概要
イタイイタイ病は、日本の四大公害病の1つとして知られる環境汚染による病気です。発症すると、腎機能障害が起こり、骨が非常にもろくなります。そのため、ちょっとした力が加わっただけも骨折し、全身に激しい痛みを生じます。患者が痛みを訴える様子から、この病名がつけられました。
イタイイタイ病は1910年代から1970年代にかけて富山県の神通川流域で多発し、主に出産経験のある更年期以降の女性にみられました。1968年には、上流にある鉱山から河川に排出されたカドミウムが原因であることが明らかになりました。当時は公害についての理解が浅く、カドミウムがそのまま川に流れ込み、農業用水や生活用水として使われていました。その結果、飲み水や米や野菜などの食べ物が汚染され、長い間それらを飲食することでカドミウムの慢性中毒が発生しました。
1974年には「公害健康被害補償法」に基づいて医療救済措置が行われるようになり、2022年までに201人が患者として認められています。未認定の患者や軽微な症状の人々を含めると、当時影響を受けた人数はさらに多いと考えられています。
原因
イタイイタイ病の主な原因は、長期間にわたる高濃度カドミウムの摂取です。また、カドミウム摂取だけでなく、妊娠や授乳、加齢、カルシウムなどの栄養不良といったほかの因子もイタイイタイ病の発症に関与していると考えられています。
カドミウムは自然界に存在する重金属の一種で、環境中から農作物や水産物に取り込まれます。人がこれらの食品を摂取することで、体内にカドミウムが吸収されます。カドミウムは主に腎臓に蓄積し、長期にわたる摂取により腎機能障害を引き起こします。腎臓は、体内のミネラルバランスを整えるだけでなく、骨を強くするために必要なビタミンDを活性化させるなど、多くの重要な役割を担っています。そのため、カドミウムにより腎機能障害が引き起こされると、ミネラルの再吸収や排出(代謝)のバランスが崩れ、結果として骨の健康に深刻な影響を及ぼします。
イタイイタイ病の特徴的な症状である骨軟化症は、このようなミネラル代謝の乱れが原因で発症します。骨軟化症とは、骨が十分に硬化せず、軟らかくなる状態を指し、骨折のリスクが高まります。
この病気が富山県の神通川流域で多発した背景には、地元の鉱山からカドミウムを含む廃水が河川に流出し、その水で農作物を育てたり、飲料水として使用したりしていたという事情があります。現在では、環境基準の厳格化や食品の安全管理により、イタイイタイ病のような深刻な健康被害のリスクは大きく低下しています。
症状
イタイイタイ病の初期症状は、腰や肩、膝などに現れる痛みです。この痛みは徐々に体のほかの部位にも広がっていきます。太ももや腕に神経痛のような痛みが現れ、お尻を振って歩く「アヒル歩き」と呼ばれる特徴的な歩き方になることもあります。病状が進行すると、わずかな体の動きや咳をするだけでも強い痛みを感じるようになります。
また、骨の脆弱化が進むため、通常では考えられないような軽い力でも骨折を引き起こします。つまずいたり転んだりしただけでも骨折し、歩行が困難になります。重症化すると全身に多数の骨折を負い、寝たきりの状態になる患者も報告されています。
検査・診断
イタイイタイ病の診断は、患者の症状、居住歴、および特定の検査結果に基づいて行われます。検査では、尿検査、血液検査、X線検査、骨の生検などを行い、腎臓と骨の状態を確認します。診断の認定基準として、次の4つの条件が挙げられています。
治療
イタイイタイ病の治療は主に症状を緩和する対症療法が中心です。骨の症状に対しては、活性型ビタミンD₃製剤が使用されます。この薬は、カルシウムの吸収を促進し、骨の健康を維持する効果があります。
カドミウムによって損傷を受けた腎臓の機能を回復させることは困難なため、腎機能障害に対してはその進行を抑えることが目標となります。
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