インタビュー

骨延長術とは? 外傷や先天性疾患による長管骨の短縮・変形に対する治療

骨延長術とは? 外傷や先天性疾患による長管骨の短縮・変形に対する治療
中村 英一 先生

熊本回生会病院 院長補佐

中村 英一 先生

この記事の最終更新は2017年09月26日です。

骨延長術とは、外傷や先天的な疾患による長管骨(四肢の骨)の短縮もしくは変形に対して、創外固定器という器械を装着して行う治療法です。骨延長術は骨の再生を促す治療であるため、長期間の管理を必要とします。骨延長術の方法や治療経過について、熊本大学病院整形外科の中村英一(なかむら えいいち)先生にお話を伺いました。

骨延長術とは、整形外科領域において、創外固定器(皮膚のうえから複数本のワイヤーやピンを骨にさすことにより、長管骨の2つあるいは3つの骨片を固定・圧迫する器械)を用いて、骨を伸ばす、あるいは骨の変形を治すための治療をさします。

骨延長術を行うケースはおもに2種類あります。1つ目は外傷による骨折などで長管骨が変形もしくは短縮した患者さんのケース、2つ目は先天性骨系統疾患などによって最終身長(成長期を過ぎて身長の伸びが完了した成人身長)が140cmに満たない患者さんのケースです。治療の対象となる疾患の種類については記事2『骨延長術の適応となるケース・条件とは』で詳しくご説明します。

【骨延長術の対象となるケース】

  • 外傷による骨折などで長管骨が変形もしくは短縮した患者さん
  • 先天性骨系統疾患などによって最終身長が140cmに満たない患者さん

1960年代までの骨延長術は、長管骨を斜めに骨切りし、一期的にずらして延長したり、生じる隙間に骨を移植する一期的骨延長法が主流でした。(以下参照)

一期的骨延長法
一期的骨延長法 画像提供:中村英一先生

 

しかしこの方法で伸ばせる範囲はおよそ3cm程度と短く、また急激に骨を伸ばすことにより、合併症として軟部組織損傷(筋断裂、血管損傷や神経麻痺)が起こるリスクが高いことが問題視されていました。

1960年代後半には、骨を一回の手術で伸ばすのではなく長期間で徐々に伸ばす「イリザロフ式骨延長術」が開発されます。イリザロフ式骨延長術は徐々に骨を伸ばすため、それまでの方法よりも周辺の筋肉・血管・神経が順応しやすいことと、3cm以上の大きな骨延長が骨移植の必要なく可能であることから画期的であり、現在でも活用されています。

またイリザロフ式骨延長術は1980年代から、整形外科分野にとどまらず、形成外科分野において外傷もしくは小顎症(しょうがくしょう:生まれつき顎の骨が小さい病気)など先天性疾患の治療に用いられ、顔面形成術の1つとして活用されるようになりました。

骨延長術(Distraction Osteogenesis)とは、皮膚のうえから創外固定器を装着し、長管骨を横切し、両方の骨片を毎日少しずつ引き延ばすことで、生じる間隙に骨を再生させ、伸ばす方法です。骨の再生速度の限界は、1日に1mmです。さらに創外固定器を延長する頻度は、短いほうが骨形成を良好にすることがわかっています。たとえば、創外固定器を12時間ごとに0.5mmずつ動かすよりも、2時間ごとに0.125mm動かすほうが、骨形成を良好にするという研究結果が示されています。

骨延長術に用いる創外固定器には、おもに2種類あります。

1つ目はイリザロフ式骨延長術で使われる、リング型創外固定器です。リング型創外固定器は、下記のように円形のリング構造をしており、長管骨の延長や3次元の複雑な骨変形を治す際に用います(図1A)

円形式(リング型)創外固定器
図1A 円形式(リング型)創外固定器 画像提供:中村英一先生

 

2つ目は、単支柱型(片側式)創外固定器です。単支柱型(片側式)創外固定器は下記のように、延長する四肢の片側にのみ装着します。リング式に比べて小さく装着しやすいといった利点があり長管骨の延長や骨変形を治す際に用いますが、骨変形の矯正は1平面の変形に限られます(図1B)。

片側式創外固定器
図1B 片側式創外固定器 画像提供:中村英一先生
片側式創外固定器のレントゲン写真
片側式創外固定器のレントゲン写真 画像提供:中村英一先生

創外固定器の装着手術を行って、翌日より1週間は歩行訓練などを行い、1週間経過したら骨の延長を始めます。2週間経過した時点で様子をみて、経過が順調であれば外来通院に切り替えます。通院の頻度は2週間〜1か月に1回で、経過に問題があれば1週間に1回ほどに設定しています。なお身長増加のみ行う場合、外来通院は1か月に1回ほどで済みます。予定した延長量や変形の矯正が終了した時点で、固定器をロックし中和期間を設け、延長部にカルシウムの沈着を待って、骨強度が十分になってから創外固定器を外します。

骨延長術は、創外固定器を装着したのち、経過を観察しながら中和期間を設けてカルシウムの沈着と周辺の軟部組織(筋肉)の順応を待ちます。つまり、骨延長術は長期間の管理が必要なのです。たとえば、骨の延長期間を5か月間設定する場合、中和期間を含めると、その3倍の15か月間という固定器の装着期間が必要です。このように骨延長術は、長期間の通院・経過観察、創外固定器の操作を含めて、患者さんやご家族にとって根気のいる治療です。

骨延長術の費用はケースごとに異なりますが、2017年現在、両下腿の延長(両脛骨骨延長)の場合、自由診療では150万~200万円ほどです。

18歳以下の患者さんで、かつ先天性疾患にかかる骨延長術の場合、小児慢性特定疾患という小児科領域の医療補助が受けられることがあります。さらに小児慢性特定疾患の対象外であっても、各県で育成医療給付制度によって18歳以下の患者さんを対象に、医療補助を受けられる可能性があります。

記事2『骨延長術の適応となるケース・条件とは』では、骨延長術を実施する条件や、適応となる疾患についてお話しします。

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