インタビュー

反社会的行動とサイコパス

反社会的行動とサイコパス
村井 俊哉 先生

京都大学医学研究科 脳病態生理学講座 精神医学教室 教授

村井 俊哉 先生

この記事の最終更新は2015年07月11日です。

依存症の一つであるギャンブル依存症などを「行為・過程に対する依存症」ということなど、ここまでの記事では「依存症」についてご説明してきました。この記事では少し目線を変えて、「行為と行動」という観点で「反社会的行動とサイコパス」についてご説明します。日本の精神医学におけるオピニオンリーダーである、京都大学精神医学教室教授の村井俊哉先生に引き続きお話をお聞きしました。

ここまでは「行為・過程に対する依存症」について説明してきました。ここで、少し話を変えて「行動」という意味での反社会的行動について説明してみたいと思います。

ときどき、ぞっとするような犯罪をニュースなどで耳にすることがあります。そこではたとえば、理由なき残虐な殺人や集団リンチなどが報道されます。これらのことを精神医学では「反社会的行動」と言います。

反社会的行動を考える上では、まずはその方の生活歴(生まれてから現在までの生活におけるあらゆる出来事)の中にその原因を探していくことが重要と言われます。ただ、その方のそれは紛れもない事実なのですが、しかし生活歴に関係なく、つまり生活歴の中に特段の原因は見当たらないけれども単に「反社会的な傾向にある」という場合もあります。

繰り返される反社会的行動が見られる場合、「反社会性パーソナリティ障害」という診断名に該当することがあります。また、この障害の一部については、「サイコパス」という名称で知られています。

犯罪自体はいろいろな理由で起きます。特に未成年の子たちにありがちなのは、「集団になるとやってしまう」ということです。

軽微なものであっても、法律を犯すすべての行為は犯罪に当たるわけです。例えば、「急いでいるときに横断歩道を赤で渡ってしまった」などは誰しもが身に覚えがあるかもしれません。ここでは敢えて例は挙げませんが、皆さん自身、ご自身の青年期を振り返ってもらうと、信号無視よりはもっと重大な違法行為の経験を思い起こされるかもしれません。ただ、そういう経験があったとしても、そのような行為の後、大抵の人はきっと多少の罪悪感には見舞われたことでしょう。

ところがサイコパスの診断に該当する人には、このような罪悪感や、自分の行為によって被害を受けた人に対して「申しわけない、謝罪したい」という感情が生じないのです。例えば被害者に重大な身体障害を負わせた、財産のほとんどを騙し取ってしまった、などといった行為の後、後悔・懺悔の感情が起きてこないのです。

サイコパスの方の脳で何が起きているのかは、未だ謎に包まれています。ただ、彼らの心理の一つの特徴とされているのは、「他人の気持ちに対する共感力が極端に弱いこと」です。もちろん、共感力は人によって強弱の程度の差があります。ただ、たとえば親友が親を亡くして悲しんでいたら、一般的な方であれば、程度には差があったとしても、多少なりとも気持ちを共有し悲しみの感情を感じることでしょう。しかしサイコパスの方は、そのような共感が極端に希薄であるといわれています。そういったことから、人の共感性に関わることで知られている前頭葉のいくつかの脳領域などの機能不全が、サイコパスの原因の一つとして推測されているのです。