テレビのニュースや週刊誌では、覚せい剤で逮捕される芸能人の話が絶えません。危険ドラッグの問題も大きく報道されたので、薬物依存症の話を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。薬物依存症を引き起こす薬の種類について、国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦先生にお話を伺いました。
モルヒネ、ヘロイン、大麻などが有名です。これらの薬物は、薬を止めると離脱症状の起きる身体依存と、薬が欲しくてどうしようもない状態になる精神依存の両方を引き起こします。覚せい剤、コカイン、LSD、MDMAでも薬物依存症になりますが、身体依存はないとされています。
身体依存症がある方が強い依存症のようなイメージがありますが、必ずしもそうとは言えません。薬物依存症の本質は「薬をやめられない」という精神依存にあります。
モルヒネにしても、覚せい剤にしても精神依存を強く引き起こすので、どちらにしても依存症になりやすい薬と言えます。
危険ドラッグ(いわゆる脱法ハーブなど)は含まれている成分が不明で、毒性の強い成分が混じっていることもあり、薬物依存症だけでなく生命に危険が及ぶこともあります。
アルコールも身体依存と精神依存の作用を持っている薬物で、アルコール依存症は薬物依存症の中で患者さんが多いものの一つです。また、日常生活の中ではタバコに含まれるニコチンやコーヒーに含まれるカフェインも依存を引き起こします。
実際に治療を行っていると、使っている薬物によって薬物依存症が治りにくい、治りやすいという違いはあります。また、薬物によって、依存を引き起こす強さは異なります。例えば、ヘロインは最も依存性が強く、モルヒネはこれに続きます。一方で大麻は使う人によって差はあるものの、他のものに比べると依存性は弱めです。コカインや覚醒剤はその中間くらいです。
しかし、依存性が強いからと言って、薬物依存症が治りにくいわけではありません。意外にも身体依存性の強い、離脱症状の強い薬物の方が、治療が上手く行くことが多いです。例えばヘロインは依存性が強いですが、離脱症状も強くでるので、その苦しさがきっかけで病院に来るようになります。そして、「あの離脱症状の苦しさは二度と味わいたくない」という思いで、治療が続くことがよくあります。
逆に、大麻は、ヘロインや覚せい剤のように自覚しやすい強烈な依存性や、仕事などの社会生活への影響が目立たず、乱用者が問題意識を持ちにくい傾向があります。大麻の害については様々な意見がありますが、大麻使用者の多くが大麻だけを使っているわけではなく、大麻をいわば「入り口」として、よりハードな効果を持つ薬物を乱用するようになりやすい点が問題です。また、アルコールやたばこは、覚醒剤などとは異なり、簡単に手に入り、その人の日常生活に深く浸透していることもあって、依存症になってしまうと意外と治りにくいです。
薬物依存症の治療がうまくいくかどうかは、薬物の強さや離脱症状にも関係しますが、その人の生活にどれくらい深く根ざしているかが問題になります。薬物を現実の辛さからの逃避に用いている場合は、その状況が改善されなければ、止めることは難しいでしょう。
具体的な例では、主婦のアルコール依存症、いわゆる「キッチンドランカー」などは元々家庭で問題を抱えていて、その状況の苦しさから逃れるために陥ることが多いので、その状況の改善なくして、依存症の治療は困難です。
一回だけの使用で直ちに薬物依存症になることはありません。
しかし、最初の一回の延長線上に依存症があるのは事実です。多くの人にとって、初めての薬物使用は「拍子抜けの一回」と感じます。使ってみたけど、全然大したことなかった、たいして気持ちよくもなかった、という初体験から、「やっぱり薬の依存症の話なんて、怖がらせているだけだ。嘘ばっかりだ」と思うようになり、その後の薬物使用のハードルが下がっていくのです。こうして、薬を使い続けるようになってやめられなくなり、薬物依存症へと陥ってしまいます。
後に薬物依存症になった人の多くが、「最初の一回」を境にものの感じ方・考え方、あるいは、これまで信じてきた価値観が大きく変化しています。たとえば、周囲の助言や忠告に耳を貸さなくなり、「薬物を使っている人」の意見だけに耳を傾けるようになります。その意味では、一回だけでも、決して麻薬や覚醒剤を使用すべきではないといえるでしょう。
記事1:自傷行為とは―自傷行為の種類、リストカットをしてしまう心理と原因
記事2:親しい人が自傷行為(リストカット)をしていたら―家族や友人はどう対応すればよい?
記事3:薬物依存症とはどのような状態?薬物中毒との違いについて
記事4:薬物によって依存症の治りにくさは違う?―大麻、ヘロイン、モルヒネ、コカインなど、薬物依存症を引き起こす薬の種類
記事5:薬物依存症の症状―薬物依存症は見た目でも分かる?
記事6:薬物依存症の治療法―家族、友人はどう対応すればよい?
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