類を宿主として寄生します。代表的な宿主としてサバ、イワシ、サンマ、カツオ、タラ、ホッケ、イカなどが挙げられ、アニサキス幼虫が寄生している生の魚介類を食べることで感染します。加熱や冷凍によりアニサキス幼虫は死滅しますが、酢漬けや塩漬けといった調理方法では生存できるため、しめ鯖を食べて感染することもあります。
アニサキス幼虫は胃液で死滅するなどヒトの体内環境には合わないため、多くの場合は体内に侵入しても1週間以内に自然に死滅し、体外に排出されます。しかし、原因となる食べ物を摂取後1~8時間ほどで急激な上腹部痛がみられることが多く、一般的には内視鏡下での幼虫の除去が必要になります。
原因
アニサキス幼虫が寄生している生の魚介類(不十分な加熱・冷凍のものを含む)を食べることで感染します。
日本では、刺身や寿司など生の魚介類を食べる習慣があるため、諸外国に比べて圧倒的に発症数が多いといわれています。感染は1年を通してみられますが、主な感染源であるサバなどの漁獲期が秋~冬であるため同時期の感染が特に多く発生します。
症状
胃アニサキス症は症状の程度によって、急性アニサキス症(劇症型)と慢性アニサキス症(緩和型)に分けられます。
胃アニサキス症の大半が該当する急性アニサキス症は、原因となる魚介類を食べてから数時間後に強い上腹部の痛み、悪心、嘔吐が起こります。しばらくすると痛みが落ち着き、数分経つと再び激しい痛みが起こるというように、一定の間隔で痛みが出たり止まったりするのが特徴です。
これまで、上腹部の痛みはアニサキス幼虫が胃壁に食いつくことで起こると考えられていましたが、現在ではアニサキス幼虫に対するアレルギー反応によるものと考えられています。アレルギー反応によって全身に蕁麻疹が出る場合があるほか、血圧の低下や呼吸困難、意識障害などのショック症状が出現するアナフィラキシーショックに陥るケースもあります。
一方、慢性アニサキス症は自覚症状に乏しく、無症状であるケースも少なくありません。そのため、健康診断などの画像検査で偶然に胃壁に肉芽腫*が発見され、摘出した肉芽腫の内部にアニサキス幼虫が発見されるケースもあります。
*肉芽腫:長期間の炎症によって生じるこぶ様の病変。
検査・診断
胃アニサキス症の検査では、一般的に問診のほか内視鏡(上部消化管内視鏡検査)や血液検査、腹部エコー検査などを行います。
問診
上腹部の痛みや悪心、嘔吐などの症状がみられ、胃アニサキス症が疑われる場合は、原因となり得る魚介類を食べたかどうかを聴取します。
上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)
口や鼻から内視鏡(胃カメラ)を挿入して、胃内を直接観察します。胃アニサキス症では、長さ2~3cmくらいの白い糸くず状の幼虫が胃壁に食い付いている様子や、発赤や浮腫(むくみ)がみられます。
内視鏡検査でアニサキス幼虫が発見された場合は、そのまま内視鏡下でアニサキス幼虫を除去する治療が行われます。
血液検査
アニサキス幼虫に感染すると、白血球の一種である好酸球や免疫グロブリンE(IgE)という抗体が増加します。また、血液中の抗アニサキス抗体を調べることもあります。
抗アニサキス抗体とは、アニサキス幼虫に対抗するために体内で作られる物質で、抗アニサキス抗体を検出することで確定診断とする場合もあります。
予防
予防方法は、海産魚介類の生食を避けることです。アニサキス幼虫は、70℃以上、または60℃で1分の加熱や、-20℃で24時間以上冷凍することで死滅します。
鮮魚を一匹まるごと購入した場合や、釣った魚を持ち帰る場合などは、よく冷やしたうえで持ち帰り、新鮮なうちに魚の内臓を取り除きましょう。ただし、鮮度の低下とともに幼虫が可食部である筋肉に移動することがあるため、生で食べる場合には注意深く可食部を観察して幼虫がいないかを確認することも大切です。
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