インタビュー

自傷行為とは―自傷行為の種類、リストカットをしてしまう心理と原因

自傷行為とは―自傷行為の種類、リストカットをしてしまう心理と原因
松本 俊彦 先生

国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 部長、国立研究開発法人 国立...

松本 俊彦 先生

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この記事の最終更新は2015年04月30日です。

あなたの周囲に、リストカットなどの自傷行為をしてしまった人はいませんか? 自傷行為とはなにか、自分を傷つける行動をなぜとってしまうのか、国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦先生にお話を伺いました。

「自傷行為(リストカット)=病気」というわけではありません。ただし、自傷行為をしてしまう人は何らかの心の問題を抱えていることが多いと言えます。

自傷行為は10人に1人が経験していると言われ、その6割が10回以上したことがあるという調査があります。これは100人いると10人が何か自傷行為をしたことがあって、うち6人は10回以上していることになり、意外に多いと感じるかもしれません。これら全ての人が直ちに病院に行くべきとは言えませんが、何らかのトラブルを抱えていて、支援が必要な人であると考えられます。

一番有名なものはリストカットです。リストカット以外でも、手を噛んだり、自分の腕を跡がつくくらい強くつかんだり、身体を血が出るまでかきむしったりすることも自傷行為と言えます。また、壁に頭を打ちつけたり、拳を打ちつける行為も実は自傷行為に含まれます。

自傷行為は様々な意図から行われますが、リストカットのような自傷行為の場合、感情的な苦痛をしずめるために行われることが最も多いと言われています。自傷行為の原因としては、2つの要因が関わってきます。

一つは遠い昔に自分の身に起きた経験などに影響される、遠因(えんいん)と呼ばれるものです。これは、例えば幼少期に受けた虐待やネグレクト、学童期のいじめ、子供の時の先天性疾患の治療などに由来します。これらの経験によって、人への信頼ができなくなったり、助けを求めることができなかったり、というような性質になり、その後の人生において容易にリストカットなどの自傷行為に走りやすくなります。

もう一つは、最近の身の回りの辛い出来事に影響される、近因(きんいん)と呼ばれるものです。これは、親や恋人、親友との葛藤によるものが代表的です。辛くストレスのかかった時の逃避の手段として、リストカットをしてしまうということがあります。また、友人など身近な人に自傷をしている人がいたり、日頃から自傷に関する話題や写真、映像が掲載されているウェブサイトを閲覧していたり、憧れているアーティストや芸能人が自傷のことを告白しているといった、一種の「自傷肯定的な文化」が存在すると、自傷することに対する「心のハードル」は低くなります。こういった周囲の環境も一種の近因と考えることができるでしょう。

自傷行為の多くは、これらの2つの原因(遠因と近因)両方が関与しています。精神科の臨床現場では、過去に虐待を受けた背景をもつ方が、最近の恋人とのケンカでリストカットをしてしまう、というケースが多い印象です。

また、インターネットの動画サイトなどで、自分のリストカットの画像や動画を公開する人がいますが、このような人たちの多くは、リストカットなしでは生きることができない自分のことを、ある部分では自嘲し、ある部分では居直り、しかし、心の奥では絶望しています。本人はそうした絶望感を隠して強がりますが、周囲からはネガティブなイメージを抱かれがちです。そして、このようにして、社会との接点が「自傷する人として見なされること」になってしまうと、自傷がエスカレートし、深刻な事態になってしまうことが少なくありません。

記事1:自傷行為とは―自傷行為の種類、リストカットをしてしまう心理と原因
記事2:親しい人が自傷行為(リストカット)をしていたら―家族や友人はどう対応すればよい?
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記事4:薬物によって依存症の治りにくさは違う?―大麻、ヘロイン、モルヒネ、コカインなど、薬物依存症を引き起こす薬の種類
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