インタビュー

薬物依存症の治療法―家族、友人はどう対応すればよい?

薬物依存症の治療法―家族、友人はどう対応すればよい?
松本 俊彦 先生

国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 部長、国立研究開発法人 国立...

松本 俊彦 先生

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この記事の最終更新は2015年04月20日です。

テレビのニュースや週刊誌では、覚せい剤で逮捕される芸能人の話が絶えません。危険ドラッグの問題も大きく報道されたので、薬物依存症の話を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。身近な人が薬物依存だったらどうすればよいのか。薬物依存症の治療法について、国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦先生にお話を伺いました。

薬物依存症では、まず薬物の使用を止めて、その後にくる離脱症状や薬を欲する強い衝動に耐えることが必須になります。薬物依存は、本人の力だけで脱するのが難しいものです。もちろん、ご家族の協力は必要ですが、だからといって、ただ説教や叱責を繰り返したり、愛情を込めて励ましたりするだけではまったく効果はありません。まずは、本人や家族が専門機関に相談に行くことです。そのなかで、もしも本人が治療を受ける気持ちになったならば、薬物依存症に対する認知行動療法プログラムに参加するのがよいでしょう。

認知行動療法とは、薬物の再使用を防止するための行動や気持ちの持ち方を順序立ててトレーニングする方法です。例えば、今までどのような状況だと薬物に手を出してしまうことが多かったのかを分析し、そのような状況になった時にどう対処すればよいか(薬仲間と会うような場所に行かないなど)を考えて試してみる、ということを繰り返します。これらを繰り返すことで、薬物をまた使いそうになっても、自分で我慢して踏みとどまることができるようになります。

治療を受けるにあたって重要なのは、少なくとも半年間、理想的には1年間は治療を続けることです。実は、薬物を「やめる」こと自体は簡単です。どんなに重篤な薬物依存症に罹患している人でも、しょっちゅう薬物をやめています――ただし、それはせいぜい数日、あるいは数時間単位での話ですが。むずかしいのは、「やめつづける」ことなのです。新た生活の習慣を確立するには、やはり治療を長く継続することが大切です。

ひとたび依存症になってしまうと、脳に刻み込まれた薬物の快感を消し去ることはできず、何年間やめていても、ときどき訪れる薬物の欲求と戦わなくてはならない、と言われています。しかし、治療を受け、薬物をやめ続けることによって、薬物によって失ったものを取り戻し、再び社会生活を営むことは可能です。そして実際に、そのような方はたくさんいます。

薬物依存症になってしまった人の家族や恋人などは、本人の性格の変化や行動の異常さに振り回されがちです。本人が自覚するよりも前に家族が困るケースが多く、色々と手をつくしても良くならないと悩みます。そして、ひどく叱責したり、薬物を買うお金を工面し続けたりと逆に依存症がひどくなるような対応をしてしまうことがあります。

依存症という病気の特徴は、「本人が困るよりも先に周囲、家族が困る」という点にあります。だからこそ、依存症の治療は、まずは「家族の相談」からはじまります。

もしも家族や友人の薬物問題に悩んだ時には、まず各都道府県にある精神保健福祉センターに相談するのがよいと思います。ここには保健師や心理士などがいて、必ず薬物依存症の相談にのってくれます。また、医療機関の紹介だけでなく、同じように薬物で苦しんでいる方の集まり(自助グループ)とのつながりもあり、困難な状況から脱するための色々な情報を持っています。もちろん、本人やご家族の秘密、プライバシーは厳密に守って対応してくれます。

薬物依存症は、医療機関を受診すれば必ず治るというものではありません。専門の医師だけでなく、家庭の状況をサポートする保健師や役所の職員などの助けも必要になります。まずは、精神保健福祉センターに電話をして、「家族が薬物依存症になっているので相談したい」と連絡してみてください。

記事1:自傷行為とは―自傷行為の種類、リストカットをしてしまう心理と原因
記事2:親しい人が自傷行為(リストカット)をしていたら―家族や友人はどう対応すればよい?
記事3:薬物依存症とはどのような状態?薬物中毒との違いについて
記事4:薬物によって依存症の治りにくさは違う?―大麻、ヘロイン、モルヒネ、コカインなど、薬物依存症を引き起こす薬の種類
記事5:薬物依存症の症状―薬物依存症は見た目でも分かる?
記事6:薬物依存症の治療法―家族、友人はどう対応すればよい?

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