インタビュー

O-157による腸管出血性大腸菌感染症の症状

O-157による腸管出血性大腸菌感染症の症状
松本 哲哉 先生

国際医療福祉大学 医学部感染症学講座 主任教授

松本 哲哉 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年03月19日です。

大腸菌の一種であるO-157の一部は、ベロ毒素という非常に強い毒素を出し、腸管にさまざまな症状を引き起こします。記事2『O-157による腸管出血性大腸菌感染症の原因・感染経路』では、O-157による腸管出血性大腸菌感染症の原因と感染経路についてお話ししました。本記事では、O-157による腸管出血性大腸菌感染症の症状について、国際医療福祉大学医学部感染症学講座の松本哲哉(まつもと てつや)先生にお話を伺います。

O-157の一部はベロ毒素という非常に強い毒素を出し、腸管にさまざまな症状を引き起こします。これを、腸管出血性大腸菌感染症と呼びます。

しかしながら、O-157のなかには毒素を出さない菌も存在します。つまり、菌の持つ抗原のタイプではなく、毒素の産生性が重要になるのです。

O-157による腸管出血性大腸菌感染症の潜伏期間は、数日〜1週間ほどのケースが多く、10日間ほどの場合もあります。潜伏期間は体内に入ったO-157の菌量や、感染者の腸内環境によって変わります。

O-157による腸管出血性大腸菌感染症は、以下のような初期症状があらわれます。

  • 腹痛(キリキリとさしこむような痛み)
  • 下痢
  • 吐き気、嘔吐
  • 発熱

発熱は多くの場合、37℃前後〜38℃台です。この場合の発熱は、腸管へのダメージによって菌血症(血液に菌が存在する状態)などを原因とすることが多く、注意が必要です。一方で、ケースによっては発熱しない場合もあります。

O-157による腸管出血性大腸菌感染症の特徴的な症状として、血便が挙げられます。

腹痛(キリキリとさしこむような痛み)があらわれ、その後、水様便に近い下痢が出ます。数日、下痢を何回か繰り返すうちに、便に明らかな血や粘液が混ざり始め、やがて血そのものが出たかのような真っ赤な血便が出ます。

O-157による感染症の患者から出された便の外観 高度な血便であり、典型的には血液がそのまま便として出ているように見える場合もある。

O-157による腸管出血性大腸菌感染症が重症化した場合、以下のような症状があらわれます。

  1. 腸管の出血
  2. 脳症によるけいれん、意識障害
  3. 腎不全(腎障害の予兆として乏尿、むくみなどが出ることがある)
  4. 溶血性尿毒症症候群(赤血球が破壊されることで、血小板減少、溶血性貧血、腎不全などを引き起こす)
  5. 出血傾向(血小板減少、播種性血管内凝固症候群

一般的には多くの場合、血便が出る状態まで至ります。さらに、脳症を起こした場合には反応が鈍くなる・食べ物を受け付けなくなることがあり、さらに進行するとけいれんや意識障害を引き起こします。

また、乏尿(尿が出ない)、むくみなどがあらわれた場合には腎障害の予兆であることが多く、さらに進行すると腎不全に至ることがあります。出血傾向は、かなり重症化した場合の症状です。

O-157による腸管出血性大腸菌感染症は重症化した場合、命にかかわるケースもあるため、食中毒のなかでも特に注意が必要です。

人の腸内には数多くの菌が存在しています。(常在菌といいます)その腸内にO-157が入り込み増殖することで、腸管出血性大腸菌感染症を引き起こします。しかしながら、O-157が増殖できるか否かは、その人の免疫力や腸内環境によって異なります。

子どもと高齢者はO-157に対する免疫力(抵抗力)が低く、さらに子どもの腸内環境は大人に比べて菌の多様性が低くO-157が増殖しやすいです。そのため、子どもと高齢者はO-157による腸管出血性大腸菌感染症が重症化しやすいといえます。

5〜10歳くらいの子どもと70〜90歳の高齢者

多くの患者さんは、腹痛や血便などの症状によって病院を受診し、検査を行って診断がつきます。

血便などO-157による腸管出血性大腸菌感染症に特徴的な症状が出た場合には、きちんと病院を受診しましょう。なぜなら、O-157による腸管出血性大腸菌感染症には溶血性尿毒性症候群のリスクがあるからです。

しかしながら、「血便の症状がなければ心配ない」ともいえません。何か心配な症状があれば、きちんと病院を受診し適切な治療を行うことが重要です。

O-157による腸管出血性大腸菌感染症を疑う場合には、経過を長い時間みることはせず、早めに病院を受診しましょう。

子どもや高齢者は重症化しやすいため、特に注意が必要です。また、親がO-157による腸管出血性大腸菌感染症になった、もしくは感染を疑う場合には、同居している子どもが感染している可能性があります。その時点で病院を受診すれば、早期から対処できる可能性があります。

同居している子どもや高齢者が重症化するのを防ぐためにも、おかしいと思ったら躊躇せずに病院へ行きましょう。

5〜10歳の子どもを含めた家族

基本的には、O-157による腸管出血性大腸菌感染症を疑う場合には病院の受診を推奨します。市販薬については、整腸剤であれば使用してもよいでしょう。しかし、下痢止めは腸管の動きを止めて毒素の排泄を妨げるため、使用を控えてください。

細菌性の食中毒では、カンピロバクターによるものが多いです。

カンピロバクターによる食中毒は、O-157による腸管出血性大腸菌感染症と同様に血便が症状としてあらわれます。よって、血便が出たからといって必ずしもO-157による腸管出血性大腸菌感染症とは限りません。

基本的には、便の検査を行います。便を直接調べるキットや、培養して菌を確認する方法があります。O-157感染の疑いが強いにも関わらず便から菌が検出されない場合には、血液検査を行うこともあります。

適切な治療を行うために、O-157感染を疑う場合には早期に病院を受診しましょう。

先生

  • 国際医療福祉大学 医学部感染症学講座 主任教授

    日本内科学会 認定内科医日本感染症学会 感染症専門医・指導医日本臨床検査医学会 臨床検査専門医 ICD制度協議会 インフェクションコントロールドクター日本臨床微生物学会 日本臨床微生物学会認定医

    松本 哲哉 先生

    1987年に長崎大学医学部を卒業後、同附属病院第2内科へ入局。1993年に長崎大学大学院を修了し、東邦大学医学部微生物学講座にて助手を務めたのち、2000年より米国ハーバード大学へ留学。微生物学を専門とし、第一線で活躍する。2018年より現職。

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