概要
亜急性甲状腺炎は、甲状腺に炎症が生じる病気です。「亜急性」は、急性よりも長く続きますが、慢性的に続くわけでもないことを指します。ウイルスの感染が原因と考えられていますが、明らかにはなっていません。症状としては、甲状腺の痛み・発熱・血液中の甲状腺ホルモンの上昇があります。男性に比べて女性の発症率が高く、特に30〜40代の女性に発症しやすいといわれています。
亜急性甲状腺炎は基本的には一過性の病気であり、症状は1~2か月ほどの経過で落ち着きます。似ている病気にバセドウ病がありますが、両者の治療方法は全く異なるため、不要な薬剤の使用を避けるためにも両者の見極めは非常に重要です。
原因
甲状腺は首の前方に位置する小さな臓器で、甲状腺ホルモンと呼ばれるホルモンを分泌します。甲状腺ホルモンは代謝を促進させることで、体を活発にします。また、甲状腺ホルモンは脈を速めるなど交感神経を刺激し、体の活動状態を調整します。つまり、甲状腺ホルモンは、体のアクセルを踏む、体を元気にするような役割を果たしています。甲状腺ホルモンが出すぎている(甲状腺機能亢進症)と、代謝が高まるため体温が上昇し、多くの汗をかきます。また、交感神経が活性化されるので脈が速くなり、活気が出ます。
正常だと甲状腺ホルモンの分泌量は厳密に調整されますが、亜急性甲状腺炎では、炎症により調節機能とは無関係に、大量の甲状腺ホルモンが血液中に放出されてしまいます。その結果、甲状腺ホルモンに関連した症状が過剰に現れてしまいます。風邪の後、ウイルスが甲状腺に入ることで炎症を起こすのではないかと考えられています。
症状
亜急性甲状腺炎は、上気道感染症に引き続き発症することがあります。初発症状は甲状腺周辺の首の痛みで、徐々に増強することもあれば急激な痛みとして発症することもあります。亜急性甲状腺炎に関連した痛みは激烈なことが多く、首を触られるだけでも嫌だというケースも多いです。また、あご・耳・肩などにも痛みが生じることがあります。首をのけぞる、咳をするなどの動作がきっかけとなって症状が増悪することもあります。その他、発熱や食欲不振、筋肉痛もよくみられる症状です。
亜急性甲状腺炎のおよそ半数の患者さんに、甲状腺機能亢進に関連した症状が出現します。甲状腺ホルモンが大量に放出された状況は、患者さんにとって常時走っているような状態に類似しています。そのため、
- 脈が速くなる
- 心臓がドキドキする
- 疲れやすい
- 眠れなくなる
などの症状がみられることもあります。
亜急性甲状腺炎に関連した痛みは一過性であることが多く、2〜8週間ほどの経過で改善します。甲状腺ホルモンが出過ぎた後で甲状腺ホルモンが逆に低下する方もいますが、多くの場合は時間経過と共に甲状腺機能は正常に回復します。一部の患者さんでは、永続的な甲状腺機能低下症を続発したり、亜急性甲状腺炎が再発したりすることもあります。
検査・診断
亜急性甲状腺炎では、血液検査や超音波検査などが行われます。血液検査では体内で炎症反応が強く出現していることを反映して、CRPや赤沈と呼ばれる炎症項目が異常高値を示します。また、亜急性甲状腺炎では大量の甲状腺ホルモンが血液中に分泌されている状態であり、甲状腺ホルモン(T4やT3と呼ばれます)が高くなっています。甲状腺ホルモンはTSHと呼ばれるホルモンの調整を受けているのですが、亜急性甲状腺炎ではTSHが低下していることも特徴のひとつです。
亜急性甲状腺炎では、甲状腺の腫れがみられたり、炎症に関連した所見を認めたりすることがあります。時にラジオアイソトープ検査が行われることもあります。
治療
治療の基本は、痛みに対する疼痛管理と甲状腺機能亢進に関連した症状に対する対症療法が中心です。亜急性甲状腺炎の痛みは激烈であることが多く、その場合は解熱鎮痛薬が適宜使用されます。痛みの症状が強い場合には、炎症の沈静化を期待してステロイドが処方されることもあります。甲状腺機能亢進症状は、基本的には一過性であり、また許容できる範疇であることも多いため、無治療で経過をみることもあります。動悸や手足の震えなどが強い場合は、β遮断薬と呼ばれる薬剤を使用することがあります。
亜急性甲状腺炎の急性期治療において重要なのは、抗甲状腺薬が必要なバセドウ病との鑑別を誤らないことです。亜急性甲状腺炎は一過性の甲状腺機能亢進症であり、抗甲状腺薬は不要です。長期的には甲状腺機能低下症を発症する方もいます。その場合には、適宜甲状腺ホルモンの補充療法も検討されます。
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