概要
進行性核上性麻痺とは、脳の中でも大脳基底核、脳幹、小脳といった部位に障害が生じることから、さまざまな神経症状を現すようになる病気です。
転びやすい、しゃべりにくい、下のものを見にくいといった症状が特徴です。進行性核上性麻痺の原因は不明ですが、障害部位の神経細胞が減少し、リン酸化タウタンパクと呼ばれる異常なタンパク質が、脳内に異常に沈着することが知られています。
進行性核上性麻痺は、日本において難病指定を受けている病気の1つであり、40代以降で発症することが多いです。日本国内の有病率は、人口10万人当たり10〜20人程度と推定されています(2019年時点)。
初期にはパーキンソン病と似た動作の鈍さ、歩行障害などが見られるため、区別がつきにくいこともありますが、パーキンソン病より進行が早く、最終的には歩行ができなくなり寝たきりになります。寝たきりになる結果、誤嚥性肺炎をきたし、命にかかわることが多いです。現在のところ根本的な治療方法は存在しておらず、転倒しやすいため、それを予防するような生活スタイルを確立することが重要です。
原因
進行性核上性麻痺では、脳の中に存在する大脳基底核から脳幹にかけての神経細胞が障害を受けることから病気が発症します。特に黒質や淡蒼球、ルイ体と呼ばれる部位の障害が強いです。これらの部位の神経細胞が減少し、異常なリン酸化タウタンパクが蓄積することが病理学的に確認されます。神経細胞の中に「神経原線維変化」と呼ばれる線維状の塊が形成されますが、この線維の中にリン酸化タウタンパクが含まれています。何故こうした形態異常が生じるのかは分かっていません。なお、リン酸化タウタンパクが蓄積する病気としては、進行性核上性麻痺以外にもアルツハイマー病や大脳皮質基底核変性症などが知られています。
症状
進行性核上性麻痺の特徴的な症状は、病気の初期の段階から転びやすくなるということです。これは、神経系に形態学的な病変部位を認める部位に関連した症状であり、姿勢を保つ反射的な要素が減弱するからと考えられます。
また、こうした反射的な要素以外にも、周囲に対する注意力が低下することや危険を察知する能力が低下するためでもあります。さらに、進行性核上性麻痺では、初期から垂直方向への眼球運動ができなくなるので下方向のものを見にくくなるという特徴もあります。
下の方を見づらくなるということは、足下を確認しづらいということを意味しており、転倒のしやすさを助長する要因になります。転倒を繰り返すことから、外傷を起こすこともまれではありません。また、特に誘因もなく突然車いすから立ち上がり転倒につながることもあります。
進行性核上性麻痺では、パーキンソニズムと呼ばれる症状を現すことも特徴です。パーキンソニズムとは、パーキンソン病でも認めるような、筋固縮、運動緩慢、姿勢保持障害をみることです。しかし、パーキンソン病のそれとはやや異なる点もあります。パーキンソン病では前傾姿勢をとりながら歩行することが典型的ですが、進行性核上性麻痺では首が硬くなり後屈するようになるため、やや後ろのめりになることが多いです。
さらに、構音障害によるしゃべりにくさや、言葉の不明瞭さを伴うこともあります。病状が進行すると、嚥下機能にも異常を認めるようになり、誤嚥性肺炎を繰り返すようになります。また、前頭葉の機能障害も認めるようになるため、無気力や無関心といった症状も現すようになります。
進行性核上性麻痺では、上記に述べたような症状がさまざまな程度で現れます。どの症状が前面に出るかによっても病状が異なることも知られています。
検査・診断
進行性核上性麻痺では、上述したような症状をもとに疑われることになります。ただし、進行性核上麻痺と類似した症状を現す病気も存在するため注意が必要です。
類似疾患としては、パーキンソン病や線状黒質変性症、大脳皮質基底核変性症などがあります。
これら類似疾患との鑑別を行うためには、レボドパと呼ばれる薬に対する反応性、頭部MRIやCTの画像検査などが重要になります。
進行性核上性麻痺では、中脳や橋と呼ばれる部位の萎縮、第3脳質の拡大、大脳の萎縮などを伴うようになります。中脳の形態学的な変化として「ハミングバードサイン」と呼ばれるものは特徴的なものです。
治療
進行性核上性麻痺に対しての根本的な治療方法は、現在までのところ確立されていません(2019年6月時点)。
したがって、症状に応じた支持療法を行うことが治療の中心となります。効果は限局的なこともありますが、パーキンソン病に対して使用される薬剤やうつ病にも使用されることのある薬剤などを使用することがあります。
そのほか、進行性核上性麻痺では、日常生活や介護において注意すべき点も多いです。進行性核上性麻痺では転倒をしやすいという特徴があるため、転倒をしにくいような環境整備、けがをしないような配慮が必要になります。
また、嚥下機能が低下するため、状況に応じて食事形態を変更したり食器を変更したりする配慮が必要になります。誤嚥性肺炎をきたすこともあるため、抗生物質の使用も必要になることがあります。
医師の方へ
進行性核上性麻痺の詳細や論文等の医師向け情報を、Medical Note Expertにて調べることができます。
「進行性核上性麻痺」を登録すると、新着の情報をお知らせします
関連の医療相談が11件あります
セカンドオピニオンの検討について判断したい
歩行困難、手足が自由に動かなくなってきている。ここ数週間の進行スピードが速い。 8月18日に急に足が思うように動かなくなり、その後日々悪化していき今は歩行困難、手も使い勝手が悪くなっている状況。 9月19日にかかりつけ医に受診し、パーキンソン病の疑いありと診断され、総合病院への紹介を受け、 9月28日に総合病院で1日検査を受け、29日に診断結果報告あり。 パーキンソン病の疑いは薄いとの判断。1か月様子を見ましょうとの事。 その後も本人の自覚では症状は悪化しているように感じている。現在起き上がったり動くのもままならない状況とのこと。 遠距離に暮らす私(息子)としてはセカンドオピニオンを検討したいがどうしたらよいでしょうか?
騒音性難聴と耳鳴り
1年くらい前から耳鳴りがきになり耳鼻科を受診したら騒音性難聴とのことでした。その後テレビがついていたり雑音があると会話が聞き取りにくく、仕事中どうしてもなんかしら雑音があるため聞き取りにくく聞き返すことが増えてこまっています。時々耳抜きができないような詰まった感じがすることも増えました… 加味帰脾湯という薬を処方されましたが改善しません… ほかの病院を受診してみるべきですか? あと、耳の感じはとても説明しにくいです。症状を伝えるのになにかアドバイスあったらおしえてほしいです…
右足が痺れて上手く歩けない。
今朝起きた時から右足が痺れている。駅に向かうのに痺れて上手く歩けなかった。びっこを引いて歩くも進みが遅いので急ごうとしたら足首に上手く力が入らず転びそうになった。とりあえず電車に乗ったものの約1時間経つのに痺れが取れません。何科にかかれば良いでしょうか?
脳梗塞の初期症状かどうか
先日、外出先で母の具合が悪くなりました。 私の声が聞こえづらくなり、座っているのもやっとの状態。 ずっと生あくびを繰り返していたのですが、一瞬意識を失ったように見えました。 幸いすぐに戻ったのですが、その後10分程、身体が重い状態が続きました。 よくある顔面がゆがむとか、ろれつが回らなくなる、頭痛とかもなく、受け答えもしっかりしてました。 心配だから病院で診て貰ったほうがいいと言っても聞いて貰えず。 もし脳梗塞の初期症状だったら怖いなと思い、相談させて頂きました。 よろしくお願い致します。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。