インタビュー

依存症とは(2)―依存症の歴史、どこまでが依存症か?

依存症とは(2)―依存症の歴史、どこまでが依存症か?
村井 俊哉 先生

京都大学医学研究科 脳病態生理学講座 精神医学教室 教授

村井 俊哉 先生

この記事の最終更新は2015年07月10日です。

現代、「依存」という言葉はさまざまなシーンで使われます。しかし、「依存症」となると、これは精神医学における病気です。実際、この依存症とはどのような病気なのでしょうか? 依存症の歴史や「依存症」の指す範囲について、日本の精神医学におけるオピニオンリーダーである京都大学精神医学教室教授の村井俊哉先生にお話をお聞きしました。

まず、もともとの依存症の歴史をたどってみましょう。
元来、依存症とは物質に対する依存症のみを指す言葉でした。精神医学において、病名は慎重につけなくてはいけません。ひとつ方向性を間違えると、人生に関連するもの全てを病気にしてしまうからです。だからこそ、シリアスに考えないといけない状態だけを病気と考えるのです。

物質依存症以外で病名に含まれているのが「ギャンブル依存症」である、ということは前回お話ししました。このギャンブル依存症は、アルコールやコカインに対する依存症とその特徴が似ており、なおかつ社会的な問題も大きいため、行為・過程依存症の中で特にギャンブル依存症のみが、物質依存症と関わりの深い病気として考えられるようになったのです。診断基準上、物質依存症と同じ章にギャンブル依存症が含まれることになったのは、2013年に出版されたDSM-5(米国精神医学会が定めた診断基準)以来のことです。ですから、ほんの数年前のことなのです。

DSM-5を作成する際、この中にインターネットゲーム依存症を病名として登録するかどうかという議論がありました。しかし最終的には、病名としては認定されませんでした。インターネットゲーム依存と同様に、買い物依存も診断基準に含まれていません。このように、病気とみなすかみなさないかの「線引き」が問題となる行為は、時代が変わり私たちが利用可能な技術が変わり、そして私たちの生活が変わると、次々に登場してきます。

そしてその都度、「どの状態を病名として登録してどの状態は登録しないか」は、ある程度恣意的な決定とならざるをえません。なお、パチンコ依存症はギャンブル依存症に含まれますので、現在の診断基準でも精神疾患ということになります。

では、インターネットでのゲーム依存症のほうがギャンブル依存症よりも病態として軽いのかというと、それはそうともいえません。ですから、近い将来にインターネットゲーム依存症を精神科の病名に含めるかどうかについては、現在真剣な検討課題となっているのです。

将来的には、私たちの生活は私たちが想像できないようなものに大きく変わっていくでしょう。たとえば、テレビが家庭に普及し始めたころは、皆がテレビ依存を心配したものでした。ところが現在では、ネット依存・スマホ依存などへの心配が、テレビ依存にとって代わるようになっています。

技術が発展してくると便利な商品がどんどん出てきます。それらの多くは、我々の好奇心を刺激してくるものです。そういったものとうまく付き合っている人は当然、依存症ではありません。

病名の線引きの問題は、物質依存症についてもいえることです。たとえば、「アイスクリーム依存症」「シュガーレスガム依存症」などという病気は精神科の病気としては存在しません(摂食障害という病名は存在しますが、これは症状が大きく異なります)。つまりここでも、ひとつの線引きが行われているのです。

アイスクリームやシュガーレスガムが含まれない一方で、タバコやアルコールへの依存症については、病名に含まれます(タバコ使用障害、アルコール使用障害、という名前が正式病名です)。そして近年では、カフェインへの依存症も、病名に入れるかどうかという議論があります。まだ含まれてはいません。このように、物質ひとつひとつをとっても、入っているものと入っていないものがあるのです。

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