インタビュー

治療目標は「機能と見た目」の同時再建-形成外科の普及のためには医師からの説明、啓発も不可欠

治療目標は「機能と見た目」の同時再建-形成外科の普及のためには医師からの説明、啓発も不可欠
朝村 真一 先生

和歌山県立医科大学 医学部形成外科学講座担当教授

朝村 真一 先生

この記事の最終更新は2016年06月02日です。

顔面の骨折や変形は、多くの場合形成外科で治療します。

たとえば頬や鼻、眼のまわりの骨が折れてしまったとき、形成外科医として重要なことは、ただ骨を癒合させるだけでなく、患者さんが受傷する以前のように生き生きと社会復帰できるよう、「整容」にも力を注ぐことであると、和歌山県立医科大学付属病院・形成外科教授の朝村真一先生はおっしゃいます。

本記事では、機能と見た目の美しさを同時に修復する顔面骨折の治療と、形成外科を地域に根付かせるために今医師は何をすべきなのかについて、朝村先生にお話しいただきました。

頬や鼻、眼のまわりの骨など、顔面の骨折は形成外科で治療することをおすすめします。

というのも、形成外科医は体の機能面を治療すると同時に「整容」にも重きを置いているからです。

ここでは、一例として、ある患者さんのエピソードをご紹介します。

和歌山県立医科大学付属病院には、親御さんが車をバックさせようとした際に、誤って轢いてしまったお子さんが来院されたことがあります。

そのお子さんは顔面の皮膚や筋肉がめくれ上がり、眼窩床(がんかしょう)を骨折されていました。眼球が収まっているくぼみである「眼窩(がんか)」の損傷であったため、当初は眼科に行かれたとのことでしたが、一般に眼科は眼球を治療する診療科であり、眼窩骨折のほとんどは形成外科にて手術をするのです。

形成外科は、患者さんが失ってしまった「機能」と「見た目」を同時に再建する外科であり、上述したお子さんの治療の際にも、「社会復帰をできるまでに顔面を再建すること」を目標において手術に臨みました。

ほかにも、顔面の変形により引きこもりとなってしまっていた10代の患者さんの手術を行い、社会復帰していただけたという例もあります。顔面の変形や骨折は、他の部位以上に精神的劣等感を引き起こしやすいため、常に「見た目」の修復や再建を重視して治療にあたっています。

このように、形成外科とは何らかの異常を正常かつ美しくすることで、患者さんのQOL(生活の質) 向上に貢献することを使命としています。

しかし、日本に形成外科が登場してから長い歳月が経過しているにもかかわらず、一般の方々には形成外科が上記のような診療科であることはほとんど知られていません。これが私たち形成外科医の抱える現在の課題であるといえます。

「明らかに形成外科領域」と、患者さん側で判断できる疾患はそう多くはありません。

形成外科で扱う疾患は、「目の病気ならば眼科、耳や鼻の症状ならば耳鼻科」というように、病変や症状が現れる部位によって区分されるものではないからです。

先述した眼窩床骨折や鼻骨骨折は原則的には形成外科で治療しますし、生まれもって耳のない患者さん(小耳症)なども、形成外科で手術します。

形成外科では、このほかにも臍ヘルニアでべそ)ややけど、乳房再建や腋臭症(わきが)など、非常に多岐的な問題を取り扱います。また、他科が行う肝移植の血管吻合の際などに、形成外科医が加わることもあります。

これは、逆にいえば「形成外科は扱う疾患や怪我を限定しない、特定しない」ということでもあります。

守備範囲が広いことはよいことのように聞こえるかもしれませんが、私はこれが形成外科が日本で普及しない原因のひとつであると考えています。

一般の方に形成外科がどのような診療科であるかを具体的にお伝えし、理解していただくことは難しいものですが、根気強く説明せねば形成外科の文化は根付いていかないのではないかと考えます。

和歌山県立医科大学付属病院に形成外科が開設されたのは2015年の7月のことで、私の以前の勤務地(近畿大学医学部付属病院)であった大阪近郊に比べ、和歌山地域では形成外科の認知度は低いものであると感じています。これは一般の方々への説明不足が原因であり、医師側にも大きな責任があるものとも感じています。このような理由から、われわれ形成外科医は学会や講演会などでの啓蒙・啓発活動にも、より一層尽力していかねばならないと考えています。

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