インタビュー

“血友病だからできないこと”なんて何もないと信じて――世界一周にも挑む

“血友病だからできないこと”なんて何もないと信じて――世界一周にも挑む
メディカルノート編集部 【患者・家族取材】

メディカルノート編集部 【患者・家族取材】

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血を固める成分(血液凝固因子)の不足により、出血すると血が止まりづらくなる血友病。この病気の患者さんには、出血に伴いさまざまな症状が現れることがあります。その1つが関節内出血による関節の痛みや腫れなどの症状です。幼い頃に血友病の診断を受けた藤井 浩平さん(仮名)も、小学生の頃から足首の痛みが現れるようになったそうです。

子どもの頃からスポーツに精力的に取り組んでいたという藤井さんは、大人になってもアクティブなまま。好きな旅行を続けて、最近では世界一周にも挑戦したといいます。「病気や苦難などの試練は、乗り越えられる人にやって来る」という母の言葉を胸に「できないことなんて何もない」と語り日々を楽しんでいます。藤井さんに、これまでの経験や現在の生活、そして同じ病気の方たちへのメッセージなどをお伺いしました。

3歳くらいの頃に、血友病の診断を受けました。私のあざがなかなか治らないことに悩んだ母に連れられて病院を受診したところ血友病であることが分かったそうです。

診断後は地元の病院に通っていましたが、小学生くらいの頃から血友病に詳しい先生のところに受診するようになりました。この先生には大変お世話になり、今でも実家に帰った際には会いに行き「元気にやっています」と報告することもあるくらいです。地元を離れてからは、自宅から近い血友病を専門とする病院を受診してきました。

現在は、拠点によって3つの医療機関に通院しています。自宅から近く定期的な検査のために受診を続けている病院、東京にいることもあるので、その際に何か異変があれば受診する都内の病院、地元に帰ったときに行く病院といった感じです。

私は、活発な子どもだったと思います。小学生の頃からスキーやサッカーなどのスポーツに精力的に取り組み、大会に出場することも度々ありました。ただ、このようなスポーツの影響もあり足首を痛めてしまったので、足の関節が伸びないよう普段から足首にギプスをはめていました。

その後、大学時代にスノボをしていたときに腸腰筋(太ももを持ち上げるはたらきのある、腰椎(ようつい)大腿骨(だいたいこつ)をつなぐ筋肉群のこと)を痛めてしまい、一時的に歩くことが難しくなったこともありました。以降は無茶しないようにと思いスノボは控えていたのですが、アメリカに留学した際にパーティーの出し物の演出で、アクロバティックな動作をすることになり、それがきっかけで再び腸腰筋を痛めてしまいました。その際、治療薬が足りなくなって日本の病院から薬を国際輸送してもらったこともあります。あのときは非常に助かりましたね。また、これまでに肘や指の関節の痛みが出たこともありますが、そこまで強い症状が現れたことはありません。

雪の上でスキーをしている人たち自動的に生成された説明
写真:PIXTA

私は現在44歳ですが、40歳くらいの頃から足首の痛みが徐々に悪化していき、子どもと一緒に運動会で走るようなことは難しくなりました。ただ、そこまで重い症状ではなく歩いたり小走りしたりするのは問題なくできるので、日常生活に大きな支障はありません。また、後ほど詳しくお話ししますが私は旅行が好きで世界中さまざまな場所を訪れてきて、今も国内外問わず旅行も問題なくできています。先日も国内旅行で、1日に3万歩程歩きました。

治療は、凝固因子製剤を定期的に注射で投与する治療(定期補充療法)を続けてきて、小学5年生くらいの頃から自己注射を行ってきました。自己注射は、母が注射するのをそばで見ていたので、自然に自分でもできるようになりました。記憶には残っていないのですが、最初は先生に自己注射の指導を受けていたと思います。

そして最近、凝固因子製剤に加えてエミシズマブという抗体製剤も併用するようになりました。関節の痛みが強いときには、対症療法として湿布薬や、痛み止めの薬を使用することもあります。

エミシズマブを導入したのは、44歳になってからです。診断を受けて以来、凝固因子製剤で治療してきましたが、週に1~2回の投与という間隔が私にとっては短く感じられて疲れてしまうし、投与を忘れてしまうことも度々ありました。これらを主治医の先生に伝えたところ「皮下注射の抗体製剤であれば投与頻度を伸ばすことができる」と教えてくれたのです。ただ最初は皮下注射の痛みを懸念して、導入をためらっていました。子どもの頃に使用していた凝固因子製剤によって感染・発症したC型肝炎の治療で皮下注射を行ったことがあり、身をもって痛みを知っていたからです。痛みの感じ方には個人差があるので皮下注射でもさほど痛くないという人もいますが、私の場合は強い痛みを感じます。

こうした不安はあったものの、投与間隔が長くなる可能性があることをメリットに感じて抗体製剤を導入することに決めました。現在は、もともと使用していた凝固因子製剤とエミシズマブを併用しています。新しい薬を試しながら、何かあればもとの薬に戻すことができるので、精神的にも大きな負担を感じることなく治療を続けられています。

以前に2か月かけて世界一周したときには、リュックとSサイズのスーツケース1個の荷物の大半を薬が占めてしまったのですが、投与間隔が長くなったことに加えて薬液のサイズもこれまで使用していた薬よりも小さいので、旅行の際の荷物を大幅に減らせるようになりました。

水のボトル自動的に生成された説明
写真:PIXTA

お話ししたように40歳くらいの頃から、足首が徐々に痛くなっていったので、アクティブなスポーツは難しくなりました。子どもの頃から親しんできたスポーツを思う存分できなくなったのは、少し残念ですね。ゴルフも昔は頻繁に行っていたのですが、足首をキープしながらスイングすることが難しくなってきたので、今は年に1~2回程に抑えています。

日常生活で工夫しているのは、靴選びです。今も足首の痛みがあるので、負担がかからないようスニーカーを履くようにしています。いろいろなメーカーのスニーカーを試し履きして、最近ようやく「これだ!」というものを見つけました。反発性がよく、かつ手頃な値段のものを選ぶようにしています。

また、お伝えしたように日本国内・国外問わず旅行もたくさんしてきました。世界一周をしたときには、自ら航空券の手配やホテルの確保など全てを行い、言葉の通じない場所にも足を運びました。時には脅されたり、命の危険を感じたりする場面もありましたが、中南米・ヨーロッパ・アフリカ・中東・中央アジアへと足を延ばし、多様な文化、人々、歴史に触れることで、幼少期から抱いていた“世界を冒険する”という夢を叶えることができました。

私は病気を理由に悲観的にならないようにしています。そんな暇があるなら、自分の力でスキルを高めたり、好きなことに取り組んだりしたほうがよいと思っているからです。だからこそ、病気を言い訳にせず好きな旅行もたくさんしてきました。

「病気があるから助けてほしい」と思ったこともありません。日常生活は送れていますし、仕事も趣味も問題なくできています。自分ができる範囲で、十分なパフォーマンスを発揮してきたと思っています。ただ凝固因子製剤も抗体製剤も薬価は高いので、日本の医療保険制度には心から感謝しています。支援を受けられる環境に感謝しながら、これからも自分がやりたいことを貫いていきたいと思います。

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写真:PIXTA

私は、血友病に関する医学的知識は主治医の先生からの教えに加え自ら調べることの両輪で得ています。分からないことがあれば積極的に主治医の先生に教えてもらいつつ、自ら調べるようにしています。

あとは、所属している患者会から届くメルマガでイベント情報などが届くので、製薬企業の方たちと話せるようなイベントや、新しい薬剤の情報を得られるイベントがあれば参加することもあります。患者会に入会したのは、小学生くらいの頃です。当時はインターネットも発展していなかったので、患者会に入らなければ情報を得ることが難しかったという背景があったと思います。子どもの頃は、患者会の仲間と一緒に遊びに行くなどコミュニケーションを取る機会にも恵まれました。

ほかにも、血友病に関する情報はSNSのグループチャットや、製薬企業のポータルサイトから得ることがあります。たとえば、血友病患者が旅行するときに必要なアドバイスがまとまっているので、非常に役に立っています。海外に行く際に作成したほうがよい文書などが紹介されていたり、実際にテンプレートをダウンロードできたりするので、よく利用しています。また血友病の患者さんのインタビュー記事もあり、こちらも参考になっています。

私の根幹にあるのは、母から言われた「病気や苦難などの試練は、乗り越えられる人にやって来る」という言葉です。この言葉を聞いて、自分は何でもできると思うようになりました。実際にスキーなどのスポーツやアメリカ留学、海外旅行など挑戦してきましたし、思いっきり人生を楽しんでいると感じています。日本一周に加え世界一周をついに実現し、言葉の通じない場所であっても1人でどんどんチャレンジしてきました。私は、“血友病だからできないこと”なんてまったくないと信じています。この病気があるからといって、人生を悲観する必要もないと思っています。むしろ病気という試練をバネにして人一倍頑張れれば、人生を楽しく過ごせるのではないでしょうか。私の場合は、むしろ病気がなかったらまったく違う人生になっていたでしょう。病気があるからこそ「負けられない」という対抗心や、向上心を誰よりも強く持てたのかもしれません。

同じ血友病の患者さんや、そのご家族には、前向きに生きて、やりたいことに取り組んでほしいですね。医学は日々進歩していますし、日本では社会福祉制度も十分に整っていると感じます。このような制度なども上手に利用しながら、好きなことをして、できるだけ楽しく日々を過ごしてほしいと思います。

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