概要
薬物依存症とは、覚せい剤、大麻、シンナーなどの有機溶剤といった依存性のある薬物を繰り返し使用することで、心身に何らかの変化をきたした状態のことです。
法律で使用が許されていない薬物を使用したり、医薬品などを本来の目的・方法から逸脱して使用したりすることを薬物乱用と呼びます。脳への刺激が強い依存性薬物を乱用し続けることで脳に慢性的な異常が起こってしまい、自分の意思では依存性薬物を中止することが難しくなってしまいます。
薬物依存症には、体内の薬物が枯渇することで手の震えや幻覚・意識障害などの離脱症状を引き起こす“身体依存”と、薬物に対する欲求を抑えきれずに自制が効かなくなる“精神依存”があります。薬物の乱用が繰り返されると中毒症状が現れることがあり、ときには死に至ることもあります。また、薬物依存症は患者本人のみならず、患者の問題行動によって周囲の人々にも影響を及ぼすことがあります。
薬物依存症は脳の機能に異常をきたした状態であり、自分自身の努力だけでは薬物の使用をやめることができません。医療機関で専門的な治療を受け、少しずつ問題行動を改善していく必要があります。しかし、治療を受け、薬物を一定期間やめ続けても、脳が薬物への渇望を忘れることはなく、薬物使用に対するコントロールを喪失した状態は潜在し続けると考えられており、薬物をやめ続けるためのセルフケアが必要とされています。そういった意味では慢性疾患といえるでしょう。
原因
薬物依存症は、覚せい剤、有機溶剤、大麻などの依存性薬物と呼ばれる薬物を繰り返し乱用することで起こります。
また、通常使用では規制の対象ではない医薬品(睡眠薬や抗不安薬などの処方薬、あるいはドラッグストアで購入できる市販薬)でも、目的とは異なる不適切な使用を繰り返すことで薬物依存症に陥ることがあります。
依存性薬物は脳内報酬系という、快感をつかさどる中枢を直接刺激する性質を持っており、強い快感を与える特徴があります。その結果、薬物の効果が切れると使用したときの快感を求めて再び薬物を欲するようになり、ときには大切な人を裏切り、借金や、暴力などの犯罪行為を行ってでも薬物を手に入れようとするようになることもあります。
症状
薬物依存症とは、自分の意思では薬物の使用をコントロールできなくなった状態です。具体的には、薬物使用者が以下のような状態にあると、薬物依存症の症状が現れているということになります。
代表的な依存症状
- 薬物を使用する量が増えている
- 仕事、対人関係、金銭面などにトラブルが生じて、生活に支障が出ている
- 薬物を使用していない時でも、周囲の人に対して感情的になってしまう
- 薬物の使用を後悔しているにもかかわらず、やめることができない
また、薬物の乱用が繰り返されると、やがて薬物中毒に発展することもあります。
薬物中毒には急性中毒と慢性中毒があり、それぞれ以下の症状があります。
急性中毒
- パニック
- 意識障害や知覚変容体験
- 昏睡状態
- 死亡
慢性中毒
- 幻覚、妄想状態などの精神障害
- 認知機能の不可逆的障害
- 人格変化
- 臓器障害
検査・診断
薬物をはじめとした依存症の診断には、“ICD-10による依存症候群の診断ガイドライン”と呼ばれる国際的な診断基準があります。この診断基準では、過去1年間に薬物を強く欲する精神的または行動的な特徴の有無や、薬物を使用して明らかな問題が起こっているにもかかわらず使用をやめられないかどうかなど、依存症でよくみられる特徴に基づいて評価されます。
薬物依存症からの回復を目指すにあたっては、薬物依存症であるかどうかだけではなく、依存症の重症度や患者とその周囲の人々の問題などをより詳しく評価する必要があります。この評価を行うためには、以下のような幅広い情報が必要になります。
- 現在の身体的、精神的状態
- 既往歴
- 教育歴、職業歴、婚姻歴、経済状況などの情報
- 交友関係
- これまでの逮捕歴や矯正施設への入所歴
- 薬物使用歴
- 家族全体に関する項目
こうした聞き取りは薬物使用者本人から行うこともありますが、難しい場合は家族からの情報をもとに評価することもあります。
治療
薬物依存症の治療は、薬物によってもたらされた中毒症状の治療と、薬物使用をやめることを患者本人が望み、その状態を継続するための治療に分けられます。
薬物中毒症状の治療
幻覚や妄想など、薬物使用による身体的な障害や精神的な障害が生じている場合の治療です。主に精神科病院などの医療機関で行われ、病院内での規則正しい生活と、必要に応じて治療薬による治療が行われます。
これらの治療によって幻覚・妄想などの症状の多くは改善します。しかし、薬物の使用によって変化した脳の構造が完全に元に戻ったわけではなく、放置すると再び薬物の使用を繰り返してしまいます。
薬物依存症の治療
薬物依存によって歪んでしまった認知や行動の修正や、薬物に対する強い欲求(渇望)に対処するための治療です。薬物治療を専門とする医療機関では、薬物依存症について理解するための教育的プログラム、集団精神療法、認知行動療法などが行われることがあります。
また、民間のリハビリテーション施設や、薬物依存症患者同士の自助グループなどに参加することもあります。
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