概要
腹膜偽粘液腫とは、虫垂や卵巣などに発生した腫瘍が破裂しておなかの臓器を包む“腹膜”に細胞が撒き散らされ、その細胞が産生した粘り気のある液体(粘液)がおなかの中にたまる病気です。非常に珍しい病気であり、明確な発症メカニズムは現在のところ解明されていません(2020年6月時点)。
発症しても、おなかの中に粘液が多く貯留しておなかが膨らむようになるまで痛みや発熱などの症状は見られません。そのため、健康診断や人間ドックなどの画像検査で偶然発見されるケースもあります。急性虫垂炎や卵巣腫瘍として発見されることもしばしばあります。しかし、病気が進行するとおなかの中にたまった粘液が肺を圧迫して呼吸困難を引き起こしたり、粘液が固まっておなかの中の臓器を圧迫することで鼠径ヘルニアなどを引き起こしたりすることも知られています。リンパ節や肝臓などのほかの部位に転移することはまれとされています。
治療は手術による腹膜の切除と腹腔内の抗がん剤治療が行われますが、非常にまれな病気であるため正確な診断が下されず、適切な治療を受けられないことで命を落とすケースも多いのが現状です。
原因
腹膜偽粘液腫の発症メカニズムは明確には解明されていません(2020年6月時点)。
この病気は典型的には良悪性で良性から悪性のケースまで幅広く存在し、近年の研究では、悪性のケースでは腫瘍の細胞に上皮増殖因子受容体と呼ばれる特殊なたんぱく質が発現していることが多いとの報告があります。そのため、特殊なたんぱく質の発現を促す何らかの遺伝子変異が発症に関与している可能性が指摘されています。
症状
腹膜偽粘液腫を発症すると、おなかの中にゼラチンのような粘液がたまるようになります。
腹痛や発熱などの症状は通常なく、早期段階で発症に気付くことはまずありません。そのため、健康診断などで偶然発見されるケースも多いとされています。
しかし、病気が徐々に進行するとおなかの中に粘液がたまったり、粘液が固まってしこりのような塊を形成したりするようになります。その結果、おなかが異常に膨れ上がったり、肺が圧迫されて息苦しくなったりするといった症状が現れるようになります。また、粘液やしこりが周辺の臓器を圧迫することで鼠径ヘルニアを引き起こしたり、尿管の圧迫によって腎機能が低下したりするなど、さまざまな症状が見られるようになります。
また、場合によっては腸や膀胱に穴が開いて重篤な状態に陥ることも報告されています。そのほか、まれにですが、胸腔内へ進展することも知られています。
検査・診断
症状などから腹膜偽粘液腫が疑われるときは、診断のために次のような検査が行われます。
画像検査
原発の同定やおなかの中にたまった粘液や形成されたしこり、周辺臓器への圧迫の有無などを評価するため、主にCTによる画像検査が行われます。原発巣の同定のために虫垂や卵巣の腫大がないか確認したり、粘液貯留を示唆するscalloping signなどの腹膜偽粘液腫に特徴的な所見の有無について評価したりします。
血液検査
炎症や貧血の有無、腎機能、肝機能など全身の状態を把握するために血液検査を行うことが一般的です。また、がんの腹膜播種などとの鑑別を行うために種々の腫瘍マーカーを調べることも少なくありません。
病理検査
おなかの中にたまった粘液やしこりの組織の一部を採取して顕微鏡で詳しく調べる検査です。腹膜偽粘液腫の確定診断のために必須の検査ではありませんが、粘液を採取する際に粘稠(粘り気があり濃いこと)すぎてうまく外に出せないことは腹膜偽粘液腫に特徴的な所見です。治療を行う前に体表面から針を刺して組織を採取する方法と、手術によって切除したしこりの組織などを利用する方法があります。
治療
腹膜偽粘液腫の治療は、手術によって腹膜やしこりの切除と残された微小な腫瘍の消失を目指して、手術中におなかの中を温めて抗がん剤の散布を行う“術中温熱化学療法”を併用する方法しかないのが現状です。
予防
腹膜偽粘液腫の発症メカニズムは解明されていません。そのため、確実な予防法はないのが現状です。
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