概要
腸性肢端皮膚炎とは、腸で亜鉛の吸収障害が起こることで、手足の末端、口や目、肛門などの周りや耳、鼻の穴などに、発赤やただれ、小さな水ぶくれなどの皮疹が生じる病気の総称です。生まれつき(先天性)発症するタイプと、後天的に発症するタイプがあります。
腸性肢端皮膚炎のうち生まれつき発症するケースは、常染色体潜性(劣性)遺伝による遺伝子の異常によって引き起こされると考えられています。約50万人に1人と珍しい病気ですが、日本でも発症が報告されています。一方で、潰瘍性大腸炎やクローン病などの腸の病気、消化管の切除などによって後天的に発症するケースもあります。腸性肢端皮膚炎を発症すると、皮疹のほか脱毛や下痢、免疫機能の低下(感染症にかかりやすくなる)、味覚異常、低身長、うつ傾向など、全身にさまざまな症状が生じることがあります。
腸性肢端皮膚炎の治療では、硫酸亜鉛の投与を行う必要があります。適切な治療を行えば症状は1か月程度で改善が期待できるとされていますが、遺伝子の異常が原因の場合は生涯内服を続ける必要があります。
原因
生まれつき発症するタイプは“先天性腸性肢端皮膚炎”と呼ばれ、SLC39A4(ZIP4)という亜鉛の吸収にかかわる遺伝子の異常によって、腸で亜鉛をうまく吸収できなくなると考えられています。
一方、後天的に発症するタイプは“後天性腸性肢端皮膚炎”といい、潰瘍性大腸炎やクローン病などの腸の病気、手術で消化管を切除することで亜鉛の吸収障害が生じるほか、慢性の肝障害や腎障害、がん、神経性食欲不振症(拒食症)、感染症などの病気、あるいは口から栄養を取れない場合などに栄養補給を目的として行われる高カロリー輸液、降圧薬、抗うつ薬、利尿薬などの薬剤が原因となって起こります。近年では加齢が原因となることも分かっており、高齢者の多くが潜在性亜鉛欠乏症(隠れ亜鉛欠乏)であると推測されています。
亜鉛はさまざまな酵素の成分であり、皮膚、骨、歯、毛、肝臓、筋肉、白血球などを構成する重要な栄養素です。そのため、亜鉛が不足すると皮膚の炎症や脱毛、免疫機能低下などといった症状が引き起こされます。
症状
腸性肢端皮膚炎を発症すると、手足の末端、口や目、鼻、外陰部、肛門などの周囲に、発赤や小さな水ぶくれ、ただれ、皮膚の盛り上がりなどの皮疹が生じます。口の症状では口内炎や舌炎、味覚異常、目の症状では結膜炎や眼瞼炎などが起こり得ます。そのほか、爪の変形や爪周囲の炎症、脱毛、免疫機能の低下による感染症への罹患、うつ傾向などの精神症状、下痢、難治性褥瘡など、全身にさまざまな症状が現れます。
特に先天性の場合は皮膚炎と脱毛、下痢が“三大徴候”とされ、成長や精神(不機嫌、うつ傾向など)の障害を伴います。乳児では、人工乳(ミルク)のみで哺育している場合は生後数日から数週間、母乳の場合は離乳した後に症状が現れることが多いとされています。また、母親のZnT2という遺伝子に異常が生じると母乳の亜鉛濃度が低くなるため、乳児は先天性腸性肢端皮膚炎と同様の症状をきたします。
検査・診断
腸性肢端皮膚炎が疑われるときには、以下のような検査が行われます。
血液検査
腸性肢端皮膚炎では体内の亜鉛が不足するため、血液中の亜鉛濃度を調べるために血液検査を行う必要があります。また、亜鉛を必要とする酵素のアルカリホスファターゼの値によって、亜鉛が不足しているかどうかを確認します。
遺伝子検査
先天性腸性肢端皮膚炎が疑われる場合は、発症の原因となる遺伝子の異常があるか調べるために遺伝子検査を行います。確定診断のためには遺伝子検査が必要です。
治療
腸性肢端皮膚炎の治療では、不足した亜鉛を補うために亜鉛薬の内服治療が行われます。先天性の場合、1日あたりの亜鉛の投与量は乳児期で3mg/kg、幼児期で30~50mg、学童期以降は50~150mgと大量に投与する必要があります。そのほか、硫酸亜鉛を1日に200~400g投与する方法もあります。後天性の場合は、1日に34~100mgの亜鉛薬を投与します。
亜鉛を補うことで症状は1か月程度で改善が期待できるとされますが、生まれつきの遺伝子異常が原因の場合は生涯にわたって治療を継続する必要があります。
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