院長インタビュー

いのちの平等をめざす−地域の医療・介護・福祉を支える勤医協中央病院

いのちの平等をめざす−地域の医療・介護・福祉を支える勤医協中央病院
田村 裕昭 先生

公益社団法人 北海道勤労者医療協会 勤医協中央病院 院長

田村 裕昭 先生

この記事の最終更新は2017年05月18日です。

北海道札幌市にある勤医協中央病院は公益社団法人の病院として、公益を目的とする病院運営を行っています。「いのちの平等をめざす」という理想の医療実現のため、24時間365日救急患者を受け入れる、無料・低額診療を実施する、などさまざまな試みを実施されています。

具体的にどのような形で「いのちの平等をめざす」のか。その実現のために、どのような取り組みを行っているのか、勤医協中央病院 院長の田村裕昭先生にお話を伺いました。

勤医協中央病院は「病院にかかりたくてもかかれないで困っている患者さんを助けたい」と考えており、その具体的取り組みとして「生活が困窮し、医療費の支払いが困難な方への無料・低額診療」や「へき地への医師の派遣」などを行なっています。

勤医協中央病院はそもそも公益社団法人が運営する公益のための病院です。公益を謳うからには、金銭的な都合により医療が受けられない、といった患者さんをゼロにすることが我々の使命だと思っています。そこで当院では、社会福祉法第2条第3項にもとづく指定を受け、第二種社会福祉事業として無料・低額診療を行っています。

これは、所得が生活保護基準並みか就学援助世帯で医療費を支払うことが困難な患者さんが社会復帰し、医療費を支払えるようになるまでの一定期間、窓口負担を無料もしくは低額にするというものです。独力では社会復帰が難しい場合、公的な制度を活用していただけるよう医療福祉課の職員がお手伝いもします。

勤医協中央病院の外観

北海道の、特にへき地では、病院や医師が不足している地域が多くあります。そのような地域における緊急時や災害時(たとえば昨夏の台風による水害や有珠山噴火、奥尻島地震災害、炭鉱事故など)に、勤医協中央病院では必ずと言っていいほど、医師や看護師を派遣しています。また、道内に限らず、他県での災害時などにも派遣を行っています。最近では、熊本地震や東日本大震災の際に当院の医師や看護師が現地で医療支援活動を行いました。

医師を派遣するということはその間、院内の医師の数が減ってしまうことになるのですが、勤医協中央病院では「困っている患者さんを助けたい」という理念を大切にしており、派遣している間も残った医師が協力し合って、日常診療を継続してきました。

「公益」を考えた場合、我々に患者さんを選ぶ余地はなく、依頼された全ての患者さんを受け入れ、治療する必要があります。その実現にはしっかりとした救急医療体制の整備が必要不可欠です。

勤医協中央病院では2013年に新病院へ移転したのをきっかけに、ER型の救急センターを設置しました。ERでは重症・軽症問わず、すべての患者さんを受け入れるべく努力を続けています。トリアージ(治療や搬送の優先順位を決める)を行い、場合によっては地域の他の病院へ搬送することもあります。

救急センターの設置で救急医療体制が強化されたことによって、救急の患者さんを24時間365日受け入れることができるようになりました。救急車搬入患者からの入院件数は北海道で一番多く(2015年度)、かつては年間3,000件ほどだった救急車搬入件数は、今では8,300件くらいにまで増えました。

救急センターでは救急専門医だけでなく、各診療科の専門医がバックアップ体制を敷いており、当番制で常時待機しています。診断未確定症例に対し、総合診療科が大きな役割を発揮し、総合的かつ専門的な医療をいつでも提供できる体制を整えて、地域の救急医療を支えています。

救急車

地域包括ケア時代をむかえ、医療・福祉・介護を地域全体で支えていくために、医師・看護師・介護士などが中心となって病院の垣根を超えた体制づくりにも積極的に参画しています。

東区在宅療養支援協議会はケアマネージャー、ソーシャルワーカー、看護師が中心となって創設した在宅患者さんのための医療ネットワークです。

東区在宅療養支援協議会では、在宅の患者さんの入退院の際に、病院とケアマネージャーが連絡を取り合って情報共有をするというルール「東区コンセンサス」を作成しました。東区コンセンサスによって、病院は入院直後から患者さんの情報を知ることができ、ケアマネージャーは退院する患者さんの状態を早期に知った上で退院後の在宅療養の支援準備を開始することができるようになりました。

病院相互および介護関係者の交流・情報共有の場として、札幌市医師会東区支部が中心となって、札幌市東区医療介護ネットワークを開設しました。当院もその幹事病院として情報交流を促進しています。

札幌市東区医療介護ネットワークでは「空床情報ネットワーク」というシステムを構築し、東区内の病院の空床情報をインターネット上で共有しています。これによって病院同士がよりスムーズに連携できるようになりました。

高齢の患者さんと医師

勤医協中央病院には、身寄りのない方や生活が困窮していて医療費が支払えない方など、さまざまな困難を抱えた患者さんがいらっしゃいます。無料・低額診療をはじめ、必要な人がきちんと国民皆保険制度で保障された医療を受けられるように支援体制を整えてきました。

高齢化社会が進むにつれて、身寄りのない高齢の患者さんが増えてきました。

そのような方が勤医協中央病院に入院し、治療の甲斐なく、残念ながらお亡くなりになった場合、病院長の私が家屋管理人として死亡診断書の届出人になることがあります。書類上の手続きをした後、当院のソーシャルワーカー、自治体のケースワーカー、心ある葬儀会社の方々が協力して、葬儀の段取りをつけて差し上げています。これは公益社団法人の病院の取り組みを葬儀会社が理解してくださっているからこそ実現できることだといえます。

勤医協中央病院にいらっしゃる患者さんで、身寄りがないのは高齢の方だけではありません。

50代で体調を崩して仕事を辞め、それによって保険料が払えなくなったため、無保険状態になり、病院に行くことすらできないまま自宅で我慢しながら過ごしていたという方がいました。どんどん具合が悪くなっていき、最終的にはドクターカーで勤医協中央病院に搬送されてきました。検査の結果、終末期のがんを患っていることがわかり、当院で緩和ケアを受けて亡くなりました。

このような身寄りがなく、経済的な理由で病院に行くことができないまま亡くなる「手遅れ死」は非常に胸が痛くなる事例です。

勤医協中央病院では、急性期救急、がん診療、専門的医療を柱に連携を推進する病院として患者さんに医療を提供しています。

これらの専門性を極めることも大切ですが、当院ではさまざまな角度から患者さんの問題点を抽出できるような、幅広い視点を身につけた総合診療専門医を養成することにも力を入れています。

総合性と専門性のバランスのとれた医師を育てることを目標に、勤医協中央病院では北海道における総合診療専門医養成の草分けとして、2002年にそのためのフィールドとなる総合診療病棟(2013年に総合診療センター)をつくりました。

総合診療センターでは、患者さんのさまざまな問題をその頻度や重症度に応じてきちんとケアできるように、多職種カンファレンス(医師だけではなく、看護師やその他の医療従事者を交えて患者さんの治療方針について話し合うこと)を行っています。多職種カンファレンスによって、幅広い視点で治療方針を決められるため、患者さんにとってより適切な医療やケアを提供することができるようになります。

今後も地域に貢献できる総合的な視点を持った医師を育てていくために、総合診療センターではこの多職種カンファレンスに重きをおきながら、総合診療専門医の養成を行っていきます。

勤医協中央病院では「ペイシェント・センタード・メディスン」という患者さん中心の医療を行うという考えを実践しています。患者さんとの信頼関係を大切にしながら治療を進めていくことを重視しており、治療方針を決めるには医師の診断だけでなく、本人の意向、そしてご家族の意向もしっかりと聞きます。当院では患者さんのご家族は医療チームの一員であると考えています。患者さんにとって最善の治療を行うためには、ご家族の協力が不可欠です。

患者さんと家族、医師が話しているようす

勤医協中央病院ではいのちの平等をめざして、地域で医療・介護・福祉を支えていく協力体制を整えることが重要だと考えています。

医療というのは人手がかかるのが大きな特色で、人がいなければ医療は成立しません。

今後北海道という地域で、人口が減少したときに、どのように医療資源の一端を占める人手を確保していくのかが大きな課題となります。勤医協中央病院では地域の医療機関とも密に連携して、必要な方がきちんと標準的な医療を受けられるように、「いのちの平等」を合言葉に、努力していきたいと考えています。

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  • 公益社団法人 北海道勤労者医療協会 勤医協中央病院 院長

    田村 裕昭 先生

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